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2018年1月1日(月)

新春対談

神戸女学院大学教授 石川康宏さん 市民と野党の共闘は日本社会にしっかりと市民権を得た

日本共産党委員長 志位和夫さん 世界でも日本でも、逆流を乗り越え、新しい時代を開く大変動が起こった

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 日本共産党の志位和夫委員長の新春対談。今年は、マルクスを研究する経済学者であり、全国革新懇代表世話人を務める石川康宏・神戸女学院大学教授を迎え、世界と日本の問題、展望について縦横に語り合いました。


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 志位 あけましておめでとうございます。

 石川 おめでとうございます。

 昨年を振り返って印象的だったのは、国際面ではトランプ政権の登場でした。アメリカは現在最大の帝国主義国ですが、その国際的威信をトランプ政権は短期間のうちに失わせています。その対極で、核兵器禁止条約が世界各国圧倒的多数の合意で成立しました。世界の構造変化が着実に進んでいると思います。

 一方、国内では、安倍政権が「森友・加計」問題をきっかけに、都議選で惨敗するなど一気に行き詰まりの局面に入りました。そうだからこそ希望の党を活用しての大がかりな策謀も行われたわけですが、市民と野党の共闘は日本社会にしっかりと市民権を得たと思います。

 志位 昨年は、世界でも日本でも、逆流を乗り越えて、新しい時代を開く大変動が起こった年になったと思います。

 昨年の世界政治における最大の出来事は、人類史上初めて核兵器を違法化した核兵器禁止条約の採択でした。このなかで、国際政治の主役が、一握りの大国から多くの国ぐにの政府と「市民社会」へと交代したことが、はっきり出てきました。それとの対極で、トランプ米政権の国際的地位の凋(ちょう)落(らく)、孤立、危険が際立っています。この政権が行った核兵器禁止条約への妨害、地球温暖化防止のパリ協定からの離脱、エルサレムの首都認定などは、世界の強い批判を集めました。その時に、安倍首相は「トランプ・ファースト」(笑い)。これは日本の立場を根底から危うくするものです。

 日本の政治では、私たちは昨年1月の第27回党大会決定にもとづき、「市民と野党の共闘の勝利」と「日本共産党の躍進」を「二大目標」にすえて追求しました。共闘の方は、昨年の総選挙で、突然の逆流に遭遇しましたが、それを乗り越えて次につながる重要な成果をおさめることができました。党躍進の方は、東京都議選では良い結果を得ましたが、総選挙では議席を減らす結果になり、今後の課題も鮮明になりました。

 全体を振り返ってみて、逆流とのたたかいを通じて、これまでにない幅広い市民との「共闘の絆」「信頼の絆」が強まり広がったことは、最大の財産であり喜びです。これを力に、来年の統一地方選挙と参議院選挙では、共闘をとことん追求して前進させつつ、党躍進を必ず果たしたいと決意しています。

 石川 国内外ともに市民が主役になっての新たな時代が始まったことを実感します。さらに前進させていきたいですね。

石川 まわりの学者たちからも「共産党はよくやった」の声が

志位 全国に広がった「共闘の絆」への信頼と確信をもって

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(写真) いしかわ・やすひろ 1957年北海道生まれ。京都大学大学院博士課程修了後、現職。専門は経済学、経済理論。全国革新懇代表幹事。著書に『マルクスのかじり方』『社会のかじり方』など多数。

 

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(写真) しい・かずお 1990年に書記局長、93年衆院選で初当選(衆院議員9期目)、2000年から幹部会委員長。著書に『戦争か平和か 歴史の岐路と日本共産党』、『綱領教室』全3巻など。

 石川 昨年の総選挙では、民進党が希望の党に合流するという市民と野党の共闘を分断する大がかりな策謀がありました。あの瞬間に私の頭に浮かんだのは、社会党と公明党が、共闘からの共産党排除を決めた1980年の「社公合意」でしたが、同時に、今回はそう簡単に分断されはしないとも思えました。市民運動の強さが違っていると実感できていたからです。

 くわえて日本共産党の非常に的確な判断と対応がありました。「希望の党は自民党の補完勢力」「共闘はありえない」という判断を明快に示し、他方で「野党共闘を追求する」と表明した。これは、共闘を破壊する逆流のなかで、困惑しながら次の道を探していた全国の市民運動へのとても大きな励ましになった。さらに共産党は、短期間のうちに候補者を降ろし、共闘は可能だし、現にその体制はあるというリアルな姿を各地につくっていった。それは、非常に機敏で的確な対応だったと思います。

 日ごろ、共産党のことをあまり褒めることのない僕のまわりの学者たちも、「よくやった」「あれがないと共闘はもたなかった」と言葉をかけてきました。共産党が狭く自分の議席だけを考えるのではなく、社会全体を前に進めるという大局の利益を優先したことが、多くの人の共感をよぶ選挙になったと思いますね。

 志位 ご評価をいただいて、大変うれしい思いです。

 昨年の9月28日に民進党が両院議員総会で、満場一致で希望の党への合流を決めるという動きが伝えられた時には、共闘の前途を考え暗たんたるものもありました。しかし、ここは私たちがふんばらねばと、「逆流は断固として許さない」「共闘は絶対に諦めない」という二つのメッセージをその日のうちに出し、社民党とは選挙協力の合意をその日のうちに結ぶという対応を行いました。その時に、私たちの頭にあったのは、全国に広がっていた「共闘の絆」なんです。

