2017年11月4日(土)
主張
「民泊新法」施行令
住民の不安・懸念は解消されぬ
空き家や空き室を宿泊施設として提供する「民泊」をめぐるトラブルは依然後を絶ちません。そんな中、安倍晋三政権は、民泊を事実上解禁する「民泊新法」(住宅宿泊事業法)を6月の国会で成立させました。新法は届け出さえすれば民泊の営業を認めることを基本原則にしたものです。政府は10月末、新法の施行日を来年6月15日にし、必要な措置などを定める施行令や施行規則を決めました。一連の決定は民泊を広げるための“推進宣言”です。地域を置き去りにして、「解禁ありき」で民泊を進めることは許されません。
「非常事態宣言」も出て
政府による「民泊」推進のもとで、法律上許可のない「違法民泊」による住民への被害が各地で深刻化しています。
京都市のある自治会連合会は総会で「民泊の激増は、非常事態」との切実な声を受け「地元町内会などの合意なしに、宿泊施設の開業を許可しない、旅館業法の許可を受けていない『ヤミ民泊』を徹底的に取り締まることを求める」などとした「非常事態宣言」を出す状況になっています。不動産を扱う京都府宅地建物取引業協会も2月に「違法な『民泊』には加担せず、適法で周辺環境に調和した良質な民泊等宿泊施設の提供に協力していく」と表明、業界の新たな動きが注目されています。
今回決定された施行令などは地域住民の懸念を払しょくするものではありません。不安をそのままにして民泊を強引に推し進めることは極めて問題です。施行をいったん凍結するなどし、違法の取り締まりこそ強化すべきです。
新法第18条は「(民泊に)起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるとき」などは実施期間を制限できるとしています。この条文を有名無実化させてはなりません。管理者を24時間常駐させることや防火対策を関連法令に基づき順守させることも必要です。
住宅密集地や分譲・賃貸マンションでの「民泊禁止」など厳しい規制を条例制定で実現することを関係省庁に認めさせていくことが重要です。2月の衆院予算委員会で、日本共産党の穀田恵二議員の質問に、塩崎恭久厚生労働相(当時)が「旅館業法の基本哲学を実現していく」との考えを示したことは、地方自治体が強い規制の条例を制定する上で足がかりとなるものです。
京都市では新法施行に伴う条例制定の検討会議で座長が「京都市は文化遺産や観光客が多いといった地域特性から、可能な限り旅館と同レベルの安全を確保しようと考えている。その姿勢を明確に打ち出さないと、住宅の宿泊事業への転用が緩い方向で広がってしまう」とのべています。旅館業法なみの厳格な規制は不可欠です。
安心できる観光政策こそ
観光をめぐる問題は民泊だけではありません。東京五輪を控え東京など大都市では外国・大手資本による大規模ホテル建設ラッシュが真っ盛りで、大手が中小のホテルや旅館の利用客を奪う事態にもなっています。
地域の中小企業や小規模事業者が営業を継続・維持し、住民が安心して暮らせることにつながる観光政策へ道筋をつくることこそ求められています。自治体レベルでの規制・監視強化を図るための措置は欠かせません。