安定した雇用の拡大、保育所
増設、原発ゼロ、TPP参加反対…話題の記事
認可保育所を増やしてと首相官邸前で訴えるお母さんたち=3月6日
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【シリーズ 保育所に入りたい!】
定員超え保育所7割 厚労省調査 減らない待機児童 弾力化実施で
認可保育園大幅増設 「用地ある」 待機児の解消迫る 東京都議会・大山都議の質疑から
【マツダ「派遣切り」裁判 勝利判決】
マツダの雇用責任を認定 「派遣切り」山口地裁判決 たたかう各地の原告を励ます
【基礎知識コーナー】
派遣問題を振り返る 戦後、間接雇用を禁止 直接雇用・正社員が当たり前
【連載 安倍政権が描く労働「規制改革」】
「聖域なき規制改革」を進める(施政方針演説2月28日)という安倍首相が再開した規制改革会議の本格的議論が始まっています。重点分野の一つに、雇用労働分野が提起され、第一段階として6月の「骨太の改革」に盛り込まれる見通しです。重大な問題点があります。(畠山かほる)
①通達規制廃止を提起
安倍首相が、「経済活性化のため」「柔軟で多様な働き方を進めるための規制改革を進める」(第4回経済財政諮問会議)というように、労働問題は規制改革の焦点となっています。
「柔軟で」とは解雇しやすい、「多様な」とは正規雇用中心ではなく有期や派遣などいろいろな雇用形態を増やす、ということです。
労働基準法など労働規制は、労働条件を企業の自由に任せては、弱い立場の労働者が人間らしい生活を営むことが困難となるため、憲法が要請しているものです。
規制改革会議の議論は、これら労働法制の意義を無視して規制をゆるめ、労働者の犠牲で、大企業に大もうけをさせようとしています。
とくに重大なのは、全分野にわたる課題として、「通達や行政指導による規制」を「原則廃止する措置を6月までに徹底」(第3回規制改革会議、大田弘子議長代理)するという提起です。
「通達」とは、法令の細部にわたる解釈・判断を統一するため、行政の上級機関が下級機関に示す文書のことです。
労働分野でいえば、いわゆる「4・6」通達があります。不払い残業の温床となってきた使用者の労働時間管理義務を明確にすることで、不払い残業の是正に大きな役割を果たしてきました。これをなくそうというのです。
また、残業時間が事実上青天井となる36協定の特別条項の適用期間を制限させる通達、労働時間規制の適用除外となる「管理監督者」の範囲を厳格にする通達など、労働者を守るためにきわめて重要な役割を果たしてきました。偽装請負や違法派遣の境界を明確にし、取り締まり強化を進めたのも、「通達」でした。
規制改革会議の議論は、残すべき「通達」があるなら、その妥当性を省庁側は規制改革会議にたいし、説明し了承を得なければならない、という一方的なものです。これまで規制緩和が必要という説明責任は、当然ながら同会議にありました。これを勝手に逆転させ、企業に邪魔な規制はなんとしても葬り去るという、強硬姿勢をむき出しにしています。
労働分野の「通達」は労働者・国民の告発やたたかい、また、これと結んだ日本共産党の国会追及で実現してきた貴重な成果です。廃止されれば、法改悪に匹敵する労働者の急速な状態悪化がすすみかねません。
②金銭解雇の自由化も
政府の規制改革会議で示された内容をみると、無効な解雇を金銭で可能にする、労働時間規制をなくしてただ働きを合法化する、派遣など低賃金で不安定な雇用をいっそう拡大する、などが特徴です。
とくに、「柔軟で多様な働き方」のカギとなる解雇ルールは、「解雇が無効であった場合の救済を多様化すべき」(第2回規制改革会議)との主張で、無効な解雇を金銭で解決できるように求めています。
現行法は、解雇について、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は無効(労働契約法第16条)と定めています。これは、労働者のたたかいが積み上げ最高裁判決で確立した「解雇権乱用法理」を規定したものです。
このうち、経営上の理由による解雇は、「整理解雇の4要件」(①高度な必要性②回避努力義務③人選基準の合理性④労使協議手続きの四つがないと無効)という判例法理が確立しています。