 2年間の取り組みでつくられた「共闘の絆」は、一部の人が陰謀的な共闘破壊の動きをやったとしても決してなくなったりはしない。そこには信頼と確信を持っていましたので、断固とした対応をとることができたと思うんです。

 石川 中央政界の議論がどうあれ、“この土地の市民と野党の共闘はわれわれが守り育てていくんだ”という市民の運動が各地にすでに育っていました。逆流があっても、それに簡単にのみ込まれ、打ち壊されてしまうような体力ではすでになかったわけですね。

志位 共闘はすでに確かな歴史をもっている

石川 市民運動の成長を実感するし、それを励ます共産党の役割は非常に大きい

 志位 市民と野党の共闘は、すでに確かな歴史をもっています。直接の源流は、東日本大震災の後、2012年3月に始まった「原発ゼロ」を求める官邸前行動だと思います。市民一人ひとりが主権者として自覚的・自発的に参加する、私たち日本共産党も参加するし、他の野党も参加する――市民と野党の共闘の最初の形がつくられました。

 飛躍的発展をとげたのが2014年の沖縄でした。1月の名護市長選、11月の県知事選挙、12月の総選挙で、米軍新基地建設反対を掲げ保守・革新の枠を超えた「オール沖縄」が圧勝しました。「沖縄で起こったことは、全国で起こり得る」。私たちは、そう感じましたが、それは現実のものとなりました。

 15年に安保法制=戦争法に反対する戦後かつてない市民運動が広がり、「野党は共闘」という声がわき起こる。そのなかで私たちは、安保法制=戦争法が強行された同年9月19日に、「戦争法廃止の国民連合政府をつくろう」「野党は選挙協力をやろう」と呼びかけました。これが共闘の歴史をみた場合の第一の節目でした。

 石川 そうでしたね。

 志位 第二の節目は、16年2月19日の当時の5野党による党首会談合意です。安保法制廃止、立憲主義の回復、国政選挙でできる限りの協力を行うなどを合意しました。この党首会談の席で私たちは、7月に迫っていた参院選1人区の候補者調整について、「思い切った対応をする」と表明し、全国32の1人区すべてでの野党統一候補の実現、11での勝利へとつながっていきました。

 そして、第三の節目が、さきにのべた昨年9月28日の私たちの対応です。そういう節々で市民のみなさんと力を合わせて情勢を切り開いてきた手ごたえがあります。

 石川 立憲民主党の立ち上がりも、市民の強い声に背中を押されてのことでした。市民連合は昨年の総選挙で、共産、立民、社民の野党3党と「安倍政権による憲法9条改定に反対」など7項目の政策合意を行いましたが、「ともかく政権交代」というのではなく「このような方向に政治を変える」と目指す方向をはっきりさせての取り組みです。そこに市民運動の成長を実感しますし、それを励ます上で共産党が果たしている役割は非常に大きいと思います。

 志位 さきほど三つの節目があると言いましたが、15年9月19日の「国民連合政府」提唱は、何よりも「野党は共闘」との市民の声にこたえたものでした。その後、市民連合がつくられ背中を押してもらったおかげで、16年2月19日の5野党党首合意となり、参院選での初めての野党共闘の取り組みにつながった。昨年の総選挙では、突然起こった共闘の分断と逆流に対し、私たちが断固とした対応をしただけでなく、市民連合のみなさんが全国で大奮闘し、希望の党に行こうとした民進党候補者を「そちらはダメ」と止め、共闘の立場に立たせた。

 この共闘は、一党一派のものではない。市民がつくりだした、国民の共有財産だということをつくづく思います。今後もいろいろな難しい問題、曲折もあるでしょうが、大局で見れば、市民と野党の共闘には大いなる未来があると考えてよいのではないでしょうか。

石川 中心的な役割を果たす共産党へのリスペクト(尊敬)が

志位 市民と野党の共闘は初歩的段階―本格共闘に発展させるために力つくす

 石川 志位さんは「国民のたたかいがつくりだした共闘」と言われましたが、今日の市民と野党の共闘の特徴を少し広い視野でとらえてみたいと思います。

 一つは、自分たちの手で国の政治をつくり変えるということを正面から掲げた戦後初めての運動だということですね。これは歴史的に画期的なことです。

 志位 戦後初めてですね。1960年の安保闘争とよく比較されますが、その時とも違って、一人ひとりの市民が自分の意思で自発的に立ち上がっている。

 石川 二つ目は「個人の尊厳」を守る政治をはっきり掲げているということです。戦後、憲法の大切さを掲げた市民運動はいろいろありましたが、焦点は圧倒的に9条、平和の問題でした。しかし、今回の市民連合は、安保法制廃止とともに「個人の尊厳」を掲げている。あらゆる人々の基本的人権を、自由権だけでなく、社会権までふくめてすべて実現する政治をつくろうといっているわけです。「保育園落ちたの私だ!」「返済不要の奨学金を!」というリアルな声の上にこの取り組みが生まれている。日本国憲法全体の先進性に国民・市民の意識が急速に追いついてきたという気がします。

 そして三つ目は、この共闘のなかで、共産党が他者からリスペクト(尊敬)される存在となり、中心的な……ご本人は中心的とは言いづらいでしょうが(笑い)、これを発展させる上で中心的な役割を果たしているということを、市民運動が認めてリスペクトしているという点です。80年代の「オール与党」の時代から最近の「二大政党づくり」にいたる動きは、広範な市民と共産党を引き離すことを大きな狙いとしましたが、もうそういう策がとれない局面に入っている。共産党に対する市民の信頼がここまで深まってきたというのも、いまの市民と野党の共闘の歴史的な到達点として大事なところじゃないかと思いますね。

