2018年3月6日(火)
シリーズ 憲法の基礎
平和的生存権 暴政と貧困からの解放
「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」。憲法前文にある「平和的生存権」の規定です。
その原型は、1941年8月にアメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相が会談し、第2次大戦の戦後処理の原則を確認した「大西洋憲章」にあるとされます。その第6項で、「ナチ暴政の最終的破壊の後…すべての国のすべての人類が恐怖及び欠乏から解放されてその生命を全うすることを保障するような平和が確立されることを希望する」とされています。
平和的生存権は、平和を「権利」として位置づけ、平和の保障をより実効的なものにしました。権利の主体は「全世界の国民」とされ9条の戦争放棄・戦力不保持に結びつきます。
平和が永続するための条件として「恐怖と欠乏」からの解放をうたっています。
「恐怖」とは、自由と民主主義を踏みにじる暴政であり、国家が戦争遂行のために国民の言論や運動を弾圧することを許さないということです。
「欠乏」とは、文字通り「貧困」であり、半封建的地主制度や無権利状態での労働者搾取のもとでの貧困が、海外侵略の衝動をつくり、社会に戦争支持の空気を広げる温床になったことへの反省があります。憲法25条以下の社会権保障に具体化されます。
平和的生存権は、学問的には「全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利」と位置付けられ、高く評価されてきました。
平和的生存権は、裁判で争うことのできる法的権利といえるかをめぐっては議論があります。名古屋高裁は、自衛隊イラク派兵違憲訴訟の2008年4月の判決で「平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認められるべきである」「裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合がある」という歴史的判断を示しました。(随時掲載、前回は2月27日付)