2018年1月6日(土)
「無料低額宿泊所」規制へ法案
貧困ビジネス止められるか
劣悪環境・生活保護費をピンハネ
生活困窮者が利用する「無料低額宿泊所」(無低)への規制を盛り込んだ社会福祉法改正法案が、今年の通常国会に提出される予定です。劣悪な環境に住まわせ、生活保護費をピンハネする「貧困ビジネス」業者の横行に歯止めをかけられるのか、注目されています。(芦川章子)
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南さん(67歳男性、仮名)は「路上生活を抜け出したい」と相談に訪れた市役所で生活保護の申請とともに無低を紹介されました。
部屋は3畳ほどの「個室」。しかしベニヤ板で仕切っただけで「隣の音はつつぬけ。冷暖房もなく、冬は寒い、夏は暑い」。
食事は「3食弁当。冷えた揚げ物が多かった。あとは漬物や野菜がほんの少し」。質は「最低レベル」。
入浴は週2回のみで、曜日と時間も決められていました。外出なども「管理人にチェックされていた」。
手元の残金3万円
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利用料は月9万5000円。生活保護費から引かれ、南さんの手元に残るのは3万円ほどでした。生活必需品を買うと財布はほとんど空に。「生活の自由も、精神的な自由もまったくなかった」
劣悪な環境に耐えきれず、再び路上生活へ戻る人も多いといいます。病気を悪化させた入居者もいます。
南さんは「生活と健康を守る会」の支援を経てアパートに転居。今の生活について「施設とはぜんぜん違う」。無低には「絶対に戻りたくない」。
無低は、無料または低額な料金で簡易住宅を貸し付け、利用させる社会福祉法に基づいた施設です。設置者にはNPO、企業、個人もいます。自治体への届け出だけで開設できます。
厚生労働省調べ(2015年6月)で、全国に537施設あり、1万5600人が利用し、うち1万4143人が生活保護を受給しています。
一つの部屋を簡素な仕切りで二つ、三つに区切っただけといった施設も少なくありません。水光熱費や食費などとして、不当に高い料金を生活保護費から天引きする横領事件、職員による入居者への暴行事件なども後をたちません。
自治体動いた例も
現在、無低を規制する法律がないなか、独自規制に動いた自治体もあります。大阪府はサービス内容を届け出させ、行政監視を強化するための条例を施行。埼玉県、さいたま市も条例を制定。相模原市も指導指針を出しています。
厚労省が昨年12月にまとめた報告書によると、「貧困ビジネスを排除するため」として、居室面積などについて法律で最低基準を設けることや、事後の届け出から、事前の届け出制に変更することなどを検討しています。
「良質」な無低の恒久化には疑問
「一般社団法人つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんの話 無低事業者による「貧困ビジネス」は2000年ごろから大きな社会問題になり、私たちも規制を求めてきました。遅きに失したとはいえ、国が規制に動いたことは評価できます。実効性のある中身にすることが重要です。
一方で疑問も残ります。厚労省は「良質」な無低を恒久的な施設にすることも検討しています。無低はあくまで一時的な施設です。生活保護法30条は「居宅保護の原則」を定めており、アパート生活を基本としています。行政は地域で生活できるような支援策を充実させるべきです。