2018年1月25日(木)
「赤旗」創刊90周年 シリーズ 戦争とどう向き合ってきたか
真実語り継ぎ歴史に刻む
|
アジア諸国民と日本国民に甚大な被害をもたらした日本の侵略戦争。戦争で何が起きたのか、あの戦争は何だったのか―その真実を語り継ぎ歴史に刻むことは、反戦・平和の旗を掲げるものの使命です。広島・長崎での被爆体験や東京大空襲、各地の空襲、戦時下の国民の生活、戦場で兵士の悲惨な体験や旧日本軍による侵略と加害の実相―。「赤旗」は当事者でしか語れない生々しい体験を読者の手記、元兵士の証言など、戦争を語り継ぐ企画に多様な形で伝えてきました。(佐藤つよし、西口友紀恵)
南京大虐殺・「慰安婦」…
元日本兵が加害を証言
|
社会面で旧日本軍の侵略・加害の実態、非人道性を告発した元兵士24人の証言をまとまった形で連載したのは、1981年8月から11月にかけての「証言 帝国軍隊」「続証言 帝国軍隊」でした。
78年に最初の「日米軍事協力のための指針」(ガイドライン)がつくられ、有事立法策定が論議されるなど、米軍の実施する戦争に日本を協力させる動きが急激に強まった時期です。
83年、当時の中曽根康弘首相は「日米は運命共同体」を唱え、「日本列島不沈空母化」や宗谷、津軽、対馬の「3海峡封鎖」を打ち出しました。この「戦争態勢準備」の策動は、侵略戦争美化・旧帝国軍隊美化の潮流と表裏一体で進んでいました。
兵士の証言の連載をまとめた『証言 帝国軍隊』(新日本新書、82年4月)のあとがきは、「この流れに抗し、平和を守るためには、侵略戦争の実態、とくに旧日本軍は中国や東南アジアで何をしたのか、帝国軍隊はどのような軍隊だったのか、改めて明らかにすることが必要でした」と強調しました。
旧日本軍による犯罪的行為を否定し、日本の戦争責任をあいまいにする「靖国派」の潮流への反撃として2005年8月から12月にかけて社会面に25回連載したシリーズが「元日本兵が語る『大東亜戦争』の真相」です。南京大虐殺、日本軍「慰安婦」問題、731関連部隊での生体実験や刺突訓練など、侵略戦争の実態を多岐にわたって明らかにしました。
戦時下の凄惨な体験
読者の手記として特集
|
|
小道に横たわり「水、水を」と弱々しくつぶやく黒焦げの人々、皮膚が垂れ下がり手を半ば上に上げ幽霊のように歩く一団など、原爆投下直後の凄惨(せいさん)な情景―。
1980年8月6日から社会面に連載した「8・15を語り継ぐ 読者の手記」の初回は、当時福岡市に在住していた男性の広島での被爆体験「廃墟(はいきょ)の町」でした。手記はこうむすばれています。「こんな残虐な兵器をなんのために、だれのために、どうしてつくらなければならないのか。人類の正義と良心にかけて核兵器廃絶を叫びたい」
この年の手記は中国での日本軍による残虐行為、南方の島で食料が欠乏するなか周りの兵士が病気や飢えで死んでいった体験など、20回にわたり掲載されました。
読者の手記は、まだ8ページだてだった終戦から20年の65年8月から、70、75年の5年ごと節目で募集、取り上げられてきました。
終戦35年は79、80年の2年つづけて社会面で特集。「婦人とくらし」欄(現・「くらし・家庭」欄)では80年4月20日から特集「ふたたびたどるまい戦争への道 ファシズムと女性」、6月7日から土曜連載「戦争と女性」を掲載しました。
その後も、8月15日「終戦の日」を前後して、社会面などで手記や証言を、毎年のように特集してきました。
「集団的自衛権行使容認」の閣議決定(2014年7月1日)、戦争法=安保法制の強行(15年9月19日)と米国とともに戦争をする国づくりと憲法9条改悪に暴走する安倍政権のもとで、14年から始まったのが「証言 戦争」です。