 志位 たいへん突っ込んだ分析をいただき、恐縮です。(笑い)

 石川 あれ、突っ込みましたかね。(笑い)

 志位 「個人の尊厳」が共闘のなかで重視されるようになってきたのは、憲法違反の安保法制=戦争法の強行によって立憲主義が乱暴に破壊され、その回復が一大テーマになってきたことと深い関連があります。立憲主義とは、憲法によって権力を縛ることですが、その究極の目的は何かと考えたら、憲法13条でいう「すべて国民は、個人として尊重される」――「個人の尊厳」の擁護にある。「個人の尊厳」は、基本的人権のなかでも最も根底にある人権と言ってもよいと思います。世界人権宣言、国際人権規約などの国際規範も「個人の尊厳」から始まります。いまスペイン、ギリシャなどヨーロッパで起きている進歩的運動のキーワードも「個人の尊厳」となっている。「個人の尊厳」が、たんに平和の問題だけではなく、暮らし、民主主義などあらゆる問題の根底にある権利として押し出されています。これを土台に真剣な政策協議を行うならば、共闘の内容が豊かに発展していく可能性をはらんでいると思います。

 「共産党への信頼感」というお話をしていただきましたが、この2年あまりの私たちの行動そのものを通じて、共産党に信頼を新たに寄せてくれるという方が広がったという強い実感があります。総選挙の結果を見て、国民のなかから「共産党を私たちの手でもっと大きくしたい」という動きがいろいろな形で起こっています。たとえば、今度発足を決めた「JCP(日本共産党)サポーター」制度というのは、市民のみなさんから寄せられた提案を、市民のみなさんとともに具体化していこうというものです。

 石川 かつては、「共産党」という言葉を人前で口にすること自体に勇気がいる時期もありましたが、いまは当たり前の日常の単語になっていますね。

 志位 野党の共闘は、2年あまり取り組んできたものですが、まだ初歩的段階です。これを「本格的な共闘」にするために、共通政策を豊かにし、相互支援・相互推薦の共闘を実現し、政権問題でも前向きの一致をさぐりたい。私たちも努力をしますが、相手の政党にもぜひ乗り越えてほしいと思います。

 石川 そうですよね。共闘をもっと深いものにしていくうえで、市民連合と結んだ7項目合意の実現にすぐに取り掛かることが大事です。選挙のための共闘ではなく、政治を変えるための共闘なんだということを、はっきりさせていく必要があります。

 志位 7項目合意の最初に掲げられているのが憲法問題です。「安倍政権による憲法9条改定に反対」――この共同のたたかいを大いにすすめたいと思います。

志位 まず「禁止」し、それをテコに「廃絶」に進む―国際的英知を結集した核兵器禁止条約

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(写真)核兵器禁止条約の採択が決まった歓喜の中で握手を交わす被爆者=2017年7月7日、ニューヨーク(池田晋撮影)

 志位 冒頭のべた核兵器禁止条約の採択は、ほんとうに歴史的・画期的な出来事だと思います。何よりこの条約は、国際的英知を結集し、国際社会が新たな踏み切りを行ったものだということです。

 「核兵器をなくす」といった場合、条約をつくろうとすれば、核兵器を「禁止」することと、「廃絶」することの二つの要素があります。これまで私たちの運動は、「禁止」と「廃絶」をあまり区別せず、一体のものとして取り組んできました。ところが情勢は、ここで新たな突破をすることを求めたのです。

 この間、核兵器の非人道性について国際社会の理解が急速に広がり共通認識になってきました。しかし核保有大国は「自国の核兵器の完全廃絶」という国際社会の誓約を踏みにじって先に進もうとしない。それならばどうするか。まず核兵器を法的に「禁止」し、それをテコに「廃絶」へ進もう。「核兵器禁止条約の国連会議」の開催を決めた国連総会の決定は、「禁止」と「廃絶」を賢明にも二つの段階に分け、核兵器を法的に「禁止」する条約を交渉することを提起するとともに、そうした条約は「廃絶」に「つながる」ものとして構想されなくてはならないと明示しました。私たち日本共産党も、この新たな突破点をつかんで、各国政府に働きかけました。

 広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さんは、7月7日、条約採択を受けての演説で、この新たな突破点を、次のような簡潔な言葉で表現しました。「この条約は核兵器の終わりの始まりです」。

 ウィリアム・ペリー元米国防長官は「朝日」(11月29日付)インタビューでこうのべています。「(核兵器禁止)条約が採択されてよかった。実現せずとも発信することに価値がある。200年以上前、米国の建国の父は(独立宣言で)『すべての人間は平等に造られている』とうたいました。当時は奴隷もいて、女性には投票権も認めず、平等ではありませんでしたが、原則を信じた。目標を持つことが推進力になるのです」。

 まず核兵器を「禁止」し、それをテコにして「廃絶」に進もう。そういう新たな踏み切りを行ったというのは、まさに国際的英知が働いたものだと思います。これが「国連会議」に参加しての私の強い実感です。

志位 国際政治を動かすのは世界の市民だということが、公認の事実となった

石川 「国連会議」への日本政府欠席に学生たちもショックを

 石川 核兵器禁止条約をつくりあげた昨年3月と7月の両方の「国連会議」に、志位さんは参加されたんですね。肌で感じられることがいっぱいあったでしょう。

 志位 ええ。もう一つの強い実感は、国際政治の主役が交代したということです。核兵器問題は、かつてはごく一部の核保有大国が交渉の主役でした。核兵器廃絶は主題にならず、核兵器の管理や核軍拡競争のルールづくりが主題でした。

