1日48ミリシーベルト浴びた
「原発敷地外」が建屋内に
東京電力が公表した現場写真が注目を集めています。サッカーの練習施設として知られる「Jビレッジ」(福島県楢葉町)の雨天練習場に、放射能に汚染された廃棄物が山積みされている様子が写っています。
3月の原発事故から復旧作業についた作業員は延べ約48万人。その使用済み防護服や下着類です。
「山積みされた廃棄物のなかに、放射能と自分の汗にまみれた防護服や下着がある。命がけの装備品だよ」
西日本のM建設に雇われ、福島第1原発で7月から作業についた大川幸二さん(40代、仮名)の実感です。
元請けは日立GEニュークリアエナジーで、M建設は5次下請けです。第1原発での作業を統括したのは1次下請けのN社。大川さんの出身県からN社につないだのは2次下請けのY社で、その間にも2社が入りました。
作業も、当初言われていた「原発敷地外」が「敷地内の作業」となり、結局は原発建屋内の汚染水処理作業に従事させられました。
暑さと恐怖で
暑さの厳しい時期でした。高濃度の放射性物質からの放射線を遮断するための鉛板(20キロ)を背負って3階(通常の建物の6階分の高さ)まで上がりました。防護服と全面マスクによる暑さ、放射能汚染への恐怖から「心臓が破裂しそうに苦しく、マスクを何度はずしそうになったか」。
汚染水処理の配管作業で着用した暑さ対策のクールベストを、作業終了後に線量測定したら48ミリシーベルトを検出。国の放射線業務従事者規則の年間被ばくの上限50ミリをわずか1日で浴びたに等しい被ばくです。
Y社は大川さんの出身県から20人の作業員を原発作業に送り込んでいます。日当は1万1000円でした。
しかし現場で1次下請け関係者からの話で日当が1万6000円、危険手当もついていることを知りました。
大川さんは、Y社に対し、5000円がピンハネされ、支払われていない危険手当について説明を求めました。Y社のN社長は「業者間の暗黙の了解事項だから話せない」。
大川さんは、悔しさをにじませ「高い放射線被ばくの恐怖と暑さとのたたかいだった。それなのに日当や危険手当をもピンハネする何重もの下請け構造とそれを容認する元請けや発注した東電の責任を問いたい」。
かん口令通告
Y社の社長は市議から2010年の参院選(選挙区)、今年の県議選に「みんなの党」から立候補(いずれも落選)しています。
Y社が大川さんに署名させた契約書にはこうあります。「福島第1原発構内外を問わず知りえた情報は厳に秘密を保持し、報道機関からの取材は一切受けないものとする」
これには東電と原子炉メーカーなど元請けの意思が働いています。両者は事故後、全ての下請けにかん口令を通告、書面での同意を強要。東電を頂点とする原発業界の事故、不都合な事実を隠し続けるという、「安全神話」と表裏一体の隠ぺい体質の一端です。
携帯電話の待ち受け画面には、不況のあおりで廃業、別居生活中の家族の写真が。大川さんは過酷で無法・無権利な状態を告発する準備を進めています。(おわり)
( 2011年11月9日付)