昨年8月14日から10月17日まで、13回掲載したシリーズでは、投稿や資料の募集に、全国から約40通の情報が寄せられ、34通が、自らの戦争体験や両親の世代の体験でした。「二度と戦争をしてはいけない」「憲法9条と平和を守りたい」という強い思いが伝わってきました。
「赤旗」が、日本の侵略戦争と植民地支配に正面から向き合い、報道できるのは、1922年に創立された日本共産党の、侵略戦争と植民地支配に命懸けで反対してきた歴史があるからです。
日本の侵略戦争の敗戦から70年がすぎ、直接戦争を体験した世代が少なくなっています。一方で、若い世代をふくめ体験者の証言を集め、後世に語り継いでいこうという取り組みも全国で広がっています。戦争体験を継承する報道は、創刊以来90年、反戦・平和を貫いてきた「しんぶん赤旗」にとって、これからも欠かすことのできない大切な仕事です。
「ほんまの戦争知って」と願い
「証言戦争」登場 島影美鈴さん 和歌山市
|
父親は1943年に陸軍兵士として従軍中、南洋群島のパラオで米軍による大空襲に遭遇、重傷でしたが生き延びました。92歳で亡くなったときに撮ったレントゲン写真で、頭から足先まで100を超える金属破片の存在が分かり、驚愕(きょうがく)しました。
相当に痛かったはずですが、父から一言も聞きませんでした。昨年の社会面「証言 戦争」で、若い人に「ほんまの戦争の現実、悲惨さを知ってほしい」と願いを込めました。
「赤旗」が戦争の実態を読者の手記や証言で粘り強く掲載しつづけていることは貴重です。安倍政権が戦争する国づくりに突き進み、マスメディアの状況も戦前の「翼賛」体制を思わせるなか「赤旗」の役割は大きい。いまがふんばりどころです。期待しています。
編集局編著書 韓国で評判
“日本の良心”“望みを発見”
昨年7月に韓国語版が発行された赤旗編集局編『語り継ぐ日本の侵略と植民地支配』(新日本出版社、2016年3月刊)が韓国内で評判を呼んでいます。
同書は14年から15年にかけて「しんぶん赤旗」日刊紙・日曜版に掲載された日本の戦争を考える企画から「侵略戦争と植民地支配の真実についての特集記事を再構成しまとめたもの」(まえがき)です。30代、40代を含む戦後生まれの記者が取材・執筆しました。
「I部 侵略戦争と植民地支配の実態」「II部 無謀な戦争で日本国民が犠牲」の2部構成。I部では、日清・日露戦争からアジア・太平洋戦争への戦争の拡大の流れとともに、「南京大虐殺」「731部隊」「日本軍『慰安婦』」など焦点の問題、旧日本軍による侵略被害をめぐるアジア各地からの現地ルポを扱っています。
韓国語版は、韓国の建国大学校KU中国研究院の海外名著翻訳叢書(そうしょ)の第1弾として出版されたもの。同研究院の韓仁照(ハン インヒ)院長が、推薦の言葉を寄せました。韓院長は、日本の「侵略」によるアジア人の傷痕の治癒について、「何よりも日本政府の心のこもった謝罪が前提になければならない」と述べ、日本の現政権勢力がまだ“謝罪”や“反省”する意思がないことを指摘。被害を受けた当事国よりも日本国内部から問題点を指摘することが非常に重要だとして、韓国語版の出版について「日本人によって日本のアジア侵略問題を追跡したということで大きな意味がある」と評価しました。
韓国のメディアでも「加害国である日本から、それも戦後世代の記者たちが自国の恥部を自らあらわにして告白したという点で一縷(いちる)の望みを発見できる」(韓国経済)、「日本の政治家の妄言に憤怒しても、植民地支配を心から反省して軍国主義を警戒する良心的な日本人が少なくないことを忘れてはいけないということを訴えている」(東亜日報)と取り上げられました。