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2017年12月30日(土)

2017とくほう・特報

認知症で独居の人 在宅支える 月90回生活援助

安倍政権 来年10月から制限

介護保険の変質招く利用制限

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 安倍内閣はホームヘルパーが調理や掃除を行う訪問介護の「生活援助」について、利用を制限する仕組みを来年10月から導入しようとしています。介護報酬も同4月から引き下げる予定です。在宅介護を支えてきた生活援助を切り下げる理不尽な攻撃に、抗議の声が広がっています。(内藤真己子)


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(写真)掃除を終え、登美子さん(仮名)に声をかけるホームヘルパーの西岡政美さん(左)=東京都足立区

東京・足立

 「顔を見るとホッとするの」。師走の昼下がり。東京都足立区のアパートに1人で暮らす登美子さん(84)=仮名=はベッドに腰かけ、ホームヘルパーの西岡政美さんに話しかけました。「私も、うれしいわ」。笑顔で応じる西岡さん。生活援助で訪問し、昼食の準備をして食事を見守り、掃除機をかけて一息ついたところです。

認知症が進んでも

 夫を自宅でみとり1人暮らしになってから登美子さんの認知症は進みました。「お父さんは入院しているの」。介護度は中度の要介護3です。生活援助を1日3回、月90回利用しています。

 財務省は生活援助の1日1回以上の利用を「効率的なサービス提供が行われていない可能性がある」と攻撃。月90回以上の利用者がいる自治体をやり玉にあげました。足立区もその一つでした。

 登美子さんは時間の感覚があいまいで、食事したのを忘れるときもあります。週1回は鍋を焦がし、区内に住む息子が自動消火装置のあるガスコンロに替えました。同じ食品を何度も買って冷蔵庫がいっぱいになっていたり、電子レンジに豆腐パックがうずたかく積まれていたりすることがあります。一方で、膝に痛みがあるものの杖(つえ)なし歩行でき、毎日近所を散歩しています。

 そんな登美子さんを支えているのが1日3回の生活援助です。3食の調理と食事の見守り、水分補給と服薬確認を軸に、買い物、掃除、洗濯、家事全般をホームヘルパーが担っています。

 もともと、生活援助は朝夕1日2回でした。ところが今夏、ヘルパーが夕方訪問すると、エアコンの電源を抜き、蒸し風呂のような部屋でグッタリしていることが続きました。用意していた昼食やお茶には手を付けず脱水症状を起こし、落ち着きがなくなるなど認知症の症状が悪化しました。昼の援助を追加し、食事と水分補給、室温管理がしっかりできるようになると病状は落ち着いてきました。

 地域の人も目配りしてくれています。ヘルパーが訪問して部屋にいないときは商店街で目撃談を聞き、探すと見つかります。「認知症が進んでも、1日2時間半程度の生活援助があれば住み慣れた地域で暮らし続けることができています。在宅介護は排せつ介助など身体介護だけでは成り立ちません。その人らしい暮らしを支援する生活援助の役割は大きいです」。訪問介護事業所「ファミリーケア柳原」の所長でもある西岡さんは力説します。

ケアマネが萎縮も

 ところが厚労省は、生活援助をおおむね1日1回以上利用する場合、ケアマネジャーに市町村への届け出を義務付けます。利用制限が狙い。当面約2・4万人が対象で登美子さんもその一人です。

 「私はこのプランだからこそ登美子さんを守れていると自信をもって言えます」。担当ケアマネの櫻井邦生さんは語気を強めます。「登美子さんは誤って下着を洗わずに干すこともありますが、ヘルパーが洗濯すれば自分で干して畳むことだってできる。1日3回の生活援助は『非効率』どころか、在宅での自立した生活を支える介護保険の理想的な使い方です。利用制限はやめてほしいです」

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(写真)居宅介護支援事業所「ケアサポート千住」の石田美恵所長

 櫻井さんが所属する居宅介護支援事業所「ケアサポートセンター千住」は約200人のケアプランを作ります。その1割程度が、届け出が義務付けられる1日1回以上の利用者で、大半が独居で認知症の80歳代の人です。石田美恵所長は話します。

 「認知症の方は、たとえ宅配弁当が届いてもヘルパーが声をかけ、お茶を出したりしないと食事をされないことがあります。それに服薬の確認も必要です。地域で支えようと思ったら1日1回どころか2回、3回の生活援助は欠かせません」

 届け出たケアプランは保険者が点検し、医療や介護の多職種による「地域ケア会議」で検証、是正も求められます。「いまは困難ケースの検討や共有をしている地域ケア会議の性格が変わり、サービス規制の場になりかねません。ケアマネが萎縮し自主規制が広がる危険もあります」。石田さんは危惧します。

 安倍内閣の在宅サービス切り捨てはこれに留まりません。政府は21日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、次回報酬改定(2021年)に向け、生活援助と同様の手法による利用回数制限を他サービスに拡大する方針を確認しました。全日本民医連の林泰則事務局次長は警鐘を鳴らします。

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(写真)林泰則さん(全日本民医連事務局次長)

 「今年成立した改定介護保険法では、『要介護認定の変化』などの評価指標で市町村への国庫負担金を増減させる仕組みが導入されました。今後『1人当たり介護費』なども指標に加える方向が示されています。介護給付費削減を市町村に競わせるものです。これと相まって、市町村による地域ケア会議を使ったケアプランのチェックの強化でサービス制限に拍車がかかる危険があります」

生活援助外す布石

 安倍政権は生活援助への攻撃を強めています。経団連会長の榊原定征氏が会長を務める財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は11月末の「建議」で、要介護1・2の生活援助を保険給付から外し自治体事業に移すよう求めました。

 受け皿は要支援1・2の訪問介護と通所介護を保険から外し、自治体事業にした「総合事業」です。そこでは「無資格者」も含む安い報酬の「多様なサービス」が押し付けられています。軌を一にするように来年4月の介護報酬改定では、生活援助を行うヘルパー資格の基準緩和と、介護報酬切り下げが打ち出されました。

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(写真)伊藤周平さん(鹿児島大学教授)

 介護保険制度に詳しい鹿児島大学の伊藤周平教授は「回数制限も介護報酬の切り下げも、軽度者の生活援助を介護保険給付から外す布石です」と指摘します。

 「生活援助は、家事支援を通じて高齢者の日常生活を支え重度化を防いでいます。また増加している認知症の人の見守り的役割も果たしてきました。それは介護保険の理念とされた『介護の社会化』を具体化するサービスの一つです。保険給付から外すことは介護保険制度の大きな変質です。国が進める認知症対策にも逆行しています。これでは高齢化社会は乗り切れません」と厳しく批判します。


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