解雇は個別の事例により判断されるので、裁判などで争うことになりますが、解雇が無効となれば、企業側は労働者を職場復帰させなければなりません。労働者が応じれば、企業側は復職させずに金銭による和解をすることも可能です。労働者は、いまでも職場復帰か、金銭で解決かを選択できる立場にあります。
同会議が要求するように、無効な解雇を金銭で解決できる制度が導入されたら、選択肢が増えるのは企業側です。そして、職場の改善を求める労働者を、わずかな金銭で追い出すことも可能になります。また、正社員を解雇して、低賃金の非正規雇用に置きかえることも自由にできるようになります。
③残業代ゼロをねらう
規制改革会議は、労働時間ルールの緩和を重視しています。その一つが「事務系や研究開発系等の労働者のうち、一定の者については労働時間法制の適用のあり方を見直す」(第2回同会議)という主張です。企業犯罪である不払い残業を合法化するのが狙いです。第1次安倍内閣が2007年に強行しようとして失敗した「残業代ゼロ法案」を復活させようとするものです。
専門知識や技術などに基づき、創造性の高い業務を行っている労働者は、「労働時間の長短と…成果には直接的に結びつかない」と理由をあげています。
しかし、労働時間規制は企業が求める「成果」のためにあるのではなく、労働者の健康を守るために、企業側の責任を法が罰則付きで定めたものです。
現在でも、労働者は過大な業務に追われて長時間労働を強いられ、査定に響くからと残業代を請求できない状態におかれています。
ちなみに、企業側が労働基準監督署から支払いを命じられた不払い残業代(11年度)は146億円にのぼります。これは、たまたま露呈し是正された〝氷山の一角〟にすぎません。長時間労働による健康破壊や過労死も深刻で、精神障害による労災請求は年々増加しています。
労働時間規制が外されれば残業代コストという企業側の歯止めがなくなるためさらに企業は業務を増やし長時間労働を強いるようになるでしょう。健康破壊が一層深刻化することは間違いありません。
④裁量労働制企業任せに
政府の規制改革会議は、労働時間ルールの緩和について、もう一つ提起しています。「企画業務型裁量労働制」の対象業務・労働者を〝企業任せにしろ〟という主張です。
裁量労働制は、労働者が仕事の進め方などを自由にきめられることを前提に、あらかじめ労使がとりきめた時間を働いたとみなす制度です。財界の強い要求で導入されました。
「みなし時間」を超えて働いても、企業に残業代支払い義務は発生しません。罰則付きで制限されている労働時間の法規制を例外的にはずすので、導入にあたってはきわめて限定的な業務・労働者が対象となっています。
企画業務型は、「企画、立案、調査及び分析の業務」という四つの業務すべてを、常におこなっている労働者が対象です。「本社の経営戦略室の幹部候補など、ごく一部の労働者しか対象にならない」(厚生労働省)と想定されました。
しかし、実際には「NECで7千人に導入」など、裁量はなく会社の指示で働く広範な一般労働者に導入されています。いまですら問題が多く、違法状態が疑われるのが、この制度です。これを規制改革会議は、「労使の合意」で、「対象業務や対象労働者の範囲を決定」できるようにすべきとしています。
リストラの嵐が吹き荒れ、労働組合組織率が17%台のもとで、法規制をなくして労使の合意に委ねれば、企業任せとなることは、火を見るより明らかです。
⑤「派遣」を基幹的雇用に
規制改革会議は、労働者派遣法の根幹である「常用代替防止」の考え方を見直すと打ち出しています。
これは、例外的な雇用とされている派遣労働を、正規雇用と並んで基幹的な雇用形態の一つに位置づけようとする、非常に重大な提起です。同会議内の雇用ワーキング・グループの座長・鶴光太郎氏(慶応大学教授)が、第3回同会議で示したもので、「今後の議論のポイント」にしていくとしています。
派遣労働は、アルバイトや契約社員、正社員などと異なり、実際の使用者(派遣先企業)が雇用責任を負わずにすむ間接雇用とよばれる雇用形態です。そのため、契約期間中でも簡単に契約打ち切りが行われるなど、労働者に不安定で無権利な働き方を強いています。
