2017年12月29日(金)
きょうの潮流
水中をスキップするように楽しげに泳ぐカバ。生き生きとした姿に目がくぎ付けになります。冬季だけ運動不足解消のため園内を散歩するペンギンたちの姿も。「行動展示」のパイオニアとして有名な北海道の旭山動物園です▼今年で開園50年を迎えた同園のコンセプトは、「伝えるのは、命」。動物をただ展示するのでなく、ありのままの生活や行動を見せ、動物の故郷の環境にも思いをはせてもらうことを目的としています。50周年記念ロゴのデザインもオオカミ。日本で初めて人の手で絶滅させたのがエゾオオカミだったことからです▼動物たちを守るのが動物園。とはいえ、“人間”を守った動物園が実在したことは、公開中の映画「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」を見るまで知りませんでした▼舞台は第2次世界大戦下のポーランド・ワルシャワ。アントニーナとは、夫と共にワルシャワ動物園を運営していた女性の名前です。動物園所有を逆手に取り、動物園の地下に約300人ものユダヤ人を保護。いかにしてナチス・ドイツを欺いたのか。奇策に目を見張ります▼映画は戦時下の猛獣処分も描かれます。日本も例外でなく「終戦時に生きていたのは、東山動物園のゾウ2頭とチンパンジー1頭、上野動物園でキリン3頭、京都市動物園でゾウ1頭とキリン1頭だけであった」と小菅正夫・旭山動物園元園長▼「すべての命は等しく、すべての命は守られるべきものである」。アントニーナの願いを今こそかみしめたい。