 それがすっかり様変わりです。核保有大国がボイコットし、妨害しても、堂々とそれをはねのけ、122カ国の賛成で核兵器禁止条約が採択される。核保有大国が主役だった時代は終わり、各国の政府と「市民社会」が新しい世界の主役となっています。

 「市民社会」の占める位置をはっきり示したのが、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞だと思います。これは被爆者に対する受賞であり、もっと言えば「市民社会」全体に対する受賞だと思います。国際政治を動かすのは世界の市民――民衆だということが、国際政治のなかで公認の事実となった。

 私たちは日本で市民と野党の共闘をすすめていますが、それと同じような動きが「世界版」として起きている。そのことを「国連会議」に出席して強く感じました。核兵器禁止条約をめぐっては今後、困難や曲折も予想されますし、核保有大国は妨害をするでしょう。しかし核兵器禁止条約は必ずこの世界を一歩一歩変えていく。

 石川 日本政府は「国連会議」に出席しませんでしたが、その空席に置かれた折り鶴がずいぶん話題になりました。

 志位 ええ。写真をとってツイッターに投稿したらたくさん拡散されました。ICANのみなさんが作った折り鶴で、「wish you were here(あなたがここにいてくれたら)」と書かれていました。“被爆国の政府がなぜここにいないの。あなたにこそここにいてほしい”。これがみんなの気持ちだったと思います。

 石川 ぼくは大学の毎回の講義で、「最近1週間の出来事」を取り上げるんですが、その中で核兵器禁止条約を討議する国連の会議に、日本政府が欠席したことも紹介せねばなりませんでした。学生たちはみんな居心地の悪そうな、不安というのか落胆というのか、そんな表情を見せていましたね。「唯一の被爆国」として日本は核兵器の廃絶のために頑張っていると思っていた。それが事実によって裏切られた、ということですからね。それはショックですよ。国際的威信が低下し、ますます不安視されるようになっているトランプ政権の「核の傘」に依存する。そんな政治の害悪が非常に分かりやすく表れています。

 志位 7月の「国連会議」でサーロー節子さんにお会いしたとき、「日本政府は核保有国と非核保有国の『橋渡し』をするというが、この会議にも出ないでどうして『橋渡し』ができますか」と批判していたことを思い出します。日本政府の行動は「橋渡し」でなく、核保有国の代弁者にすぎません。

 石川 核兵器の存在自体が違法だという世界がつくられている。これは、軍事大国が世界に覇権主義を押し付けるための物質的な道具が、手からたたき落とされる瞬間に入ってきているということですね。

 志位 「国連会議」で活躍したのは、オーストリア、アイルランドなど欧州の中立国、CELAC(中南米カリブ海諸国共同体)、ASEAN(東南アジア諸国連合)、アフリカ連合(AU)など、軍事同盟に縛られない国ぐに・地域でした。軍事同盟に縛られない非同盟・中立にこそ未来を創造する力があると感じました。

 核兵器禁止条約をつくった昨年は、人類史に記録される年になったと思います。できるだけ早期に条約への署名・批准をすすめ、条約を発効させ、核保有国と同盟国を一つひとつ参加させていくことが今後の課題になりますね。

石川 腕力だけ、世界の秩序など考えない、トランプ米大統領

志位 21世紀の人類的課題にことごとく背を向ける

 石川 アメリカはトランプ政権の下で、国際社会での信頼や影響力を広げることのできない、腕力だけにものをいわせるわがまま国家になってきていると思います。世界秩序の安定など考えない、自分のことしか考えられない、孤立に向かう国になってきている。

 ブッシュ政権のときに台頭した「ネオコン(ネオ・コンサバティズム=新保守主義)」勢力も、力で世界を動かそうとしましたが、その後、アメリカには、国際的地位の低下を問題視し、地球環境問題や国際世論を無視した戦争政策はほどほどにしようという変化も出てきました。その流れの中でオバマ政権が出て来るわけですが、状況を大きく変えることはできませんでした。その後につづいたのが、そうした配慮をすべて投げ捨てた、自己中心主義のトランプ政権です。ここにはアメリカ社会の帝国主義としての深い行き詰まりが表れているように思います。志位さんが指摘された「市民社会が世界を動かしている」という話の“メダルの裏側”という気がします。

 志位 トランプ政権の孤立、凋落、危険――これにはいくつか大きなエポック(画期)があると思います。核兵器禁止条約への敵意をむき出しにした攻撃とともに、地球温暖化防止のための「パリ協定」からの離脱はきわめて重大です。さらに、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことは世界に衝撃を与えました。国連総会では撤回を求める決議が圧倒的多数で採択されました。総会前の国連安保理では撤回を求める決議がアメリカの拒否権で葬られましたが、表決は賛成14、反対1でした。

 石川 そうでした。孤立が際立っています。

 志位 この三つの問題はいずれも人類にとっての死活的課題なんですね。核兵器は、文字通り人類の生存のかかった問題です。気候変動問題も人類さらには地球の生存のかかった問題です。エルサレム首都認定問題は、異なる宗教・文明間の対話と相互理解という21世紀の世界の大きなテーマに反旗を翻したものですね。21世紀の人類的課題に対して、トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」でことごとく背を向けた。