もともとは、戦後、罰則付きで禁止されたもの(職業安定法第44条)ですが、財界の強い要求があり、1986年「常用雇用の代替禁止」を前提に、例外的に「臨時的、一時的」な場合にのみ施行されました。その後、次第に広範囲に解禁され、現在では建設や医療などを除くほとんどの業務に解禁され、派遣期間も延長されています。
13日のマツダ「派遣切り」裁判の地裁判決で、原告の労働者たちが正社員と認定されたのは、「常用代替防止」「臨時的、一時的」という派遣労働の原則に実態が反していたからでした。
この原則が変更されると、違法状態で働かされている派遣労働者が救済される道は閉ざされかねません。本来、正社員でおこなうべき恒常的業務に派遣が置き換えられ、不安定で無権利な雇用と低賃金労働が横行する社会を招くことになります。
リーマン・ショックの際、大量の「派遣切り」が起きて社会問題になったように、派遣労働は規制強化こそ求められています。
同会議は、ほかにも、これまで「チーム医療の現場に派遣はなじまない」と批判されてきた看護師をはじめ、薬剤師、保険師など医療関連業務への解禁をあげています。
また、原則1年(労働組合などの意見聴取をした場合3年)の期間制限がある一般業務を5年に延長するとしています。一般業務とは、翻訳・ソフトウエア開発など専門的な26業務を除くすべての業務。26業務の場合は期間制限がありません。
⑥財界の要求を丸のみに
規制改革会議が示した提起は、経団連が政府に再三要望してきたものとうり二つです。それは「国民一般、経済界等から寄せられた規制改革要望のうち、その代表的なものを整理し、分野別に列挙した」(第2回規制改革会議)ものです。これをどう扱うのか。同会議の大田弘子議長代理は、会議の進め方について指摘します。
「規制改革は『何を』やるか以上に、『いかに』進めるかが問題」「すでに議論は尽くされているので、改革工程表づくりから着手する」(第2回同会議)
経済界が私利私欲のため、思うがままに主張した要望を、無批判にそのまま受け入れ、実施の具体化をすすめるというのです。その内容が、憲法の要請に基づいて社会的弱者の労働者を保護している規制であっても、躊躇(ちゅうちょ)はありません。
まさに、財界要求丸のみ。〝財界の財界による財界のための規制改革〟であることを公言したようなものです。
そもそも規制改革会議とは何なのか。とくに労働分野は、公労使3者で構成する労働政策審議会で議論・検討することが、法で義務付けられています。ところが、これでは時間がかかりすぎるとして、首相がトップダウンで指示する手法が、この十数年続けられてきました。
安倍政権が再開させた経済財政諮問会議、規制改革会議がそれで、新設の産業競争力会議と連携して進めるとしています。
メンバーも内容も首相がきめます。労働側代表が指名されたことはなく、産業界の代表と財界の立場に近い学者などかたよった構成です。そこでの内容を閣議決定し、結論ありきで審議会に確認させて法案化していく強権的なやり方です。
このような労働者・国民を犠牲にして、財界に奉仕する「規制改革」を、許すわけにはいきません。日本の労働者・国民は、歴代自民党政府の悪政をつぶしてきた実績があります。今回、狙われる金銭解雇の自由化や事務系労働者の労働時間規制の適用除外(ホワイトカラー・エグゼンプション)も、その一つでした。ひるむことなくたたかいに立ち上がることが求められています。
(おわり)
【連載 歩み悩んで 若い教師たち】
子どもたちと充実した日々を過ごしたい。教師として少しずつ成長したい。だけど、ちょっとしんどい。でも…。若い教師の思いを追いました。(堤由紀子)
①ここには希望がある
ここには希望がある―。一般企業で過酷な働かされ方を強いられて失いかけた〝希望〟を、学校現場で取り戻した教師がいます。
教員免許をもちながら、流通関係に就職した大木忠弘さん(25)=仮名=。「親への反発というか、自我の目覚めというんでしょうか」。しかし、社会は甘くはないと身をもって思い知らされました。
大学卒業後、東京都内の企業に就職。ところが、マンツーマンで指導するリーダーは「おれはあと半年で辞める」と宣言していました。「すごく仕事ができる人なのに。おれはなんでこんなところに入ってしまったんだろうと後悔しました」
