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2018年7月14日(土)

核兵器禁止条約採択1年 その意義

国際関係に大きな変化

アイルランド政府前軍縮・核不拡散局長 ジャッキー・オハロラン大使に聞く

 核兵器禁止条約を一貫して推進してきたアイルランド政府の代表として、昨年7月の国連会議での条約採択に貢献したジャッキー・オハロラン前軍縮・核不拡散局長に、同条約の意義や発効への展望について電話インタビューしました。同氏は現在アルゼンチン大使としてブエノスアイレスに赴任しています。(ブリュッセル=伊藤寿庸)


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(写真)核兵器禁止条約交渉の国連会議に出席した日本共産党の志位和夫委員長(中央)と懇談するアイルランド外務省のオハロラン軍縮・不拡散副局長(当時、左端)=2017年7月6日、国連本部(遠藤誠二撮影)

 Q 条約の採択から1年たちましたが、あらためてこの条約の重要性についてどう考えますか。

 オハロラン 昨年の条約の採択は、核軍縮の歴史の里程標として巨大な重要性を持っていたと思います。国連加盟国のほぼ3分の2の122カ国が、核兵器を包括的に禁止する初めての法的文書に賛成しました。

 この条約は、地雷禁止条約やクラスター爆弾禁止条約と同じように、核兵器に対する規範として働きます。核兵器使用がもたらす人道的影響も、条約を大いに後押ししました。

 運動では、被爆者が大きな役割を果たしました。そのことが条約の中で承認されたのはとてもうれしいことでした。

 昨年7月7日の採択の瞬間はとても感動的でした。議場にいた人々は、その重要性を理解していたと思います。核軍縮の法律(条約)をめぐる国際関係の現実が大きく変化したのです。

 (カナダ在住の被爆者)サーロー節子さんの発言でも、この条約採択が核戦争の生存者にとってどれだけ重要だったかがはっきりと示されました。

 Q 条約発効への進展についてはどう考えていますか。

 オハロラン わずか1年間で、禁止条約の批准は大きく進みました。今月5日には、コスタリカが11番目の批准国となりました。各国で手続きが完了するとともに、次の1年でさらに多くの署名、批准が続くと思います。

 加えて禁止条約に対する認識が高まってきました。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)へのノーベル賞授賞もその一つです。フランシスコ・ローマ法王も支持しています。英国国教会も8日、禁止条約と核廃絶を支持する決議を採択しました。

 同時に重要なのは、多くの金融機関が、核兵器を製造・開発する企業には投資をしないと発表していることです。

 条約の2、3年以内の発効に向けて手続きが進むとともに、核軍縮の大義に貢献する別の方法もこのように進んでいます。

すべての政府・市民社会と核兵器廃絶への努力強める

禁止条約はNPTもCTBTも掘り崩さない

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(写真)核兵器禁止条約を採択して総立ちの拍手で閉幕を迎える国連会議=2017年7月7日、ニューヨーク(池田晋撮影)

 Q アイルランド政府は今後、禁止条約の発効促進、さらに「核兵器のない世界」に向けてどのように取り組んでいくつもりですか。

 オハロラン アイルランドは、禁止条約を推進してきた中核国であることを誇らしく思っています。今後も、他の政府や市民社会と協力して条約を強く支持していきます。

 わが国自身も、今年中に条約を批准できるように手続きを迅速化しています。

気候変動も関係

 並行して、核不拡散条約(NPT)の再検討プロセスにも大いに貢献していきます。これも核兵器廃絶を実現する非常に重要な場だからです。他のNPT調印国とともに、NPTの核廃絶に向けた柱(核兵器国の核軍縮義務)を強めるよう努力を続けていきます。

 すべての政府と連携し、市民社会を支持することを通じて、あらゆる場で、核兵器廃絶を目指す努力を強めていくつもりです。

 禁止条約は、核軍縮の取り組みで男女に平等な役割があること、核兵器使用がジェンダー(性別)によって異なった影響を与えること、被爆者が役割を果たすことにも言及しています。

 アイルランド政府は核兵器禁止が、「持続可能な開発目標(SGDs)」や気候変動とも密接な関係があると考えています。そういった課題に取り組む人たちにも核廃絶の対話を広げ、核兵器の大きな危険をもっと理解してもらいたいと思います。政府としても調査研究に取り組んでおり、来年は気候変動と核兵器について研究する予定です。

 もちろん第一の目標は、禁止条約の発効です。

 Q 北大西洋条約機構(NATO)諸国は、核兵器禁止条約がNPTを破壊するから反対だと主張していますが、どう考えますか。

 オハロラン 同意できません。核兵器禁止条約はNPTを強めると考えています。122カ国が、核兵器を保有せず、他国の保有も助けないという条約に賛成したことは、NPTの核廃絶の柱を強めています。NPTは常に、核廃絶の開始にあたっては追加的な法的文書が必要となることを展望してきました。

 私たちは、禁止条約がNPTを補完する条約だという立場です。禁止条約のいかなる部分も、NPTや包括的核実験禁止条約(CTBT)を掘り崩すものではありません。

 そして2020年のNPT再検討会議が成功するよう努力を強めていきたい。それが私たちの核軍縮、核不拡散政策の主要な目標です。アイルランドは1950年代にNPTの最初の提唱国となって以来NPTに深く関わってきました。そのことと禁止条約への支持は完全に両立します。

核なき世界可能

 Q アイルランド大統領から毎年、原水爆禁止世界大会にメッセージをいただいています。核廃絶に向けた政府と市民社会の協力の重要性について、どう考えますか。

 オハロラン 核廃絶へ向けた努力の中で市民社会の活動は決定的に重要です。核廃絶とは、人類の安全や地球の未来がかかった問題です。核廃絶の目標の実現のために、政府と市民社会が協力することは重要であり、非常に効果的です。8月の世界大会には、軍縮・核不拡散局から代表を派遣します。

 市民社会、とりわけ被爆者の方々の勇気と努力を高く評価しています。この新たな条約によって「核兵器のない世界」の実現が可能になったと思います。広島、長崎への原爆投下のような破壊を他の都市や他の人類がけっして体験することのないように、すべての人が活動を続けていくよう激励したい。

 この新たな条約の採択と今後の発効を通じて、核兵器という存在の終わりが来ることを目指していきます。


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