 そのときに、安倍首相はすべて「トランプ・ファースト」なんですね。核兵器禁止条約への反対しかり。気候変動問題でも、石炭火力発電所を日米一体で推進している。NGOから、トランプ大統領には「大化石賞」が贈られ、安倍首相には「化石賞」が贈られるというありさまです。エルサレム首都認定問題でも、日本政府は、さすがに国連の決議には賛成しましたけど、ひと言も批判をしない。

 安倍首相の「方針」は簡単なのです。トランプ大統領のやることは、それがどんなに無理なものであっても、絶対に批判をしないというのが彼の「方針」です。こんな首脳は世界に2人といません。“トランプ大統領は危うい”“付き合うにしても距離を置いて、言うべきことは言おう”というのが、世界の首脳が当たり前にとっている姿勢です。トランプ大統領に対して安倍首相が「100%ともにある」という姿勢で付き従っているというのは本当に危険です。彼の命取りになる問題にもなると思いますね。

石川 日本本土が戦場になる危険にどう対処するかが問題

志位 安倍首相に「危険を直視せよ」と言いたい

 石川 それは北朝鮮への対応にも表れていますね。

 志位 そうですね。北朝鮮問題で、安倍首相は、「すべての選択肢がテーブルの上にあるというトランプ大統領の方針を強く支持する」と繰り返しています。これでは、万が一、アメリカが先制攻撃に踏み切った場合に、日本はそれを無条件に支持し、一緒に戦争することになる。そんなことを言っている首脳は、世界で安倍首相だけです。文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領は、先制攻撃には反対と表明しています。世界の圧倒的多数の首脳は平和的解決を求めています。安倍首相は、日米関係を「世界で最も重要な2国間関係」と言うけれど、「世界で最も危険な2人の関係」になっている。(笑い)

 石川 北朝鮮の問題も授業でよくふれるのですが、学生の一部には「アメリカと北朝鮮の戦争だから日本と直接には関係がない」という誤解もありますね。在日米軍基地があることは知ってるけれど、それが戦争の当事者になり、日本列島が韓国と並んで直接の戦場になるという話にはつながっていない。ですから、その可能性を提示すると顔色がかなり変わります。そのあたりの基礎的な情報がまだまだ伝わってないという気がします。

 志位 そうですね。北朝鮮問題で一体何が危険なのか。危険の正体をよく見る必要がありますね。安倍首相は、“日本に対して北朝鮮がミサイルを撃ってくる。それを防がなければいけない”と言って、そこに危険の焦点があるかのようにいう。しかし現実の危険がどこにあるかといえば、米朝が軍事衝突を起こし、戦争、さらに核戦争に発展し、日本も甚大な被害を受ける。そこに危険の焦点があるわけです。この危険に安倍首相は目をつむっている。首相に「危険を直視せよ」と言いたいですね。

 北朝鮮の核・ミサイル開発は、世界と地域にとっての深刻な脅威であり、もとより絶対に許されません。同時に、戦争だけは絶対に起こしてはならない。こういう立場にたつのであれば、経済制裁と一体に「対話による平和的解決」をはかるしかありません。他に解決策はないのです。

 石川 さきほどのペリー元米国防長官も、北朝鮮問題について「核(戦争)になれば、その被害は…(日本にとって)第2次世界大戦での犠牲者数に匹敵する大きさになります」と警告していますね。本当に、とてつもない被害になります。

 志位 トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」。安倍首相は「トランプ・ファースト」。この組み合わせは一番悪い。日本国民にとって危険なだけではなく、世界全体にとっての危険になっている。この政治は本当に変えないといけません。

志位 「安倍9条改憲阻止」は、今年最大のたたかいに

石川 「靖国」派的な戦前回帰の危険性を追及していくことも重要

 石川 今年のたたかいの最大のテーマは、9条改憲を許さないたたかいでしょう。政権党がこれだけ自衛隊を海外で戦争させる準備をすすめたうえで、「改憲」に向かおうとしているのですから、それは、まず字面を変えてそれからといった悠長な問題ではありません。本当に「戦争をする国」に、ただちに転換しようとしています。

 これに対して、食いとめようとする市民の側にも、新しい共同が広がっています。「総がかり」と「9条の会」が力をあわせた「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」ですね。国民投票をすれば改憲派が負ける、という状況をつくるための「3000万署名」がよびかけられていますが、3000万は大きな数ですから、政治的な立場を超え、政治に関心のない人々にも積極的に声をかけていく大運動をどうつくりあげるのか、そこが課題になりますね。

 志位 安倍首相は、昨年5月3日につづいて、12月19日、「(オリンピックの開催年)2020年、日本が大きく生まれ変わる年にするきっかけにしたい」などと、事実上、期限を区切って改憲をすすめる発言を行いました。改憲という“こぶし”をふり上げている状態で、もしこの“こぶし”を下ろせないと、安倍内閣が退場しないといけなくなるところに、自分で自分を追い込んでいる状態でもある。

 自民党の「憲法改正推進本部」は、9条2項(戦力不保持)を残して自衛隊を明記する安倍首相の案と、「国防軍」創設を盛り込んだ党改憲草案をベースに2項を削除する案を、両論併記の形で出しています。仮に2項を残したとしても、「後から作った法律が前の法律に優先する」という法の一般原則からいって、2項の空文化=死文化に道が開かれます。2項削除案と両論併記ですが、どちらにせよ2項をなきものにしようというところに彼らの主眼があります。海外での無制限の武力行使に道を開くということの本質を、どれだけ広く国民に伝えきれるかどうかが勝負ですね。