次のリーダーは、慣れない部署での指導を任されたことがプレッシャーだったのか、ストレスを発散させるためだったのか、ことあるごとに大木さんに手をあげました。
会社に行くのがいやになり、会社を見ると吐き気がするようになりました。仕事を辞めて、やっぱり教職をめざそうか…。悩む大木さんの頭に浮かんだのは、学生時代に何度も教室を訪問して世話になってきた元小学校教師、霜村三二さん(63)でした。
「相談したいことがあります」とメールを送ったら、すぐに電話で「教室においで」と言われました。
霜村さんが振り返ります。「もともと子どもたちと遊ぶのが好きな人だったんです。一日中教室にいれば教職のイメージがはっきりするかなと思って」
食べる物も食べられなかった大木さんは、激やせしていました。
教室で授業を見学し、休み時間に子どもと遊ぶ。その空間に大木さんはすーっと、とけこんでいきました。
「会社では新人のレッテルを貼られて、自己肯定感みたいなものはありませんでした。教室ではおとなとか子どもとか関係なく、どんな時でも受け入れてくれるフラットな空気を感じたんです。こんな感じで一緒にやれたら楽しいよね、と後押ししてもらいました」
年が明けて2年前の1月末に退職。すぐに臨時教員として採用が決まりました。
学校現場もつらいと聞き、覚悟していた大木さんでしたが、3年目の今もとても楽しい。交通指導のようなちょっと面倒くさい仕事でも、「子どもの顔が覚えられるから」と率先して引き受けます。
教師同士の関係はとてもいい。学年会にはお菓子を持ち寄り、子どもの話でワイワイと盛り上がります。
「やりたいことがあったら、何でもやってみたらいい」「困ったことがあったら何でも言ってみて」。ものすごく忙しい中でも、手を止めて話をきいてくれます。「周りのつながりに本当に恵まれています。ありがたい」
教師という前に、子どもにより近い、ちょっと上の年代のお兄さんのような存在になりたい、と大木さん。教えたいこともあるけれど、いつも子どもたちと一緒に考えたい。それが教師だと―。
②子どもたちのエール
元小学校教師の霜村三二さん(63)のもとには、何人もの若い教師から相談が寄せられていました。
「もう教師を辞めよう」。昨年秋、埼玉県の小学校教師、小林香さん(23)=仮名=は思い詰めていました。ちょっと上の先輩からの目線と、一言ひとことがつきささるからです。
朝、初任者がみんなの机を拭くのが伝統の学校でした。納得できないままこなす自分が嫌になり、誰よりも早く来て拭いたふりをするようになりました。
夜遅く帰る毎日でくたくたになり、今日は早く帰ろうと席を立つと、「よく仕事が早く終わるね。私が初任者の時には考えられなかった」と言われました。同期の初任者は「今年の初任者研修は甘いから、何もできない」とまで言われました。
聞き流すことができず、胸につきささってしまうのには、わけがありました。目が回るほど忙しいし、クラスの運営もうまくいかなくて、心が折れそうだったからです。
クラスがちょっとでも騒がしいと、両隣の教師がすぐにとんできます。それがいやで子どもを怒鳴りつけたり、にらみつけたりしてしまう自分もいや。もしかしたら自分は子ども好きじゃないのかも…。いや、そもそも教師なんて無理かも…。
たまらなくなった小林さんは、霜村さんに電話で泣きながら訴えました。大学時代の友人もかけつけて、話を聞いてくれました。
「無理することないよ。いつでも辞められる」。こう言ってくれたのは、パワハラが横行する民間職場を辞めて教職に就いていた大木忠弘さんでした。
小林さんはハッとしました。
「そうか。先々まで心配して、全部完璧にと思うから苦しくなるんだ」
いちばん大事なことは何? それはやっぱり、子どもと向き合うことではないのか―。
思えば、実家では子どもの話ばかりしていました。「子どもに集中しよう」と覚悟を決めたら、肩の力がすうっと抜けました。
机を拭くために朝早く学校へ行くのはやめました。子どもに直接かかわること以外は、聞き流すことにしました。「ピリピリした気持ちが消えて、子どもも私の話をよく聞いてくれるんです」。なんとかやれるかもしれないと思えるようになりました。
