レベル7 原発作業員の抵抗(上)

18歳、突然「原発へ」

眼下には核燃料棒2000本

 日本原子力発電株式会社の東海第2発電所原子炉建屋(茨城県東海村)のなか。格納容器上部のコンクリート製フタを開け、青みがかった使用済み燃料プールに向けて下ろされる水中カメラ。燃料棒の損傷などの有無、プール内の異物の存在確認などをします。

やっと就職も

 作業補助ながら汗ばむ顔面。全面マスク、防護服という密閉された皮膚感覚とは異質な恐怖が繰り返し襲います。「自分の若さでこんな仕事していて大丈夫だろうか」。佐藤浩一さん=仮名=は今春、福島県の高校を卒業したばかりの18歳。不況に加え、大震災で求人がなく、やっと就職したIT関連会社から、突然、原発作業を命じられました。

 原電によれば、同プールには使用済み燃料棒が1250本、定期検査で圧力容器から取り出して仮置き中が764本の計2014本が貯蔵されています。

 佐藤さんが、原発作業につくことになったきっかけは、福島県いわき市に伝わる無形民俗文化財の「じゃんがら念仏踊り」との出会いでした。そろいの浴衣で、鉦(かね)や太鼓を鳴らし、新盆の家々を供養して回る伝統芸能は「小さいときからの憧れ」(佐藤さん)でした。

 「じゃんがら」で知り合った渡部久氏(仮名、30代)の紹介で今年6月、いわき市のP社に就職。P社はホームページの立ち上げなどのIT関連企業。同市の若手経営者の起業を支援するいわき産官学ネットワーク協会が「(ITの)挑戦者」と紹介しました。

 しかし佐藤さんが就いたのは原発作業。当初は東電福島第2原発でしたが、「息子を殺すつもりか」との父親の抗議で、東海原発になりました。

 「防護服を着る作業はしない」との説明が、実際は原子炉建屋内でした。しかも別会社名の作業服、社員証も複数の会社のものを持たされました。P社は人夫出しをしていたのです。現場の作業指示も、雇用関係のない別会社で職業安定法違反が指摘されています。

「救い出して」

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宿舎を脱出した佐藤さんの携帯電話。1分おきに業者からの呼び出しの着信履歴が残っています

 8月中旬、日本共産党の渡辺博之いわき市議に、佐藤さんの母親から電話がはいりました。「浩一を救い出してほしい」。先にP社に入社していた渡部氏が「佐藤は仕事ができない」と暴力をふるっていたといいます。

 佐藤さんが、退職を口にすると「300万円の損害賠償で裁判にする」「ホールボディーカウンター(内部被ばく検査)を受けないと指名手配される」と脅迫したといいます。

 P社は佐藤さんをトライアル・震災特例対象者として採用。若者の正規雇用を促すとして、3カ月の試用期間中に毎月10万円、正規雇用になれば60万円を国が事業者に支給する制度。P社は、佐藤さんが退職すると受給が不可能になります。

 佐藤さんへの暴力は執拗(しつよう)でした。深夜、宿泊先のホテルで頭を壁に押し付けられ、渡部氏の手が佐藤さんの首を締め付け「殺される」と感じたことも。

 8月23日、佐藤さんは渡辺市議の付き添いでホテルを脱出。自宅に戻ってからも、P社の社長らが押しかけ、「このままでは指名手配になる」など脅迫的な言動を重ねました。

 渡辺市議から「佐藤さんが暴力など会社の仕打ちに耐えられず自殺を口にしていた」ことを知らされた母親は「絶対に許せない」と言葉を詰まらせます。

 佐藤さんは、「原発業界に吸い込まれたくない。暴力がまかり通り、食事代までピンはねされ、自分の知らない会社の社員にされて危険な原発の仕事をさせられた。こんなことは自分だけに終わらせたい」。労働局に訴える準備をしています。

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佐藤さんの自宅まで押しかけ「損害賠償で裁判にかける」と脅し、両親の抗議を受けて引き上げる原発下請関係者=8月29日、福島県いわき市内

 東京電力は、日本原電の筆頭株主で、東海原発の電力の最大の売電先でもあります。P社の元請けは日立GEニュークリアエナジーです。多重下請け構造のもとで、原発作業員に強いられる過酷な労働実態に迫ります。 (つづく)

( 2011年11月7日付)

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