2017年11月11日(土)
2017とくほう・特報
加計学園獣医学部新設
“特別扱い”疑念晴れず
安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」(加計孝太郎理事長、岡山市)の獣医学部新設を認める答申を、文部科学省の大学設置・学校法人審議会が出しました。審査では厳しい意見があいつぎ、答申も“条件つき”でした。愛媛県今治市が国家戦略特区に提案した「国際水準の獣医学部」とはいえない実態が浮き彫りに。それでも、林芳正文科相はすみやかに認可すると表明しています。安倍政権はどこまで、ゴリ押しを続けるのか―。(原千拓、三浦誠)
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是正意見が相次ぐ
「大学設置審はもともと設置基準の最低ラインでしか審査しない。加計学園の申請は、最低基準に到達するのさえ苦労している」。大学設置に詳しい文科省関係者はそう指摘します。
審議会では第1次審査で是正を求める意見が相次ぎ、「警告」がつきました。警告は、法令に抵触するか、内容が不明確な場合に付される「是正意見」が5件以上ある場合が対象です。
とくに教員体制については、厳しい意見が出されました。
―臨床系の教員については高齢層に偏りがみられる
―実習を補助する立場の助手がまったくいない
―カリキュラムの実現可能性に疑義がある
教員体制について答申は、「留意事項」を記し、引き続き改善を求めました。獣医学部は6年間の履修が必要です。開学から6年たつ前に退職年齢を超える専任教員の割合が「比較的高い」ので改善せよ、というのです。
獣医師養成系大学の教員事情に詳しい関係者は、「加計学園は他大学の獣医学部を定年退職した教員が多いと聞いている」といいます。
教員体制が不安定ならば、新設認定の大前提が崩れます。
国家戦略特区による獣医学部新設は、今治市のほかに京都府と京都産業大学が表明していました。
今治市のみを選んだ理由について山本幸三地方創生担当相(当時)は参院内閣委員会(6月)で、日本共産党の田村智子副委員長の質問にこう断言しました。「今治市は専任教員を70人確保するとしている」「すぐにでも開学できる」
すぐ開学できるどころか、実際には開学後も不安が残る内容だったのです。
先の文科省関係者は、あきれた口調でこう言います。「設置認可で一番大切なのは、教育をする教員の体制。せっかく入学しても卒業する前に教員が定年になるのでは学生が困る。他大学を定年した教員ばかり集めても、『国際水準の獣医学部』なんてできるわけがない。文科相は認可を思いとどまるべきだ」
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実習体制にも不安
答申には、獣医師になるための実習にも留意事項が付されています。大学に付属する動物病院で外来診療する動物の確保などです。
国立大学のある獣医学部教授は、こう疑問を呈します。「教育のためには、動物の症例が少なくとも年間1万件は必要だ。今治で果たして年間1万もの動物が診察にくるのか」
現状で定員が最も多いのは、麻布大学の120人。加計学園の獣医学部は、それを超える140人で国内最大規模となります。
獣医師養成系がある既存の16大学は現在、国際水準の教育を目指しています。欧州に比べて日本は、実際に動物を診察や治療する臨床教育が弱く、これを克服するため、各大学が相互に協力して新たに参加型実習をはじめています。
前出の教授は、加計学園の実習内容も懸念します。答申が、一度に実習に参加する学生を分散するなど工夫が必要との留意事項もつけているからです。
この教授は指摘します。「一グループを数人に分けて実際の業務に入っての実習が必要だ。これをするのは既存大学でも大変。140人も学生がいて大丈夫か。文科相は認可をせず、計画を練り直させたほうがいい」
「4条件」審査せず
もともと文科省は、獣医学部の新設を告示で禁じてきました。獣医師行政を所管する農林水産省が、獣医師の需給は足りていると判断しているためです。農水省は現在もこの判断を変えていません。
加計学園の獣医学部はあくまでも国家戦略特区の規制緩和による「特例」です。特例をつくる前提として安倍内閣は2015年6月、既存の獣医師養成でない構想が具体化すること、既存の大学では対応が困難な場合など、「4条件」を閣議決定しました。
しかし設置審では4条件を審査しませんでした。当時、文科省事務次官だった前川喜平氏は、文科省内で4条件を検証していないと証言しています。
文科省や設置審で4条件が審査されていないならば、資格がないのに試験をうけて、「合格」と判断されたようなものです。
疑問がいっこうに解消しないにもかかわらず、林文科相は加計学園の学生募集に配慮してすみやかに認可を出そうとしています。これほどまでの“特別扱い”は、安倍首相の「ご意向」があるからではないのか―。
安倍首相は総選挙中に「丁寧に説明する」としましたが、街頭演説でこの問題にいっさいふれず。選挙後は国会での説明を回避しています。加計理事長も「会見の予定はない」(同学園)としており、疑惑はいまだ晴れません。
関係者が説明から逃げるなか、真相解明のためには国会での証人喚問は不可欠です。
国民に十分説明を
前川前文科次官が談話
文部科学省の前川喜平前事務次官は10日、大学設置・学校法人審議会が加計学園の獣医学部を認める答申を出したことについて、ただちに認可すべきではないとの談話を公表しました。
前川氏は、安倍内閣が閣議決定した「4条件」を同学園の獣医学部が満たすかどうかを設置審は判断しておらず、再確認する必要があると指摘しました。
また獣医学部新設が認められた過程で、不公正や国家の私物化があったのではないかという疑念が国民のなかにあると強調。「総理のご意向」により、初めから「加計ありき」で「腹心の友」にだけ特別な恩恵を与えることが決まっていたのではないかという疑念に、「政府は正面から十分に説明を尽くさねばなりません」と述べています。