2017年11月30日(木)
きょうの潮流
スポーツと絵を描くことが大好きなモンゴルの少年が異国の地を踏んだのは16歳のときでした。力士にならないかという誘いより、「日本に行ってみたい」と気持ちが動きました▼デビュー当時から体重が増えず、稽古よりもつらかった食事。兄弟子の監視の下、食べては吐いてのくり返し。ガリガリの体が嫌で他の力士の前でまわしをつけるのが恥ずかしく、トイレにこもった日々も…(『横綱』)▼20歳で新入幕を果たし、8年後の2012年、ついに最高位まで上り詰めました。軽量を補うスピード相撲。「真っ向勝負」「全身全霊」を身上としたように、なによりも心の強さで大型力士たちに対しました▼第70代横綱の日馬富士が暴行問題の責任をとって引退しました。発覚後さまざまな臆測が飛び交いましたが、関係者から送られてきたという貴ノ岩の頭部の写真は生々しい。裂傷が見られ医療用のホチキスが打たれていました▼「横綱として、やってはいけないことをやってしまった」。本人はそういいながら、礼儀と礼節がなっていない時に教えるのが義務、叱ったことが彼を傷つけ世間を騒がせたとも。そこに暴力への真剣な反省があるのか、首をかしげざるをえません。それは暴力が絶えない角界全体にも通じます▼社会貢献にも熱心だった日馬富士。相撲を通じ希望を与えられるようにとがんばってきた力士が、こんな形で土俵を去ることになろうとは。その痛恨を一人ひとりが胸に刻み、暴力根絶を誓わないかぎり、再生は遠い。