2018年3月21日(水)
主張
ロシア大統領再選
核で対抗と併合誇示の危うさ
ロシア大統領選挙で現職のプーチン氏が圧勝し、2024年までの通算4期目の政権をスタートさせました。「この団結の維持が極めて重要だ。ロシアの名の下に共に大仕事にとりかかろう」。モスクワの勝利集会で呼びかけたプーチン氏ですが、そこには世界の平和に深刻な影響を与える「大仕事」も含まれます。
生活と経済支援の一方で
今月1日に行われた大統領の教書演説は、すでに新たな6年の任期を展望した施政方針の披露でした。2時間に及ぶ演説の前半でプーチン氏は、初当選した2000年以来、旧ソ連崩壊後の混乱から国民生活と経済を立て直したと、貧困層の削減や出生率の上昇など成果を列挙しました。新任期で国内総生産(GDP)の倍加、2000万人の貧困人口の半減の達成、中小企業の支援強化、インフラ整備、地方都市間の空路の増強などを掲げ、アジアと欧州を結ぶ鉄道輸送の4倍化も打ち出しました。
しかし、そうした経済戦略を実行する際に必要な「安全保障」として大統領が公表した核兵器の増強は、世界を驚かせました。
大陸間弾道ミサイル(ICBM)80基や原潜3隻の追加配備、米国が日本や欧州で展開するミサイル防衛を突破する新型ICBMの開発、超音速ミサイルなど、核戦力の増強を映像も使い誇示し、「ソ連崩壊後に生じた巨大な穴はすべて修復された」と自賛しました。
プーチン氏は、米トランプ政権が「核態勢見直し」(NPR)で核兵器使用の敷居を下げたと厳しく批判しました。一方でロシアも「自国と同盟国への核・大量破壊兵器の使用、および自国への通常兵器による侵略で存亡の危機に立たされた場合、対抗で核兵器を使用する権利を持つ」と改めて表明しました。その後、米国のテレビに「新たな軍拡競争か」と問われ、それを否定せず、「核抑止力が無力化されないよう攻撃システムを向上させる」と言明しました。
核軍拡を「戦略バランスを保つ世界平和の保障」と正当化する大国主義的な態度は、隣国との領土をめぐる行動にも表れています。
プーチン氏は投票日直前、4年前にロシア軍の威嚇をバックに、「住民投票」をへてロシアに併合されたウクライナ領のクリミアとセバストポリを訪問しました。ロシアとの間の大規模な橋や国際空港の建設を視察し、「皆さんは母なるロシアに戻ってきた。発展のため多くのことをやる」と実効支配を進める構えを見せたのです。
この地域でもロシア大統領選の投票が行われました。ウクライナはもちろん、フランス政府などがそのことを非難しています。国連憲章違反の他国領土の併合後、欧米が発動した対ロ制裁は続いており、プーチン氏の掲げる経済向上は容易ではありません。
問われる日本の対ロ外交
安倍晋三首相は5月にも訪ロしてプーチン大統領と会談する予定です。唯一の戦争被爆国の首相としてロシアの新たな核軍拡に何を言うのか。クリミア併合、そして日本の千島列島、歯舞・色丹の占領・併合の根底にある覇権主義的な領土拡張の誤りを正面から正す立場で臨めるのか。首脳間の「信頼」や「経済協力」で日ロ領土問題が解決しないことは歴史が示しています。対ロ外交の抜本的な転換が強く求められます。