2017年11月21日(火)
笹子トンネル事故5年 責任問う父母
亡き娘から届いたマフラーに誓う
9人が犠牲となった笹子トンネル天井板崩落事故は、来月12月2日で発生から5年となります。松本玲さん=当時(28)=は、父の邦夫さん(66)への誕生日プレゼントを渡すことなく、事故で犠牲となりました。マフラーに織り込まれた玲さんの思いは―。(矢野昌弘)
|
父の誕生日へ準備したが…
晩冬に手織りのマフラー届きたり 贈りし娘すでにゐなくに
邦夫さんは、事故や玲さんを突然失った心情を50首の短歌にしました。この歌は、事故から3カ月後の2013年2月に届いた玲さんからの贈り物をうたったものです。
玲さんは、邦夫さんの誕生日12月26日のために事故前に注文していました。淡い紫とベージュのマフラーを手に邦夫さんは「いい色ですよ」と言います。
玲さんは大学院やドイツで音響工学を学び、事故は音響関係の企業に就職して2年目のことでした。
事故が起きた年の12年2月、初めてのボーナスで母の和代さん(66)に誕生日のプレゼント。和代さんが好きなサマルカンドブルーが鮮やかな手織りの木綿のストールでした。
和代さんは「ストールが届いた時、電話で『次はお父さんだからね』って。私が、あの子の声を最後に聞いたのは11月に『糸は何色にしようか』という相談の電話でした」と振り返ります。
自分の物より「恩返しを」と
|
玲さんがマフラーを注文したのは「つばめ工房」(東京都台東区)。和代さんのストールを頼んだ店です。シェアハウスに住んでいた玲さんが仲間とよく歩いていた、おかず横丁の一角にあります。
つばめ工房の高橋京子さん(64)は「玲ちゃんは、誰とでも仲良くできる人なつっこい子でしたね。『両親には本当にお世話になったから初めてのボーナスで恩返ししたい』『お父さんの次はおばさん(和代さんの姉)の分をお願いしたい』と話していました。『自分の分は後でいい』とも言っていました」と話します。
「私が『お父さんぐらいの年齢の男性だとダークな色がいいのでは』というと、玲ちゃんは『お父さんにダークは似合わない』と言って、玲ちゃんは『紫がいい』と」
事故の翌日、高橋さんの夫、克明さん(64)は「注文のいきさつをご両親に伝えたかった」と、シェアハウスへ駆けつけました。そして高橋さん夫妻は「絶対に作って、ご両親に渡そうね」と取りかかりました。
和代さんは、玲さんの遺品から注文伝票を見つけ、工房と連絡をとりました。こうしてマフラーは邦夫さんの元に届きました。
事故をめぐっては、犠牲となった玲さんら青年5人の遺族が、中日本高速道路の役員らを刑事告訴しましたがいまだ立件されず、責任追及や原因究明が果たされていません。
松本さん夫妻は静かに語ります。
「あの子たちがなぜ死ななければならなかったのか、という思いが常にある」(邦夫さん)、「亡くなったあの子たちに代わって、なぜ事故が起きたのか、私たちが問うしかない。国と中日本からは、まだ答えはもらっていない」(和代さん)