2017年12月15日(金)
日大雇い止め撤回を 非常勤講師立つ
労組に入り実名ネット発信
日本大学(本部・東京都千代田区)が非常勤講師の大量雇い止めを強行しようとしている問題で、非常勤講師が首都圏大学非常勤講師組合に加入し、雇い止め撤回のたたかいに立ち上がっています。(田代正則)
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東京都世田谷区の日本大学三軒茶屋キャンパスに、2016年4月に新設されたばかりのスポーツ科学部と危機管理学部で、英語担当の非常勤講師16人全員が来年3月での雇い止めを通告されています。講師への説明会で、「英語教育課程を再構築する」などと言われましたが具体的な内容は分かりません。学部当局は「教育効果があがっていない」「授業評価がよくない」など、講師に問題があるかのような発言をしています。
認可の不履行
「非常に心外です」と憤るのは雇い止めを通告された井上悦男さん(52)です。日大のなかで実績を重ね、危機管理学部で週4コマの講義を受け持つほか、他学部とあわせ週19コマを担当しています。「1コマごとの契約という不安定雇用、低賃金の非常勤講師にとって、学生の成長を支えていることが最後のプライドなんです」
新設学部は最初に卒業生を出す「完成年度」までの4年間の計画で文科省から認可されています。
非常勤講師組合の今井拓副委員長(日大非常勤講師)は「加計学園の認可が問題になっていますが、日大で学部新設から2年もたたないうちに文科省認可の不履行を許せば、無責任な認可と履行チェックになりかねません」と指摘します。
井上さんは、日大から講師就任の要請を受けたとき、最低4年は続けるよう求められました。ほかの仕事を断って引き受けただけに、経済的にも大打撃です。
選択科目が多い大学で、必修の英語の担当は、担任のような気持ちで学生を見守ります。「入学した学生たちは、新設学部の雰囲気を自分たちでつくろうと活発でした」と井上さん。講師陣も、どんな学生が集まっているのか手探りで特徴をつかみ、使える英語力が身につくよう、教え方を工夫しました。「学生たちは、私が廊下を歩いていると、声をかけてくれただけに、雇い止めはくやしい」
井上さんの友人に非常勤講師組合の組合員がいました。早稲田大学で非常勤講師の5年上限雇い止め制度の撤回を勝ち取ったことを聞いていました。友人に連絡を取り、すぐに組合に加入を決意しました。
11月28日の団体交渉で、大学本部は「事実関係を確認する」と回答。12月8日、学部から聞いた内容の中間報告を出しましたが、文科省認可に関わるカリキュラムと教員配置の変更について、大学本部が把握していない実態が明確になりました。
日本共産党の畑野君枝衆院議員は、1日の衆院文部科学委員会で、新設学部の認可後、完成年度以前の人員変更は問題だとして、日大を調査、指導するよう追及しました。
文科省の義本博司高等教育局長は、雇い止めについては当事者間で解決すべきだとしつつ、「(認可の)履行状況調査のなかで、仮に合理的な理由がなければ必要な指導をする」と答えました。
声あげないと
井上さんは「大学人として不合理なことには声をあげないと大学がおかしくなってしまう」と、ネットのミニブログ「ツイッター」に実名を公表して、雇い止め撤回を訴えはじめました。
日大ではほかにも、改正労働契約法によって雇用継続5年を超える有期契約労働者が無期契約に転換できるようになる来年4月を前に、非常勤講師の契約上限を5年に変えて、無期転換逃れを図っています。雇い止め通告を受けた講師も複数学部に広がっています。
井上さんは「立場の弱い人たちでも、支えあえると思います。私の情報発信で労働組合を知ってほしい」と言います。非常勤講師組合は、雇い止め撤回を実現するため、日大で4000人いると推計される非常勤講師に組合加入を呼びかけています。