2017年12月23日(土)
来年度政府予算案
安倍晋三政権が22日に閣議決定した2018年度と17年度補正予算案の主な項目の特徴を見ました。
雇用 「限定正社員」など推進
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社会保障関係予算のうち雇用労災対策費は、17年度比1・4%増の373億円。安倍晋三政権による「働き方改革の推進」を掲げています。
安倍政権は「働き方改革」の一環として、正社員より労働条件の水準が低い「限定正社員」などを推進しています。「同一労働同一賃金の実現」は803億円。17年度から250億円の増額です。非正規雇用労働者の待遇改善のため、正社員への転換や処遇改善などに取り組む企業を支援するとしています。
「生産性向上、賃金引き上げのための支援」9億円(17年度比5億円増)を計上しています。賃上げ支援というものの、対象は設備の導入など「生産性向上」です。
長時間労働の是正は19億円(同15億円増)です。労働時間の縮減等に積極的な中小企業を支援するとしています。
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非正規雇用労働者を対象とする国家資格取得等の職業訓練コースの拡充に379億円(17年度比292億円増)を計上するなど、「人材投資の強化」を挙げています。教育訓練給付には159億円(同22億円増)としています。18年1月に給付率等を拡充する専門実践教育訓練給付を含めます。
文教 「無償化」公約先送り
文教関連予算は17年度比34億円減の4兆488億円で、4年連続のマイナスとなりました。安倍首相が「国難」だと総選挙であおりたてた幼児教育や高等教育の無償化は、非課税世帯などごく一部に限定した上、消費税を増税する2019年以降に先送りされました。
小学校の英語の授業増に対応するため、英語の専科教員を1000人増やすなど、加配定数を1210人増やしました。日本共産党が国会で確保するよう求めたものです。教職員の働き方を改善するため、中学の部活を指導する「部活動指導員」や教員の事務を補佐する「スクール・サポート・スタッフ」を新たに7500人配置します。一方、少子化による自然減を差し引くと、教職員定数は前年度から2861人減となります。
幼児教育の無償化に向けて、年収360万円未満の世帯の幼稚園の保護者負担を軽減します。第1子は月4000円、第2子は月2000円引き下げます。
学生や保護者の運動で実現した返還不要の給付型奨学金は、支給枠を2万人分増やします。しかし支給対象となる非課税世帯の子どもだけで約6万人いるため、さらなる拡充が必要です。国立大、私立大の授業料の減免を拡充します。
原発エネルギー 将来まで原発維持§H線
エネルギー対策特別会計(経済産業省分)は、7798億円(17年度比276億円減)を盛り込みました。
政府は「エネルギー基本計画」で30年度に発電電力量の20〜22%を原発で賄うと掲げています。将来にわたって原発を維持するための予算が並びます。
「原子炉の安全技術の強化」に35・6億円(0・5億円増)、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する技術開発委託費に37・6億円(1・5億円増)を計上しました。広島高裁が四国電力伊方原発3号機で運転差し止めを命じるなど原発の危険性を指摘する声が高まっていますが、政府は原発再稼働路線にしがみついています。
原発輸出を進めるため、海外原子力施設の使用を支援する人材の育成に予算を割り当てています。「電源立地地域対策交付金」に822億円、「原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業」に56億円を盛り込みます。多額の交付金で原発の維持を自治体に認めさせています。
火力発電の技術開発や海外展開に131億円を盛り込みました。化石燃料は多くの温室効果ガスを排出するため、パリ協定の発効で高まる地球温暖化対策の機運に逆行します。
低炭素エネルギーの対策予算として太陽光などの研究開発などに1187億円(13億円減)と減額しました。
IT・情報 大企業優遇の項目並ぶ
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安倍政権の経済政策「未来投資戦略2017」は人工知能(AI)などの先端技術を産業や生活に導入する「ソサエティー5・0」を成長政策の目玉として推進しています。18年度予算には「生産性革命の一環」として先端技術の開発に予算が重点配分されています。
大企業中心に先端技術の開発が進んでいるため、大企業を優遇する予算項目が並びます。経済産業省は、高速処理を可能とするAIチップやロボット技術などの開発に164・9億円を盛り込みました。15年度から新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施している「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」は三菱電機やパナソニック、日本電気などの民間事業者に交付金を支給し、AI開発を委託しています。
小型電動車や小型バス、トラックなどの「高度な自動走行システム」の実用化をめざすとして、研究開発・実証事業に35億円(17年度比9億円増)を計上しました。16年度から始まった5年間の事業で、国立研究開発法人「産業技術総合研究所」が幹事機関となり、日立製作所、ヤマハ発動機、豊田通商などの民間企業とともに事業を進めています。
文部科学省は「ソサエティー5・0の実現に向けた重点分野への戦略的配分」として179億円(133億円増)と増額しています。
公共事業 住民無視の大型開発
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公共事業関係費は5兆9789億円で、6年連続の増加となりました。
「効率的な物流ネットワークの強化」として、道路網の整備に、17年度比4・6%増の2283億円を計上。住民の反対を無視して進められている東京外かく環状道路など三大都市圏環状道路や、空港・港湾へつながる道路の整備を含みます。財投融資1・5兆円も投入されます。国際コンテナ戦略港湾等の機能強化は、同0・5%増の766億円です。
