レベル7 原発作業員の抵抗(中)

線量超え使い捨て

「異動無理なら退職せよ」

 「嫌なら辞めてもらうしかない」。原発作業員の岩崎徹さん(仮名、30代)は、会社の上司の発言に一瞬、耳を疑いました。会社は東電関連会社の下請けです。

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東電福島原発の元請け、日立グループの現地事務所=福島県広野町

 事実上の退職強要で、理由は原発作業での被ばく線量オーバーです。「線量を多くあびれば作業員は使い捨てられる」。原発業界での「暗黙のおきて」です。

長靴の底に穴

 岩崎さんは東電福島第1原発の緊急作業で、放射能汚染のたまり水処理などに従事。2時間で6ミリシーベルト近く被ばくする作業を3日連続で行いました。

 作業は全面マスクと防護服の完全装備です。それでも被ばくすることがあるといいます。「汚染水があるところでは長靴を履いてやるが、靴の底に穴があいている場合がある。穴は汚染水に入らないとわからない」

 作業現場に予備はありません。原発内の事務所に戻る時間も手段もなく、汚染水につかった長靴で作業を続けるしかないのです。
 そこでは汚染水を手短な用具ですくいあげるという原始的な作業が繰り返されたといいます。こうした作業で岩崎さんの被ばく線量は40ミリシーベルトに達したといいます。

会社都合優先

 原発作業の請負会社は、被ばく線量の上限を自主的に決め、それを超えると原発作業からはずします。岩崎さんの会社は20ミリシーベルトです。

 これは「年間被ばく線量は50ミリシーベルトを超えてはならない」という国の放射線業務従事者規則のためです。同時に40ミリシーベルト、50ミリシーベルトといった高線量被ばくの作業員を抱えることによる不利益を回避したいという都合です。

 ある熟練作業員はこう説明します。「白血病などを発症すると労働基準監督署による被ばく作業の追跡調査の対象となり、会社や元請けはこれを嫌う。線量を食う作業がきても使えず、効率が悪いという判断になる」。作業員の健康管理よりも会社の都合が優先されるのです。

 線量が20ミリシーベルトに近づいたとき岩崎さんは会社に「線量オーバーになり、他のサイト(原発)で働けなくなる」と作業の変更を再三、要請。会社の回答は「とにかく働いてくれ」でした。

 岩崎さんは原発内の自社倉庫の作業では、線量計の数値を増やさないために線量計をつけずに働く日が続きました。それでも40ミリシーベルトに達してしまいました。

 会社側は岩崎さんに、千葉県内の火力発電所などへの異動を指示しました。岩崎さんは家族との関係などから千葉への異動はできない、と伝えました。

 しかし会社は異動に応じなければ「退職するか、解雇されるかのいずれかだ」と退職を迫りました。

 岩崎さんは線量オーバーでの会社の無責任な対応、退職強要の不当性を指摘しました。会社側の態度は「労働基準監督署でもどこへでも言えばいい」という居直りでした。

 「東電は作業員の被ばく線量の責任ある管理など、労働実態をしっかりと把握し雇用や作業員の生活を保障すべきだ。それを抜きに原発事故の安全な収束はありえない」。岩崎さんはその思いを電話で東電に伝えました。

 東電の返答は冷酷そのものでした。「それは下請け会社が対応することだ」(つづく)

(2011年11月8日付)

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