2018年5月8日(火)
相次ぐ精神障害者の監禁
「人ごとでない」 関係者語る
相談・支援体制の整備を
精神障害のある人が家族によって長年監禁されていた事件が相次ぎました。「決して人ごとではない」―。関係者がこう語る背景に何があるのでしょうか。(岩井亜紀)
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「社会、情報、支援の3点から孤立しているという問題を背景に、精神障害のある家族は自宅で看護するしかない状態に追い込まれています」。こう語るのは、精神障害者の家族でつくる「全国精神保健福祉会連合会」(みんなねっと)の小幡恭弘事務局長です。
兵庫県三田市で、40代男性が自宅敷地内のプレハブ内のおりに閉じ込められているのがみつかり、父親が4月、監禁の疑いで逮捕されました。監禁は約25年に及ぶ疑いがあるといいます。
昨年12月には大阪府寝屋川市で、30代の女性が十分な食事を与えられず衰弱し、凍死。女性はプレハブに外側から鍵をかけられておよそ20年間閉じ込められていました。両親が監禁などの疑いで起訴されています。
監禁させられていた男性と女性はいずれも、精神障害がありました。
隠す風潮根強く
「家族に精神疾患を患う人がいることを隠そうとする風潮は、改善されてきたとはいえ根強く残されています」と小幡さん。その理由として、精神疾患に対する無理解や偏見、精神保健の予防策と教育の欠如をあげます。
三田市の男性の父親は20年以上前に市に相談し、男性は障害者手帳を持っていました。寝屋川市の女性の両親は2001年に受診し、障害年金を受給していたといいます。
それでも福祉や医療との関係が途絶えてしまったのはなぜか。
信頼できる相談者がいなかったり、必要なだけ相談できる体制が整備されていなかったりするからです。
「入院経験のある精神障害者の多くは、病院側の対応から、医療従事者は信用できないと思っています」。こう話すのは、土屋晴治さん(62)=北海道江別市=。自身も精神障害があります。「知人の中に、窓口負担が1割の自立支援医療のことを誰からも知らされず、受給者証を持っていない精神障害者がいました。入院しても制度の説明をしてもらえなかったようです」
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行政は実態見て
みんなねっとが昨年、会員を対象に実施した調査(回答数3129件)によると、30%超が「相談できる人がいない」と回答。障害福祉サービスを利用していない人は39・8%にのぼりました。
また、日常生活や社会生活に著しい制限がある、身の回りのことがほとんどできない「重度」の人は462人。このうちの44・5%もの人が障害福祉サービスを利用していないことが明らかになりました。
小幡さんは「“監禁”は決して許されるものではありません。しかし、重度の精神疾患がありながら日中特に何もすることがなく、当事者ご本人と家族が望む支援が受けられず家族の看護だけで生活している人が相当数いることが推測されます」と指摘します。そのうえで、73・3%の家族が日常的にストレスを抱え、60・4%の親が精神的な健康に問題を抱えていると語ります。
同調査では、50・9%の家族が、病状が悪化した際に暴言や暴力がみられたと回答。27・4%の家族はこうした状態になったことはないとしました。
寝屋川市の女性を監禁した理由も、女性が暴れたり奇声を発したりしたからだといいます。
「行政はこうした実態に目を向けてほしい」と小幡さん。「早期治療や精神障害に対する無理解・偏見の克服、利用しやすく人権に配慮された医療や福祉施策の充実や利用しやすさが求められます」と強調します。
土屋さんは訴えます。「親とはいえ、障害者の人生を奪っていいのでしょうか」