 安倍政権は、「できれば今年の通常国会で発議したい、遅くとも臨時国会で発議」というスケジュール感だと思います。ですから今年前半のたたかいがとても大事になります。「3000万署名」をやりぬくために党としても総力をあげたい。立場の違いを超えた協力・連携・共同を全国に網の目のようにつくっていかないとできない目標です。今年の最大のたたかいとして頑張りたいと思います。

 石川 自民党の改憲案の危険性は、いろんな角度から明らかにしていく必要があると思います。9条改憲の最大の原動力がアメリカからの要請というのはそのとおりですが、同時に、安倍政権はそこに「靖国」派的思想を深く絡みつかせ、戦前回帰型の社会を作ろうとしています。3000万という大きな市民の合意をつくる上で「右翼は嫌だ」という保守の人との連帯は不可欠ですから、安倍政権の右翼的性格はもっと強く指摘していいのではないでしょうか。

 志位 その通りだと思います。20人の閣僚のうち公明党所属の1人を除き19人全員が、「靖国」派の団体に加盟歴のある政治家という政権ですから。

 石川 「神道政治連盟」の綱領の第1項は「神道の精神を以(も)って、日本国国政の基礎を確立せんことを期す」ですからね。

 志位 否定されたはずの国家神道ですね。(首相は)ポツダム宣言も「つまびらかに」読んでいないし。(笑い)

 石川 反省がありません。こうした歴史認識にかかわる危険性というのは、重要な攻めどころの一つだと思います。

 志位 「過去の侵略戦争は正しかった」という、歴史逆行の勢力が憲法を変えて海外の戦争にのりだす。こんな物騒な話はありません。

 それから、そもそも安倍首相に憲法改定をもちだす“資格”があるのかという問題もあります。安倍政権は、秘密保護法、安保法制=戦争法、共謀罪と、憲法違反の法律を次つぎと量産し、立憲主義を壊してきた。そんな人に憲法を変える“資格”はありません。いま求められているのは憲法を変えることではなく、憲法をないがしろにする政治を変えることにある。このことも大いに訴えていきたい。

 「安倍9条改憲阻止」は市民と野党の政策合意の第1項目ですから、ここは野党が一致結束してやらなくてはいけません。どれだけたたかいが起こせるかは、次の選挙での協力関係にもつながると思います。

志位 絶対に負けられない沖縄のたたかい

石川 日常的に命が脅かされている状態をそのままにしていいのか

 志位 憲法と並んで絶対に負けられないのが、沖縄のたたかいです。この間の動きにかかわって、二つほど言いたいことがあります。

 一つは、沖縄県民にとって基地問題は、「命と安全」という最低限の条件が踏みにじられている状況で、不安と怒りが限界点を超えているということです。

 一昨年の米軍機オスプレイの墜落事故。昨年の米軍ヘリ炎上・大破事故。米軍ヘリからの落下物が、保育園や小学校に落ちた事故。どれも沖縄県民の「命と安全」を深刻に脅かす事件です。しかも、米軍機が事故を起こしても、日本の警察や海上保安庁がまともな捜査もできない。日米地位協定の壁が立ちはだかっています。さらに、事故同型機がすぐに飛行を始める。日本政府は米軍の言い分をうのみにして容認してしまう。およそ独立国とはいえない屈辱的な状態をこのまま続けていいのか。本土と沖縄が一体となったたたかいを進める必要があると思います。

 いま一つは、辺野古米軍基地は、翁長県知事と稲嶺名護市長――「オール沖縄」の勢力が県知事と名護市長でがんばっている限り絶対につくれないということです。基地をつくろうとすれば、さまざまな問題が出てきて、政府は、設計変更申請が迫られることになります。それに対して、県と市の許可が出なければ工事はできません。「オール沖縄」の勢力が、2月の名護市長選挙、11月の沖縄県知事選挙で勝てば、政府がどんなにあがこうと基地はつくれないのです。ここに確信をもって、選挙で絶対に勝ち抜くことが大切です。沖縄の命運がかかったたたかいです。党としても全力投球で勝利のためにあらゆる力をそそぎたいと決意しています。

 石川 学生といろいろ話をしていると、軍用機が墜落したという話はピンとこないところがあるようです。想像の範囲を超えているのでしょうね。しかし、保育園にものが落ちた、小学校にものが落ちたこととなると話は変わってきます。自分の町の小学校に、7・7キロのものが空から落ちてきたらと、そこはリアルに考えられますからね。

 子どもたちが走り回っている校庭の真上を大きな米軍機が低空で飛んでいる。そんな写真などを見せると、学生たちはぎょっとしています。日常的に命が脅かされているという問題がある。子どもたちをその危険にさらしたままでいいのかと、問題の深刻さが胸に落ちるところがあるようです。

 志位 沖縄では戦後、米兵による少女暴行殺害事件、小学校にジェット機が墜落して多くの子どもたちが亡くなった事件、米軍機から落下傘で降下されたトレーラーに少女が押しつぶされて亡くなった事件、米兵による少女暴行事件など、沖縄県民の心に共通の痛みとなって累積している痛ましい事件が続いてきました。その積み重ねのうえに今回の事故があるということを、私たちは知らなくてはいけない。沖縄の痛みを日本国民全体の問題とし、しっかりと行動できるかどうかに、政党の真価が試されます。