2学期の終業式の日、「先生のこと評価してみて。好き勝手に書いていいよ」と画用紙を渡しました。子どもたちはのびのびと評価しました。
「黒板の字をまっすぐに書ける―もう少し」「忘れ物をしない―もう少し」。そして「運動ができる―がんばりましょう」…。自分へのエールのように思えました。
教室の雰囲気が伝わったのでしょう。「来年もぜひ」と保護者会で言われました。
なぜ先輩は自分に厳しくあたるのか。それは個人の問題ではないかもしれない、と考えるようになりました。
③追いつめるしかけ
なぜ、若い教師への目線が厳しくなってしまうのでしょうか。
「何をやっても怒られました」
1年目の教師、金田詩織さん(22)=仮名=は、学年主任と緊張関係にあります。
「わからないことがあったら聞いて」と学年主任に言われ、最初は教えてくれました。そのうちに「自分で考えなさい」と怒られるようになりました。自分の考えを言ったら、「そうじゃない」と怒られ、言われた通りにすると「自分がない」と言われました。
「『あなたは初任者だから』という目で、いろいろ言われてきた」というのは、2年目の森井博史さん(25)=仮名=。1年目も2年目も同じことをやっているはずなのに、1年目は何かにつけて「甘い」「もっとできるはずだ」と言われました。
若い教師の相談にのってきた元教師の霜村三二さん(63)は、こう指摘します。
「競争やら管理やらで教師同士が追い込まれ、お互いを管理し、イライラを弱いところに向けてしまっているのではないか」
多忙化はエスカレートするばかりです。全日本教職員組合の「勤務実態調査2012」によれば、1カ月の平均時間外労働は90時間。過労死ラインの80時間を超えています。06年の文部科学省調査と比べ、土日の勤務時間は2倍近くに増えました。
子どものために共同すべき同僚が競争相手になり、多忙が追い打ちをかけ、ピリピリした空気が学校現場を覆い、教師を追いつめています。
11年度にうつ病などの精神疾患で休職した公立学校の教員は5274人と高い水準のままです。病気休職者のうち、精神疾患が理由の休職者は6年連続で6割を超えました。
毎年100人を超える教師が自ら命を絶っています。病気が理由で離職した初任者のうち、9割が精神疾患によるものです。
文科省や教育委員会も、働き方が過酷であることを認めるようになりました。教職員が運動を重ねた結果、初任者のしんどさにも目が向けられるようになり、研修は少しずつ改善されてきました。
ところが、やっとの思いで1年目をくぐり抜けたちょっと上の先輩の中には、負担減を喜び合うのではなく、「私はちゃんとやったのに」との思いをぬぐえない人がいるのではないか、と霜村さんは感じています。
厳しい1年目があって今の自分があり、しんどい毎日でもなんとかやれていると思ってしまう。「だから、初任者の悩みや願いに耳を傾けるのではなく、ビシビシ鍛えようとするのでしょう」
押しつけの指導は初任者に受け入れられません。指導する教師も評価されるため、あせりも生まれます。「言わなくてもいいような言葉までぶつけるほど、追いつめられる。こうした教師の孤立を支え合いにかえる必要があると思います」
④そっと背中を押され
大丈夫。あなたのよさを生かしてごらん―。そっと背中を押された若い教師が、自分より若い教師をやわらかく包みます。
育児休暇を終え、4月に復帰予定の桜井夏美さん(27)=仮名=。保育園に入れるかどうか不安です。でも、職場環境に不安はありません。
産休は産前8週間前からとれますが、初任者の指導教官だったため、6週間前まで働きました。「家ではグッタリなのに、学校では不思議と体が動いた。初任者とも妙に気が合って楽しかったんです」
桜井さん自身は、自分の考えを押し付ける先輩との関係で苦しみました。学校外のサークルで「あなたのようにやわらかい先生がいてもいいんだよ」と背中を押されました。
うまくいかないのは、自分に力がないからじゃないんだよ―。苦しかった自身の体験から、自分より若い教師が職場に入ってきたら同じように接したいと思っていました。
桜井さんの初任者への視線は実にやわらかい。当然のように仕事を押し付けるのではなく、「学校ってこんなことやらなきゃいけないの」と〝くだらなさ〟を共有し合いました。
