2017年9月1日(金)
きょうの潮流
東京は田端の自宅で関東大震災にあった芥川龍之介は「大震雑記」を書き残しています。その中に戒厳令がしかれた後の菊池寛との雑談があります▼文中では伏せ字ですが、大火の原因は朝鮮人だそうだという芥川に対し、菊池は「嘘(うそ)だよ、君」と一喝。さらに不逞(ふてい)鮮人はボルシェビキの手先だそうだというと、「嘘さ、君、そんなことは」と叱りつけられたと。芥川は「善良なる市民になることはとにかく苦心を要するものである」と皮肉を込めています▼「朝鮮人虐殺事件は過般の震災に於ける最大の悲惨事でなければならぬ」。当時東大の教授だった政治学者の吉野作造は、不安の中で人びとがいかに荒唐無稽な流言飛語におびえ、それを自警団や官憲が扇動したかを事実で示しています▼明らかにされてきた数千人にも及ぶ虐殺の真相と記録。そこには朝鮮人や中国人への差別や偏見とともに、戦争に突き進んだ権力の凶暴な思想弾圧もありました。その歴史を学び、教訓を生かすために毎年実施されている朝鮮人犠牲者を悼む式典に小池都知事が追悼文を送らないといいます▼特別な形での提出は控えたというのが理由ですが、災害による死と殺された犠牲者を同列視するのか。異例の判断には歴史をゆがめる勢力の策動をうかがわせます▼きょう、94周年の追悼式。会場の墨田区横網町公園にある朝鮮人犠牲者の追悼碑にはこう刻まれています。「この歴史永遠に忘れず 在日朝鮮人と固く手を握り 日朝親善 アジア平和を打ちたてん」