2017年11月30日(木)
嫡出否認 「夫のみ」合憲
神戸地裁判決 女性の訴え棄却
暴力から守る法整備が必要
生まれた子と父子関係を否定する「嫡出否認」を夫だけに認める民法の規定は、男女平等を定めた憲法に違反するとして、兵庫県の60代の女性と長女、孫2人が国に計220万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が29日、神戸地裁でありました。冨田一彦裁判長は「規定は憲法に違反しない」として、原告の請求を棄却しました。
原告側の代理人弁護士によると、嫡出否認規定の違法性を争う訴訟は全国で初めて。
訴状などによると、女性は約30年前に元夫の暴力を理由に別居し、離婚成立前に別の男性との間に長女が生まれました。女性は男性を父とする出生届を出しましたが、「婚姻中に妊娠した子は夫の子どもと推定する」とする民法の規定で不受理となりました。
元夫に嫡出否認の訴えを起こしてもらうことも検討しましたが、接触を恐れ断念。長女とその子ども2人は昨年まで無戸籍でした。
訴訟で原告側は「妻や子が訴えを起こせれば無戸籍にならなかった」と指摘。国会が民法を改正しなかった立法不作為のため、無戸籍を強いられ精神的苦痛を受けたと主張しました。国側は「父子関係を早期に確定する嫡出推定制度には合理性がある」として請求棄却を求めていました。
判決は、規定の「合理性」を肯定する一方、配偶者の暴力からの保護を与える法整備などが必要だと指摘。こうした対策がなければ、仮に妻に嫡出否認の訴えの提訴権を認めても、行使困難なことがあると考えられると述べました。
原告側控訴へ
判決後に記者会見した原告側の作花(さっか)知志弁護士は、判決内容について「嫡出否認を夫のみに認める民法の規定は憲法に違反していないとしたが、無戸籍児が生まれるのは法律的なケアがされていないからではないかという指摘がされた。国会での立法などが必要ではないかという裁判所のメッセージがあるように思う」と述べ、控訴することを明らかにしました。
国会や総務省に法整備を求めていくとともに、最高裁まで争うことを視野に、否認権の規定も憲法違反であるという判断をいただきたいと述べました。
原告の女性は「(判決の)前半は失望したが、後半で夫からの暴力の問題に触れてくれたのは、光が見えた。DV(家庭内暴力)についての法整備が進むのなら、これまでやってきた意味があったと思う。同じ問題で苦しんでいる人と一緒に声を上げていきたい」と話しました。
嫡出否認の訴え 民法772条は、▽女性が婚姻中に妊娠した場合は夫の子▽離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子、と推定すると規定(嫡出推定)。同774条は「嫡出推定」を覆すための「嫡出否認」の訴えを夫、前夫のみに認めています。夫の暴力から逃れた後や離婚した後に、別の男性との子を出産した女性は出生届が受理されず、子が無戸籍になることが多いとされています。法務省によると、無戸籍者は11月10日時点で全国に719人おり、嫡出推定で夫や前夫の子とするのを避けるため、母親が届けないケースが75%に上ります。