 憲法と沖縄――この二つはどんなことがあっても負けられないたたかいです。

石川 財界による政治買収で「国民に痛み」をおしつける

志位 安倍政権の経済政策は、何もかも説明がつかない政策破綻におちいっている

 石川 暮らしと経済をめぐっては、「アベノミクス」の大破たんという問題があります。

 「アベノミクス」というのは、何か経済学の体系的な裏付けがあるものではなく、財界が求める政策の丸のみでしかありません。民主党政権時代には、財界は政権とどういう距離をとるかで慎重な姿勢を見せましたが、12年の末に安倍政権ができるとただちに強力な働きかけを開始します。「国民にとって痛みを伴うような厳しい改革を推進しなければならない」といきなり述べて、政府の経済運営の司令塔に財界人を入れろとあらためて求め、それらを実行させるために政治献金も出すと露骨によびかけました。

 日本経団連が「意見書」という名の政策文書を政府に渡し、あわせて政権党に金を渡す。これは財界が政府を恒常的に買収しているということですね。買収される側からすれば、たくさん献金してくれる大企業には優しい政治、金を持ってこない貧乏な市民には厳しい政治となるわけです。こんな政治を正当化する屁(へ)理屈が「トリクルダウン」です。大企業が潤えば、いまに下々もなんとかなる。だからまずは大企業を応援しよう、という屁理屈です。

 そんな具合ですから、格差や貧困を広げる安倍政権の個々の政策とともに、企業・団体献金によって政治の買収が合法化されているという日本の政治の構造的な問題も強く批判していく必要がありますね。

 志位 いま言われたように、自民党が政権復帰して以降、財界は言いたい放題の要求を突き付けてきました。社会保障の切り捨ても、財界が作った青写真があり、その通りに強行されてきました。

 総選挙の翌日に経団連の榊原会長が「自民党が安定多数をとった以上は、国民に痛みを伴う改革を断行せよ」と言い、「社会保障改革」をやれ、「予定通り消費増税」をやれと迫りました。

 来年度政府予算案を見ると、社会保障では生活保護切り下げが一つの焦点になっています。政府は、生活保護を一般貧困世帯に合わせて引き下げると言いますが、私は、これほど矛盾に満ちた政策はないと思います。「合わせる」というなら一般貧困世帯の支援こそすべきではないか。だいたい、安倍首相は、「安倍政権で貧困は改善した」と自慢していましたが、一般貧困世帯に合わせて引き下げるというのは、安倍政権のもとで貧困が深刻化していること――自分の政策の破綻を自ら認めるものではないか。安倍政権の経済政策は、やっていることが何もかも説明つかなくなっています。

 石川 子どもの貧困は学生も強い関心を持っている問題です。最近ユネスコから「日本の子どもが大変だ」という指摘がありましたが、市民が「子ども食堂」を広げずにおれない現実がある。大阪では、シングルマザー――シンママさんと言いますが――の生活を支えるために、食べ物を定期的に届ける取り組みが行われています。政治的な主義や主張を超えて、お互い励まし合いながら何とか生きていこうという運動が出てこざるをえないぐらい社会が疲弊させられています。そうした現実に、安倍政権は自己責任と家族責任と地域責任で何とかしろと、自分は何の痛みも感じないという態度です。人間に対する愛情がどこにもない、実に残酷な政治だと思います。

 志位 本当に愛情の一かけらも感じません。富裕層がますます豊かになる一方で、貧困層が深刻になっている。さらに中間層が疲弊しています。とくに年収500万円から1000万円くらいの層が減少し、やせ細ってきている。今こそ「99%の連帯」が必要ですね。「8時間働けばふつうに暮らせる社会」――そういう「ルールある経済社会」への転換が求められていると切に思います。

石川 未来社会は、いまの資本主義社会と「地続き」のところにある

志位 日本共産党の最大の魅力―未来社会論を大いに語っていきたい

写真

(写真)民青同盟41回大会であいさつする志位和夫委員長=2017年12月9日、静岡県内

 志位 資本主義という体制に対して批判が強まっています。

 最近、印象深かったのは、ハーバード大学の調査です。資本主義を支持するかどうかを聞いたところ、18歳から29歳で51%が「不支持」と答えています。社会主義に対しては33%が「支持」と答えている。

 もう一つ、別の調査ですが、米国のミレニアル世代(2000年代に成人・社会人になった世代)に、どういうタイプの社会が望ましいかと質問したのに対して、44%が社会主義国、42%が資本主義国と選択しています。

 それから、イギリスの総選挙後の調査で、「全面的な社会主義政府が実現したとしたらイギリスはどうなるか」という設問に対して、43%が「より生活しやすくなる」と答え、「生活しにくくなる」と答えた人は36%でした。

 資本主義の本家本元のイギリスと最大の資本主義国のアメリカで、資本主義批判が広がっているのはたいへん興味深いデータです。

 石川 日本ではそういうデータは見たことがないですね。アメリカでバーニー・サンダースが掲げた民主的社会主義は、北欧型の社会のことでした。

 志位 おそらく、新自由主義による社会保障の削減とか、富裕層や大企業への減税とか、格差と貧困の拡大などを、資本主義の害悪と感じており、その転換を求めるという流れが調査結果に表れているのではないかと思います。

 石川 資本主義とは何かを学生に話す時には、労使関係の解説を入り口にしています。そして就職というのは直接、その関係の中に入っていくことなんだよと。ところがそこには大量の「ブラック企業」がまっている。そこで、どうしてこんなに「ブラック企業」が生まれるのかという話になり、資本主義の経済は、個々の企業が金もうけを原動力に動くことが基本になっているという話にすすみます。