バラバラにされそうな職場の関係をつなぐため、教職員組合も大きな役割を果たしています。
東京都内の特別支援学級の教師、真木慎一さん(27)=仮名=は組合員。職場をこえて若い教師をつなげたいと願っています。2月半ばには、青年教師による青年教師のための自主的研修「元気いっぱく」成功のために奔走しました。
幸いなことに、真木さんは「つらいときは誰にでもあるから、支え合おう」が当たり前の職場にいます。自身も職員会議で踏ん張って発言し、行政に要望を続けています。
なぜ支え合う関係が職場にあるのか。子どもをどう見るかについて議論し、子ども観を共有させて協力しなければ、特別支援教育は成り立たないという事情もあります。でも、それだけではないと感じています。
「以前はほとんどが組合員だったと聞きます。職場のつながりを大事にする雰囲気が受け継がれ、若い人や立場の弱い人をフォローするのは当たり前、という感覚があるんじゃないでしょうか」
しかし、行政は何かと予算を渋るため、真木さんのストレスはたまる一方です。「子どものために大事だよね」と身銭を切ってまでして行事にとりくんでも、金食い虫のように言われてしまいます。
校長に強い権限が与えられ、普通の職員の意見が職場づくりに、なかなか反映されないこともストレスです。
「こんな思いまでして行事を維持するのはどうなの?」とくじけてしまいそうで怖い。だからこそ、教職員は子どものために支え合う関係でありたい…。真木さんの願いです。
⑤悪名高き「研修ノート」
教師1年目ってなぜこんなに忙しいの? それって、子どもと向き合う時間を削ってでもやらなきゃいけないことなの? その一つが、京都府の「初任者研修ノート」でした。
京都教職員組合青年部の前書記長、中西啓樹さん(33)は、2004年度に「ノート」と格闘しました。研修内容を要約する「まとめ欄」と「感想欄」「指導教官の記入欄」でA4判1枚。年に52項目ある校内研修ごとに書かされました。
提出する先々で付せんが貼られ、直しが入ります。その様子を、仲間うちで「ひまわり」と呼びました。
例えば、指導教官に提出すると「子ども→児童」と赤字が入ります。校長に出したら「児童→子ども」。指導主事は「子ども→児童」…。「あほらしくてやってられなかった」と中西さん。研修の感想さえ「こんなのはあかん」と赤字で消されてしまいました。
「自分のノートだなんて思えなくなってしまう。『ノートをなくしてほしい』と府教委と交渉したら、『後で振り返るために必要』と言われましたが、読み返す気にもなれません」
「ノートがいらないなんて言うのはあなただけ」と突っぱねられた中西さんは、アンケート調査を実施。ほとんどの教師が「いらない」と答えた結果を府教委に提出しました。
現書記長の星琢磨さん(31)は、07年度に「ノート」の洗礼を受けました。書きこむのは「まとめ欄」だけになりましたが、「体言止めの時は『。』はなし」とか「できたら同じ文末にする」など、枝葉末節の直しは相変わらず。「こんなことに時間を割くより、気になる子どものことに心を砕きたかった」と、中西さんとともに府教委と交渉を重ねて、悪名高き「ノート」は今年度からなくなりました。
負担軽減はこれだけではありません。52項目にわたる校内研修は、必修から選択形式になりました。
校内研修の時間集計が柔軟になったのも大きな成果です。研修時間だけで300時間になるようしばりがありましたが、指導教官には準備の時間が必要です。この時間も含めていいことになり、お互いに負担の軽減につながりました。
ところが、府教委の「ノート」の代わりに独自の「ノート」を課す自治体があり、青年部として申し入れを続けています。
全教「勤務実態調査2012」では、若い層の長時間労働が明らかになりました。25歳以下の1カ月の時間外労働時間(持ち帰りを含む)は平均102時間24分。過労死ラインの月80時間を大きく超えています。また、教師全体の8割強が「今の仕事はやりがいがある」と答える一方、「おこなうべき仕事が多すぎる」も8割強にのぼりました。
星さんが語ります。
「〝やるべきこと〟が増やされるばかりでは、職場の助け合い機能が生きません。増やすべきは教師の数です」
⑥子育てしながら働ける?
