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2018年1月24日(水)

2018論点・焦点

憲法9条と紛争地の現実

NGO非戦ネット呼びかけ人(日本国際ボランティアセンター代表理事)谷山博史さん

苦しんだ人間が生み出した信念 「非戦」こそリアル 対話こそ希望

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 世界で人道支援活動を続ける国際NGO(非政府組織)の有志が安保法制反対で結成した「NGO非戦ネット」の呼びかけ人・谷山博史さんに、安倍9条改憲について聞きました。

 (中祖寅一、吉本博美)


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(写真)たにやま・ひろし 1958年、東京都生まれ。86年にJVCに参加。タイ、ラオス、カンボジア駐在、東京事務所の事務局長を経て、2002年にアフガニスタン現地代表。06年に帰国し、現在まで代表理事に着任。15年7月に設立した「NGO非戦ネット」呼びかけ人。

 ―世界の紛争地で支援活動を続けてこられましたね。

 日本国際ボランティアセンター(JVC)は、自衛隊が海外派兵された主な国すべてで活動してきました。カンボジアから始まり、アフガニスタン、イラク、南スーダン。米国中心の有志連合による武力行使がどういうものだったかが今、忘れられている。僕たちに一番できることは、戦争の現実、戦争派遣の軍隊の現実を多くの人に分かってもらうことです。国内外の現場で平和の実践をしてきたNGOの仲間たちと新しい本(『非戦・対話・NGO 国境を越え、世代を受け継ぐ私たちの歩み』)も出しました。

 ―「対テロ戦争」の結果、世界は今どうなっているでしょう。

 「対テロ戦争」が行われた国は今なお泥沼状態で、平和どころじゃない。「テロ」は世界に広がり、軍事による「国際貢献」はすべて失敗しています。

 沖縄で保育園に米軍ヘリの部品が落ち、小学校にはヘリの窓枠が落ちてきた。僕もアフガニスタンでの駐在時、米軍に苦しめられました。

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(写真)アフガニスタンの村での長老との話し合い。左端はJVC現事務局長の長谷部貴俊氏=2008年ごろ、JVC提供

 僕たちが支援していた診療所の敷地に、米軍ヘリのロケット弾が撃ち込まれた。2009年5月でした。米軍に抗議しても否定するだけ。米軍は「反政府勢力のタリバンがやった」と言いましたが、タリバンはヘリをもっていません。泣き寝入りできないと、部品を収集し専門家の鑑定を経て国際会議で米軍の前に示したら、初めて認めました。「なぜ狙ったのか」と聞くと、「練習でした」と。それで謝罪も補償もない。沖縄の現状に重なります。そういう米軍による民間人無差別殺傷が、「テロ」の温床を拡大してきました。

 「非戦なんて現実無視のお花畑だ」という人もいます。しかし、戦争とは何か。本当に人を殺すとはどういうことなのか知らずに、「戦争が起こってもしょうがない」という考えこそ、非現実的です。

 ―安倍首相は、戦争法に続いて9条改憲に乗り出しています。

 戦後72年、憲法9条と現実との間に大きなねじれがあります。9条があっても、日本はイラクやアフガニスタンで戦争に加担している。イラクではすでに20万の市民が戦争で死んでいます。この「現実」に合わせ憲法を変えるのが安倍改憲です。海外に自衛隊を派遣し、軍事力を行使するのが9条改悪の意味です。

 憲法と現実がねじれている一番の原因は、日米同盟と米軍基地です。9条を実質化するには基地をなくすしかないと、僕個人は考えています。米軍基地がある限り、基地被害は解決せず、自衛隊が戦争加害者になる現実を乗り越えられません。

 「内面の非戦」という問題もあります。実は、欧米の国際NGOの多くは戦争そのものには反対しない。赤十字国際委員会ですら戦争の仕方に反対しているだけです。日本のNGOだけが「非戦」です。本当に追い詰められ、武力に頼らざるを得ない事態もある。すぐには戦争をなくせないかもしれない。しかし、日本国憲法9条は、武力によらない平和を目指す立場であり、僕たちのバックボーンも同じです。

 ―「非戦」の精神はどこから。

 僕が「非戦」の確信に立ったのは、アフガニスタンでいつも一緒にいたスタッフ、サビルラとの出会いです。アフガニスタンでは戦争が長く続き、暴力と復讐(ふくしゅう)の連鎖から抜け出せていません。武器を持つのは当たり前。土地争いでも殺傷沙汰になります。

 サビルラは、銃を携帯したガードや、ギャングのボスのようなこともしていたし、対米ゲリラ戦に参加しようと揺れた若者の一人でした。米軍の対テロ掃討作戦で村が何度も攻撃を受け、親族の多くが死傷した。その中でJVCに出会い、ドライバーから始めて、勉強を重ね国際会議にも行くようになりました。

 サビルラが事務所で治安管理担当として働いていたとき、初めて僕が米軍と交渉した場に立ちあいました。彼は「殺されるんじゃないかと、本当に怖かった」と後で話しました。そういう恐怖があるから一気にテロに走るのです。ところが、そこで大きな価値転換が起こった。

 彼の中には、米軍と話し合うという考えは全くなく、予想だにしなかったことが目の前で起こった。「米国とたたかうため武器をとろうと思っていた。だけど、交渉や対話で問題を解決する方法があると知った。自分には、自分の平和の役割があると確信した」

 以来、彼は本当に変わりました。自分の家族に平和教育をし、それを一族と地域に広げた。どうやってお互いを理解して問題を解決するか。ワークショップや語り合いの場をつくる運動を始めた。銃のおもちゃを禁止するキャンペーンにも取り組みました。実際の規制は難しいですが、大統領の禁止通達を獲得するまでに至りました。

 ―「非戦」こそ真のリアルだということですね。

 実際に戦争が起こっている中では、「対話なんて非現実的だ」という考えが普通かもしれません。しかし、現地の当事者が「これじゃだめだ」と動いた。生ぬるい社会で頭のなかで考えた「非戦」じゃない。本当に苦しんだ人間が生み出した信念は、私たちを勇気づける。「非戦」を広げる確信をもてるようになりました。

 僕が考える「非戦」とは、対話を含んだ価値。反戦は当然含むがそれだけではなく、戦争によらない方法を実践し、戦争の原因そのものを減らしていくことです。

 世界はどこをみても問題だらけ。「テロ」と「対テロ」戦争の応酬で終わりがありません。その中で、恨みと復讐、分断を生む負の関係性を断ち切り、信頼を基礎とする正の関係性をつくる。その方法としての対話の意義を実感として分かった人間が、こんなに希望のない世界にみえながら、それぞれの持ち場で対話の場をつくることに希望を見いだす。そういう芽はいろいろなところに出ています。それが世界の希望になっていくのだと思います。


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