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2017年9月24日(日)

保護者の年収が子どもの栄養に影響

学校給食が解消への力

国は無償化へ踏み出すとき

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 学校給食のある日は、世帯年収による栄養格差がなくなる―。こんな調査研究がこの夏、まとめられました。学校給食は子どもの貧困対策として、子どもの食のセーフティーネットの役割を果たしていることを裏付けました。無償化が広がる学校給食の力を見てみました。(武田恵子)


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(写真)学校給食無償化のとりくみが広がっています(写真は、群馬県前橋市で5月に開かれた学習交流会)

 世帯年収による栄養格差の調査をしたのは、新潟県立大学の村山伸子教授らです。東日本の4県19校の小学5年生(1447人)を対象に実施し、836世帯が回答しました。給食のある平日(2日)と給食のない週末(2日)の食事を文と写真で記録し、世帯年収水準別(下位、中位、上位の各層)に栄養摂取量を算出しました。

 収入による差が目立つのは緑黄色野菜や魚介類の摂取量(1日平均)です。緑黄食野菜では週末、世帯年収下位層が56グラム、中位層が69グラム、高位層が62グラムでした。一方、平日は下位層が80グラムに対し中位層・高位層が85グラムでした。平日に比べ格差が縮まりました。

 魚介類では、週末は下位層43グラム、中位層48グラム、高位層55グラム、平日は下位層と中位層50グラム、高位層が56グラムでした。週末は差が生まれましたが、給食のある平日は差が解消または縮小しています。

 栄養素別にみても同様の結果が出ました。給食のない週末は、下位層の子どもはたんぱく質、ビタミン、ミネラルの摂取量が少なく、炭水化物エネルギー比率が多くなっていることがわかりました。一方、給食のある平日は格差が改善されています。

 世帯年収別で栄養格差が生まれることは、韓国や欧米の研究でも明らかにされていますが、「学校給食のある日は、栄養格差がなくなることを世界で初めて明らかにした」と村山さん。「これまで、開発途上国で学校給食による栄養改善の国際協力にかかわってきました。その中で、世界の中でも日本の学校給食の制度が栄養改善の面で優れていることを感じていました」と話します。

献立は“教材”

 「日本の学校給食の特色は、給食を『教育』としてとらえていることです」。こう話すのは、食育を研究している新村洋史さん(名古屋芸術大学名誉教授)です。毎日の献立が“生きた教材”です。

 栄養面で優れた学校給食を子どもたちに残さず食べてもらえるように、学校栄養職員・栄養教諭の努力が続いています。

 東京都内で栄養教諭をしている宮鍋和子さんは、「おいしく食べられる、食を楽しめるということは、人生を何倍にも豊かにする。そんな思いで取り組んでいます。でも最近では経済的な格差から、子どもたちの生活体験にも差が出ています」と話します。

 おいしさと関係する食の「音探し」をしたときのことです。「ジュージュー」とハンバーグを焼く音をめぐる会話。「おいしそう」と声をあげる子どもがいる一方で、「そんなハンバーグ食べたことない」とさわぐ子も。「えー食べたことないの?」。周りの何気ない一言に宮鍋さんはギクッとしたと言います。

 「レンジで温めるだけのものも増え、外食のできない家庭環境の子どももいます。子ども同士の一言に傷つく子どもがいなかったか、配慮の足りなさを反省した場面でした」と話します。

 新村さんは、「栄養教諭を含む学校栄養職員は給食実施校の3校に1人程度しか配置されていません。食育を前進させるためには1校に1人の配置が求められます」と要望します。

広がる無償化

 日本の学校給食は、1889年に山形県の小学校で貧困児童を対象に無償で行われたのが始まりと言われています。戦後1954年に学校給食法が制定され、子ども全員の食のセーフティーネットとして発展・定着してきました。

 2月に公表された東京都の「子どもの生活実態調査」(中間まとめ)によると、調査対象の小学5年生と中学2年生の約1割の家庭で過去1年間に金銭的な理由で必要な食料を買えなかった経験がありました。

 学校給食の役割が増すなか、中学校給食が未実施の自治体では、新たなとりくみが広がっています。川崎市では長年の運動で中学校給食が実現しています。給食の無償化は人口が比較的少ない郡部だけでなく市部にも広がっています。昨年度までの4市に加え、今年度、群馬県のみどり、渋川の両市、鹿児島県南さつま市でも無償化が始まりました。10月から熊本県荒尾市でも開始します。

 給食費無償化の目的や動機に注目するのは新村さんです。「無償化を実施した自治体の動機・目的は若者の流出を防ぐなどの少子化対策、子育て支援とされています。これに加えて、食育の推進を掲げた自治体もあります」

 たとえば、2012年に無償化を始めた栃木県大田原市。保護者へのアンケートで、無償化の理由を子どもにどう説明しているかの問いに、「市民で子育て支援」が7割と最も多くなっていますが、「経済的負担の軽減」(3割)に続いて、「食育の推進」が2割を占めています。

 新村さんは「2005年制定の食育基本法では、給食・食育が知育・徳育・体育の基礎をなすものとされており、給食は教育費無償化の範ちゅうに入ります」と指摘し、自治体と国が責任をもって、無償化に踏み出すときだと強調します。

図:給食の有無による摂取量(魚介類・緑黄色野菜)

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