2017年11月9日(木)
きょうの潮流
家路につく人たちが足早に通り過ぎてゆく夕暮れの駅。そこから歩いて、わずか数分のアパートに彼女たちはどんな思いで向かったのだろうか▼都心から延びる沿線に並ぶ住宅地の一角で見つかった若い男女9人の遺体。頭部が切断され、クーラーボックスに入れられていた現場は、人びとが普通に息づく場所でした。すぐ近くには保育園や体育館、フラワー教室を開く家や公園も▼神奈川県座間市で起きた連続殺人事件の発覚から10日。少しずつ様子はみえてきましたが、SNSのツイッターを使った巧妙な手口と、次々に殺しては遺体を自宅に置いていた無造作の落差におののきます▼27歳の容疑者は金銭を奪い、性的暴行の目的もあったと供述しています。「自殺したい」と書き込んだ被害者たちの気持ちに寄り添うふりをして誘い出し、自宅で酒や薬を飲ませて襲ったと。悩みや助けを求める声につけ込む犯行の卑劣さと、欲望のまま命をあやめる短絡さに、やり場のない怒りがこみあげてきます▼見ず知らずの人間同士をたやすくつなげるSNS。悪用する犯罪は急増し、とくに若い世代の被害が多い。危ない書き込みに対する管理者の対応やネットを通した相談体制の充実、家族や学校での啓発活動が防止策に挙げられますが、こうしたネット犯罪に追い付いていないのが現状です▼だれかとつながりたいという彼女たちの孤独な心を癒やし、命を救う手だてはなかったのか。さびしげに風に揺れる線路沿いのススキが問いかけてきます。