2017年11月16日(木)
きょうの潮流
その日は暖かく、中学1年の娘はコートを持たずに登校しました。いつものように夕飯をつくりながら帰りを待つ母。それから40年。今も娘は帰ってきません▼1977年11月15日。当時13歳だった横田めぐみさんが忽然(こつぜん)と姿を消しました。必死に探し回った母の早紀江さんと父の滋さん。畳をかきむしり、絶叫するように泣いた日々。何年たっても同じ年頃の似た女性を見かければ顔を確かめ、手がかりを見つけるため遠くにも駆けつけました▼「いちばんつらかったのは何もわからないこと」。20年後、北朝鮮に拉致されたとわかるまで、波のように押し寄せてきた苦しさ。届かない思いは行方が明らかになってからも同じでした。帰国した拉致被害者の中にも姿はなく、その後の交渉も進んでいません▼「40年たっても何もわからない状況で(政府を)信じてよかったのかという思いが家族の中にもあります。本気になって被害者を助け出してほしい」。きのうの記者会見で早紀江さんはそう語りました▼トランプ米大統領の来日に際しては「戦争だけはやめてほしい」と。滋さんも制裁一辺倒では拉致問題は動かないと以前から主張してきました。軍事や圧力だけでは決して道は開かない。長く運動にとりくんできた2人の実感なのでしょう▼写真の娘の顔をなでながら「いつになったら帰ってこられるんだろうね」と声をかけてきた母も81歳。父は85歳に。「1時間でもいいから会いたい」。あの日から娘の帰りを待ち続ける両親の叫びです。