 学生たちには、それをどう是正するかという話は、自分の生活に密着した目前の切実な問題となりますが、そういう問題を生み出す根本の仕組みを変えるというところには、なかなか想像が及ばないようです。そこで未来社会を論ずるときには、それがいまの資本主義社会と「地続き」のところにある社会だということの強調が大切だと思っています。

 志位 そうですね。

 石川 いまある資本主義社会が抱えている諸問題を一つ一つ解決していった先に、誰もに共通に見えてくる、よりましな社会ということですね。そのためには未来社会そのものを論ずるだけでなく、資本主義の限界がどこにあるかを論ずることが大切です。私がこういう主義を持っているからこういう社会を目指すんだという議論ではなく、現にある問題を解決していったら社会はこういう方向に発展するしかないでしょと、日本社会の発展についての学問的な見通しの問題として未来社会論を提起するというやり方です。

 志位 まったく同感です。いま世界を見渡しますと、資本主義の矛盾がさまざまな形で噴き出しています。世界的な規模で格差と貧困が拡大しています。「リーマン・ショック」の記憶が生々しいですが恐慌・不況が繰り返される。投機マネーが膨れ上がって暴れまわっている。これらの矛盾は、資本主義のもとでは絶対に解決できません。

 OECD(経済協力開発機構)が、「大半のOECD諸国では、過去30年で富裕層と貧困層の格差が最大になった」という報告書を出しました。OECD諸国――発達した資本主義国のなかには、私たちがめざす「ルールある経済社会」に近い国ぐにもあります。しかし、そういう国ぐにを含めて、ほぼ例外なく格差は拡大する傾向にあるのです。格差と貧困は、資本主義に固有のものであり、それを一定程度緩和することはできても、資本主義のもとでは絶対に解決することができません。それで良いんですかという問いかけが必要だと思いますね。

 石川 資本主義の枠の中で解決できる問題は、もちろんただちに解決しなければならないけれど、同時に資本主義では解決のつかない問題もあるのではないでしょうか、その問題の解決も視野に含めて議論しましょうという呼びかけが必要です。それによって、私は社会主義・共産主義はいやですよという人たちとも、同じ土俵の上で未来の社会を探っていくことができるように思います。今と切り離されたところにある未来社会ではなく、今とつながったところにある未来を探求しましょうということです。

 志位 そうですね。それが一番自然な語り方のように思います。同時に、いまの資本主義社会と「地続き」のところにある未来社会という点では、未来社会の特質そのものからストレートに語ることもできると思います。

 昨年の4月に民青同盟のみなさんの取り組みで、「日本共産党綱領セミナー」の講師をつとめました。12月には民青同盟の大会にも行って、あいさつをする機会がありました。未来社会についてもいろいろな角度からお話ししたのですが、若いみなさんから強く反応が出てきたのは次のような点でした。

 一つは、「すべての人間の自由で全面的な発展」――これが未来社会の一番の特質であり、マルクスがその最大の保障を労働時間の抜本的短縮に求めたということです。社会主義・共産主義社会にすすんで、たとえば労働時間が日に2時間、3時間と短くなったら、すべての人に自由な時間が保障され、その潜在的な能力をのびのびと自由に発展させることができるようになる。これが社会全体の素晴らしい発展の力になり、さらにまた労働時間の短縮につながるという好循環が生まれてくる。こういう話をすると、若いみなさんが、いま長時間過密労働や「ブラック企業」で苦しんでいる。何とか現実を変えようとたたかっている。未来社会は、決して遠い先の話でなく、いまのたたかいと「地続き」でつながっていることが分かったとなります。

 もう一つは、未来社会では、生産手段の社会化によって、生産の目的を「利潤第一主義」から「社会と人間の発展」に変えることによって、資本主義につきものの浪費が一掃されるということです。私が、「綱領セミナー」で紹介したマルクスの『資本論』の次の一節には、とても強い反応が寄せられました。

 「資本主義的生産は、他のどの生産様式よりもずっとはなはだしく、人間、生きた労働の浪費者であり、血と肉の浪費者であるだけでなく、脳髄と神経の浪費者である」

 まさに現代日本資本主義に対する痛烈な批判です。「人間材料の浪費」というマルクスの言葉について、「私たちのことを言っている」という感想がたくさん寄せられました。こうした浪費が一掃される。こういう角度から、未来社会の問題は、遠い先の話ではなくて、いまのたたかいと「地続き」でつながっていると話すことも、大切だと思います。

 石川 まだ未来社会までは、だいぶ時間がありますから(笑い)、いろんな角度からゆっくり議論していきましょう。(笑い)

 今年2018年はマルクス生誕200年だということで、多くの人がいろんな形でマルクスに改めて関心を持つ機会があるかと思います。若い学者たちは、以前のような政治的なレッテル貼りからかなり自由に、マルクスを語ることができるようになってきています。この1年ほど『資本論』第1部を若い人たちと読みましたが、彼らの変化を見ていて『資本論』は力のある本だとあらためて感じさせられました。

 志位 マルクスを知らない人も、マルクスの理論が世界に多大な影響を与えてきたことを否定するわけにはいきません。共産党が共産党である理由は、資本主義で人類の歴史はおしまいではない、その先を目指そうというところにあるわけですし、未来社会論にこそ日本共産党の最大の魅力があります。そこを堂々と語ってこそ、私たちの姿を丸ごと理解していただけると思います。今年は、そういう活動にも大いに取り組みたいと考えています。

 石川 期待しています。本日は、ありがとうございました。

 志位 ありがとうございました。


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