首都圏空港等の機能強化として同2・3%増の150億円を計上。2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会などに向けて羽田空港では、発着便本数を増やすために都心上空を飛行するルート変更が計画されています。騒音被害や落下物など事故の危険があり、批判が広がっています。
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7月の九州北部豪雨など、水害・土砂災害が起きた地域の再度災害防止対策は492億円(17年度比24%増)です。道路・河川管理施設等の老朽化対策に道路3683億円(同6・5%増)、河川管理施設等1986億円(同1・8%増)をそれぞれ計上。防災・安全交付金は同0・5%増の1兆1117億円です。
軍学共同 2年連続の100億円超
防衛省が大学や企業などに研究資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」は101億円で、2年連続で100億円の大台を超えました。同制度は安倍政権が15年度に創設。17年度に予算は16年度比で18倍化し、110億円に激増しました。
同制度は、防衛省が1件当たり最大20億円(期間5年)を提供し、将来軍事に役立つ可能性がある科学技術の研究を委託するもの。ステルス技術や無人機技術につながる研究内容が含まれています。防衛省職員が進み具合をチェックします。
「研究者版・経済的徴兵制」との批判の高まりや、日本学術会議が「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」とする声明を発表したことで慎重な姿勢が広がり、大学からの応募は連続で減少。巨額の予算を維持することで、安倍政権は軍学共同の障壁を崩そうとしています。
中小企業 「稼ぐ企業」に支援偏る
中小企業対策費は、17年度比39億円減の1771億円を計上しました。一般会計予算額に占める割合はわずか0・18%であり、過去最低です。減額の要因として信用保証制度を運営する日本政策金融公庫への出資金の減少を挙げています。
18年度予算案に「地域中核企業・中小企業等連携支援事業」として161・5億円(6・5億円増)を盛り込みました。同事業は「地域経済における稼ぐ力の好循環の実現」を目的とする地域未来投資促進法に基づきます。「稼ぐ力」のある一部の企業に偏った支援をすることになります。補正予算案では革新的な商品やサービスの開発のための設備投資支援に1000億円、IT導入支援に500億円を計上しました。
経営者の高齢化などによる後継者対策として事業引き継ぎ支援事業に68・8億円(7・7億円増)を計上。
農業 転作・大区画化を推進
農林水産関係予算は、17年度比50億円減の2兆3021億円です。政府による米の生産調整(減反)を廃止することに伴って、生産調整に協力する農家へ支払っていた米の直接支払交付金(17年度当初は713・8億円)を廃止しました。
他方、米からの転作を進める水田活用の直接支払交付金として17年度比154億円増の3210・5億円を計上。農地の大区画化や水利施設の改修を進める農業農村整備関連事業に328億円増の4348億円を充当。来秋から加入申請が始まる収入保険制度に向け、その保険料や積立金の国庫負担分として、新規に260億円を計上。この3費目の増額分の合計が742億円となり、米の直接支払交付金の廃止分を充てた格好です。周辺海域で増える外国漁船の違法操業対策に148億円を充てました。
地方財政 一般財源総額、前年並み
地方交付税や地方税など自治体の裁量で使える「一般財源総額」は、62・1兆円で17年度並み(0・1%増)でした。
地方税収の4千億円増を見込んだことに伴い、地方交付税は17年度比3千億円減の16兆円。財務省は自治体の基金残高増を理由に地方交付税の削減へつなげようとする構えを見せていましたが、地方の反発もあり18年度予算には影響しませんでした。ただ19年度予算に向けた議論では、攻防が激しくなることが予想されています。
また、徴税強化や給付抑制、プライバシー侵害の危険があるマイナンバー制度推進のための予算は前年度から40億円を増額し、270億円が計上されました。
リーマン・ショック(08年)後の景気対策として設けられ、17年度は2千億円計上されていた「歳出特別枠」は廃止されました。
科学技術 「もんじゅ」廃炉に25億円
科学技術振興費は1兆3159億円で17年度比114億円増えました。伸び率は0・9%で17年度と同じです。
「光・量子飛躍フラッグシッププログラム」22億円、「ソサエティー5・0実現化拠点支援事業」7億円、「官民研究開発投資拡大プログラム」100億円などが新規事業として盛り込まれました。いずれも、研究機関と大学の研究成果を大企業のために使う「イノベーション政策」推進をうたっています。
ノーベル賞受賞者を含む著名な研究者が基礎研究充実のための施策を求める中、資金面で支援する「科学研究費助成事業(科研費)」は2286億円で17年度比2億円増とほとんど伸びていません。
廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」は17年度と同じ179億円が計上されました。このうち廃炉経費が25億円を占めています。
ODA 「インド太平洋戦略」で増
一般会計の政府開発援助(ODA)予算は、17年度比11億円増の5538億円となり、3年連続の増額となりました。政府は、「安倍政権の『地球儀を俯瞰(ふかん)する外交』を推進していく観点から、3年連続の増」だと説明しています。
外務省分のODA予算も4344億円(17年度比1億円増)と8年連続増となり、安倍晋三首相が提唱した「『自由で開かれたインド太平洋戦略』の具体化」に向けた措置としています。
インド洋と太平洋がつなぐアジア・アフリカ地域の安定と成長を目指す同戦略には、外務省予算案で333億円(17年度比116億円増)を計上。安倍首相は11月、来日したトランプ米大統領との首脳会談で、戦略の実現に向け連携を呼び掛けていました。同地域で影響力を増す中国に対抗する狙いがあります。