2018年2月8日(木)
主張
トランプ新核戦略
世界の流れに背く無謀な企て
トランプ米政権の新しい核戦略「核態勢見直し」(NPR、2日発表)は、核兵器を使う姿勢を強く打ち出し、新たな核軍拡の計画も示しました。核兵器廃絶の世界的な流れに逆行する危険で、無謀な企てというほかありません。
使用にまで踏み込む
NPRは「核攻撃の抑止が核兵器の唯一の目的ではない」とのべたうえで、「抑止が失敗した場合の米国の目標達成」も、その一つに挙げました。相手を「抑止」できなかった場合には、核攻撃も辞さないというものです。「潜在的な敵国」に「耐え難い結果」を理解させなければならない、とものべ、核兵器で攻撃されなくても、核兵器を使用することを明記しました。
73年前の「ヒロシマ・ナガサキ」の惨禍が示すように、核兵器のいかなる使用も非人道的で、破滅的な結果をもたらすことは明らかです。そのことを多くの国が理解し、危機感を深めたからこそ、昨年7月、核兵器禁止条約が実現したのです。昨年秋の国連総会では、禁止条約を支持する国から「核抑止のいかなる失敗も、かならず壊滅的な結果になる」との声が上がるなど、「核抑止力」論が厳しく批判されました。
自国の「目標達成」のためには、核の惨禍を与えることもいとわないトランプ政権の戦略は、核兵器の禁止・廃絶を求める世界の流れにも、人類の文明と理性にも逆行するものであり、許されるものではありません。
トランプ政権は、中国、ロシアや北朝鮮などの核戦力増強を口実に、大規模な核軍拡に踏み出そうとしています。総額は1・2兆ドル(約131兆円)にもなるといわれます。とりわけ、潜水艦から発射できる弾道ミサイル(SLBM)や核巡航ミサイル(SLCM)など、「使いやすい」小型核兵器の開発と配備をすすめようとしていることに懸念が高まっています。
「使いやすさ」を競えば、偶発的な核使用の危険が高まり、全面的な核戦争にエスカレートする恐れもあります。米国と旧ソ連の対立した時代のような核破局の危機を再現させてはなりません。
NPRが「安全保障環境」の改善が核軍縮の「前提条件」だといい、核兵器禁止条約は「非現実的な期待にあおられたものだ」と非難していることは重大です。「核抑止力」の対峙(たいじ)こそが、人類の安全と生存に対する脅威です。その根絶をめざした核兵器禁止条約は、緊張を緩和し、すべての国に安全を保障する道です。
安倍晋三政権はNPRの発表直後に、「抑止力」の強化として、これを「高く評価」(河野太郎外務相談話)しました。唯一の戦争被爆国で、核兵器の非人道性を認めながら、アメリカの核攻撃態勢の強化を“歓迎”するなどということは、世界と国民を欺くものであり、断じて認められません。核巡航ミサイルの原子力潜水艦などへの再配備は、日本への核持ち込みの危険を高め、非核三原則を蹂躙(じゅうりん)する可能性もあります。
被爆国にあるまじき態度
安倍政権の米核戦略への追随は、被爆国にあるまじき恥ずべきものです。すみやかに「核の傘」から離脱して、核兵器禁止条約に署名、批准をおこなうべきです。それこそが、日本とアジアの情勢を前向きに打開し、核兵器の脅威を根絶する道です。