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2018年5月6日(日)

“過払い”天引きは権利侵害

生活保護法改悪法案

利用者が提訴、裁判勝訴も

 生活保護や生活困窮者に関する改定法案が今国会で審議中です。衆院本会議で4月27日、野党6党欠席のまま同法は可決されました。この中には、保護利用者が保護費を受け取りすぎた場合、その分を天引き徴収できるようにする生活保護法改悪法案も含まれています。その問題点は何か。(岩井亜紀)


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(写真)厚労副大臣に生活保護改悪法案の一部削除などを求める要請書を手渡す尾藤弁護士(中央)ら=3月29日、厚生労働省

 生活保護利用者が年金を受け取れることが分かり遡及(そきゅう)して受けた場合などは、生活保護法63条に基づき返還します。福祉事務所の手違いなどで保護世帯に本来の額より多く保護費を支給した過誤払いも同様です。

 福祉事務所は、利用者に多く支給した金額内で返還を求めることができます。

全額免除も可能

 「ケースワーカーは利用者と話し合い、その世帯の実情を適切に把握したうえで、返還額を決めていくことが重要です」

 全国生活と健康を守る会連合会の安形義弘会長はこう指摘します。

 返還額は福祉事務所の裁量で決めることができます。家電製品や家具などその世帯の自立更生として使う場合などは、一部もしくは全額免除することも可能です。

 ところが、福祉事務所が返還額を一方的に決めてしまうことが少なくありません。このため全国で保護利用者が提訴し、勝訴する事例が相次いでいます。

 都内で中3の娘と暮らす40代の母親、山本みずほさん(仮名)への過誤払いの総額は59万1300円でした。分割して支払う月2千~3千円の額は数日分の食費に当たります。

 過誤払いになったのは、山本さんが福祉事務所に収入申告していた児童扶養手当を、福祉事務所が1年3カ月にわたり収入認定しなかったこと。さらに、冬に暖房代などとして保護世帯に支給する冬季加算を4月以降も支給したことによるものです。

 娘が必要としていた参考書やコートを我慢させる生活で、山本さんは収入申告していたため適正額が支給されていると思っていたので、生活費や養育費に使っていました。

「生活が苦しく」

 山本さんは2015年10月、福祉事務所を相手取り提訴。東京地裁は17年2月、山本さん勝訴の判決を言い渡しました。

 こうしたなか、安倍自公政権は生活保護法を改悪し、同法63条に基づく返還金を天引きできるよう狙っています。

 「本来ならば、過誤払いはあってはならない」。長年自治体職員として生活保護現場でケースワーカーや査察指導員を務めてきた田川英信さんは指摘します。

 田川さんは「福祉事務所が保護利用者の個別の事情を十分に考慮しないまま天引きしてしまえば、家計に柔軟性がなくなり、多くの世帯で生活が厳しくなるでしょう」と懸念を示します。

 安形さんは「ケースワーカーが一人ひとりに寄り添い信頼関係を築くことが必要です。それをせずに天引きしてしまえば信頼関係が崩れてしまう。これでは福祉とは言えなくなってしまう」と批判します。

 生活保護問題対策全国会議(代表幹事・尾藤廣喜弁護士)は意見書で、免除の余地がないまま保護費の返還を強いられるだけでなく保護費からの天引き徴収で、「健康で文化的な最低限度の生活を下回る生活を余儀なくされるという二重の意味で生活保護利用者の権利を侵害するもの」だとして、法案の当該部分の削除を求めています。

 生活保護法63条 資力があるにもかかわらず急迫時などに保護を利用した場合や、保護利用者の保護費以外の収入が未申告で後日判明した場合、費用の返還が求められます。返還額は、支給された額の範囲内で、保護の実施機関が定めることができます。


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