1月下旬、13回目となる「子育てママの会」が京都市内で開かれました。
小さな子どもを抱き、手を引き、育児休業中の教師たちが次々と会場へ。迎え入れるのは、ベテラン教師や退職教師たちです。
「まあ、大きくなったこと」「顔つきもおとなになったね」。声をかけ、子どもの頭をなでる。空気がやわらかくなりました。
この日のテーマは、「子育てにかかわる権利」を学習します。子育てしながら働くためにつきまとう不安や疑問を出し合いました。
1日あたり約4時間という短時間勤務制度を申請中というのは、小学校の養護教諭です。自分の親も夫の親も遠くに住んでおり、いざというときに頼れないからといいます。
「病気のときにどうしようかと考えると、夫婦ともフルで働くのはしんどい。だれかが制度を使わないと後が続かないと思うのに、管理職は『前例がない』としぶる。どうなることやら」
ただし、こうした短時間勤務は、持ち時間が非常に多いクラス担任には使いにくい制度です。教職員の数にゆとりがない今、休んだ時に授業をしてくれる教師がいるのかどうかも気になります。
「夫は1年の4分の1も出張だし、実家は遠いから私ががんばるしかない」という別の小学校教師は、「担任で復帰したいけれど、非常勤講師の方がいいのかなと。考えれば考えるほど不安になる。でも、管理職には言いにくい」と話します。
子育てを応援する制度は増えても実際は使いにくいという現状は、民間企業も学校現場も同じです。
「子育てしながら安心して働く環境を整えるためにも、教師全体に共通する異常な働き方をどうにかしなければなりません」
こう話すのは、会の事務局をつとめる京都市教職員組合女性部書記長、榎本知子さん(54)です。
「私たちが若いころは午後4時ぐらいに帰れたから、お互いさまという感じで当たり前に支え合うことができました。今は7時、8時、9時帰りの世界ですから、支え合うのもしんどいのです」
当たり前の権利を知り、使いにくいところはこうしてほしいと要望を重ねることが大事、と強調します。
「制度がどんどん変わっていくのに管理職の知識が追い付かないために、制度の利用がすすまないという側面もあります。若い人がたくさん採用されるいま、管理職にはもっと勉強してもらいたいし、『前例がない』で済ませないでほしい」
4月に復帰をひかえた中西ゆみさん(29)は1歳5カ月の娘をつれて「ママの会」に参加しました。いちばんの心配は、保育園に迎えに行かなければいけない時間までに、どうやって仕事をこなすか。「子どもをもつ母親として働ける環境がほしい」と中西さん。「ママの会では復帰した先輩の話も聞けて、見通しがもてる。心構えができればちょっとがんばれるかな」
⑦年度末の多忙乗り越え
年度末。ただでさえ多忙な教師が最も忙しい時期です。1年間のまとめとして、子どもたちの成績をつけなければならないからです。
群馬県の小学校教師、石田葉子さん(仮名)は正規採用7年目。非常勤で働いた学校では、学期末は子どもを早く帰してその時間を成績処理にあてていました。この体験を生かして正規採用された学校で提案。2日間にわたり6校時目をカットして時間を生み出すことができました。
現在の勤務校に移ったその年に、通知表の電子化が始まりました。成績データは校外には持ち出せず、入力作業は学校でしかできません。普段から遅く帰る人がたくさんおり、土日も出勤。それに加えて入力作業が重なってはたまりません。
昨年度の2学期最後の日。学年の教師で昼ご飯を食べたとき、「2学期の終わり、本当に苦しかったですよね。学期末に子どもを早く帰すことができればいいと思うんですけど」と持ちかけました。「そう思う」「それがあったらいいね」。いい反応がありました。
さっそくその日の午後、職員会議で提案しました。普段からほとんど発言者がいない職員会議。発言してもその場で賛同してくれる人がいないため、発言するにはちょっと勇気がいるといいます。「でも、勤務時間にかかわることだけは何とかしなくちゃいけない。私たちがくたくたになって、病気になって、被害を受けるのは子どもですから」
すると…。「私もそういうふうに皆さんの忙しさを感じているので、検討してみます」。教務主任が最初にこたえてくれました。校長も「検討する」と答えました。
その結果、年度末の5日間、授業を5分ずつ短縮し、1日30分の時間を捻出することができるようになりました。「1日に30分は〝焼け石に水〟かもしれないけれど、貴重であることは確か」と石田さん。保護者には学校からの便りで知らせました。
次に何とかしたいのが年度初めです。一番いい状態で子どもと顔を合わせたいのに、過密スケジュールで、すでにヘトヘトだからです。
新しい学年やクラス、学校内のさまざまな仕事の分担が決まるのは4月2日。3日から6日までに新年度の準備をしなければなりません。名簿をつくる。子どもの様子を引き継ぐ。教室内を整える。教材を準備する―。土日も当然出勤です。
息つく間もなく授業参観、家庭訪問。並行して校内と市の主任会があります。ゴールデンウイークまでこんな調子で、頭がボーッとする。せめて、新年度開始を遅らせることができたら、どんなに幸せか…。
石田さんは、いいます。
「『授業時数確保のために休みを減らさなければ』とよく言われますが、時数はすでに多い。問題は、新学習指導要領で教える内容がやたら多いことであり、これ以上時数を増やしても子どもの負担が増えるだけ。もっとゆとりをもって授業をしたいです」