2017年12月2日(土)
主張
笹子トンネル事故
インフラ安全対策を最優先に
山梨県の中央自動車道笹子トンネルで2012年12月、コンクリートの天井板が崩落し通行中の車が巻き込まれ9人が死亡、3人が負傷した事故が発生してから2日で5年です。トンネルを管理する中日本高速道路の当時の社長らが業務上過失致死傷容疑で書類送検(11月30日)され、安全管理をめぐる責任追及は引き続き問われる課題です。それとともに、トンネルをはじめインフラ(社会基盤)構造物の安全対策を抜本的に強めることは政治の役割です。悲劇を繰り返さないためにも、公共事業のあり方の検証は不可欠です。
維持管理と更新の予算を
国土交通省の事故についての調査・検討委員会は13年6月にまとめた「報告書」で、施工時からボルトの強度が不足していたことやボルトを固定していた接着剤が劣化したことなど、複合的な要因が事故につながったと指摘しました。遺族が賠償を求めた民事訴訟では15年12月、横浜地裁が「天井板をつり下げた金具のボルト部分の経年劣化で崩壊の可能性は予測し得た」と、中日本高速道路などに賠償を命じる判決を言い渡し、この判決は確定しました。会社と元役員の責任は重大です。
同時に、この事故は道路、橋、トンネル、水道管といったインフラの点検、維持修繕・更新などの老朽化対策が喫緊の課題であることを浮き彫りにしました。国交省は、14年からトンネルや橋の5年に1度の近接目視による点検を基本としました。しかし財政難にあえぐ地方自治体が補修などによる維持を見送るケースが目立つとされています。1960年〜70年代に建設された多くのインフラが“寿命”を迎えつつあるもと、維持・更新のための公共事業をすすめることが求められています。
国交省所管の道路やダムなど10分野の維持管理・更新費は13年度の推計で年間3・6兆円、20年後には年間で最大5・5兆円かかると推定されており、その費用を優先的に確保することが必要です。
ところが安倍晋三政権が15年に閣議決定した「国土形成計画」は、国際競争力強化のためのインフラ整備などをうたい、新規の大型開発事業を推進する姿勢です。東京―大阪を結ぶとするリニア中央新幹線を核に、首都圏、中部圏、近畿圏を一体化した拠点とする世界最大の「スーパー・メガリージョン」を構想、それを背景に大都市圏の大規模開発が活発化しています。20年の東京オリンピック・パラリンピックや訪日外国人増加を理由に、首都圏空港、国際コンテナ戦略港湾、大都市圏環状道路である東京外かく環状道路など高速交通網の整備が急ピッチです。
そうした中、1件当たり10億円以上の大型工事が公共事業費全体で占める割合は4年間で17・4%から25・4%になりました。金額では1・5兆円もの伸びです。
大型事業の抑制・削減で
新規大型公共事業を削減・縮小すれば、インフラの維持管理・更新費用をまかなうことは可能です。新たな大型事業を抑制し、防災と老朽化に備えた維持・更新事業を優先すべきです。大型から小規模生活密着型の事業への転換も急務です。国民の命と安全、暮らしを守るため、公共事業を抜本的に見直すことは、笹子トンネル事故の犠牲者と遺族の願いにこたえる道でもあります。