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2017年8月29日(火)

2017とくほう・特報

「家族保護条項」って?

米モンタナ州立大 准教授 山口智美さんと考えた

戦前の「家制度」復活狙う

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 憲法24条は家族生活における個人の尊厳と両性の平等を定めています。この条項をめぐって「自民党の改憲草案には改善すべき余地がある。憲法24条には手を付けずとも、家族条項が加われば、24条の解釈も変わってくる」―。こんな主張をしている勢力があります。右派シンクタンクの日本政策研究センター(伊藤哲夫代表)です。彼らのいう「家族条項」って何? そのねらいは? 右派の動向にくわしい米モンタナ州立大学准教授の山口智美さんと一緒に考えます。(武田恵子)


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(写真)米モンタナ州立大学准教授 山口智美さん
佐藤光信撮影

 「1997年に設立された日本最大の右派運動体である日本会議は選択的夫婦別姓制度に反対するなど、家族や女性の問題を常に運動のテーマにしてきました。この日本会議や日本政策研究センターが、3年ほど前から3点の改憲項目をあげています。緊急事態条項、9条2項、家族保護条項です」と山口さん。

24条の冒頭に

 このうち家族保護条項については、2012年の自民党改憲草案が新設を明記しています。憲法24条の冒頭に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」「家族は、互いに助け合わなければならない」という文言を付け加えました。

 日本政策研究センターは、自民党改憲草案について、「家族に対する国の『保護』を書かずに、家族の『助け合い』だけ書いているため、『福祉切り捨て』などの余計な誤解や批判を招いている」と言います。だから、「仮に国会発議のための意見集約や国民合意を得る上で支障があるならば、敢(あ)えて(家族の助け合いを)入れる必要はない。家族条項が加われば、24条の解釈も自(おの)ずと変わってこよう」と述べています(同センター小坂実研究部長。機関誌『明日への選択』1月号)。そして、「家族は社会の基礎単位として尊重されるという家族の位置づけ」と「家族への国や社会による保護」を踏まえた「家族保護条項」を加えることを提案しています

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 山口さんは「『家族の助け合い』という文言を削るのは、こうすれば人々を説得できて憲法を変えられると思っているからです。彼らも言っているように、家族条項が入れば、24条を変えたのと同じです」と警戒を呼びかけます。

 家族条項を加えて、24条の解釈をどう変えようとしているのでしょうか。

 前出の小坂研究部長が、刑法学者・牧野英一(1878〜1970年)の著書、『家族生活の尊重』(1954年8月)を紹介し、「家族の尊重・保護の規定が付け加えられるならば、牧野流の解釈が復権する可能性もあるだろう」(前出『明日への選択』)と述べていることに記者は着目しました。小坂研究部長は「夫婦の相互協力」についての牧野氏の解釈には触れるのですが、核心部分は避けています。実は牧野氏は、24条の前に1箇条置き、「家族生活の一般に関する原則を規定すべきである」と提唱。「家族生活は、伝統及び慣習と…保持する」との文案に注釈をつけ、「婚姻の規定に先だって、『家』に関する原則規定を明かにする」と述べているのです。戦後の新憲法制定にあたって修正を試みたさいの提案ですが、採用されませんでした。家族保護条項を加えるというのは、結局のところ新憲法で否定された「家制度」の復活をねらうものではないのかと強く思いました。

 山口さんは「戦前の家制度のもとでは、男性の家長が絶大な権力を持ち、先祖から子孫までにわたり『家』を継承すべし、という『縦の関係』が重視されました。女性は劣った存在とされ、結婚や離婚の自由はなく、子どもを産むことが勤めとされました。家族条項を加えて、個人ではなく家族を社会の基礎単位と定め、優先する考え方は、戦前の『個人は家のため、家は国のため』という封建的なあり方につながるのではないか」と危惧します。

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(写真)24条改定に反対するとりくみが広がっています(写真は2016年9月に東京都内で開かれた「24条変えさせないキャンペーン」のキックオフ集会(原田浩一朗撮影)

多様性認めず

 日本政策研究センターは、家族保護条項を憲法に加える理由として、世界人権宣言16条3項などをあげて、「家族保護条項は世界の常識」と言います。

 山口さんは、「国際条約のごく一部を恣意(しい)的に都合よくピックアップしている」と批判します。例えば世界人権宣言は12条で、家族、家庭への干渉、攻撃を受けないとしています。しかし、日本政策研究センターはそこは無視して「おとなになったら結婚をして家庭を築き子どもを産み育てるのは当たり前だという社会通念」を推奨し、そこから外れる生活を「行き過ぎた個人主義」と否定します。また、女性差別撤廃条約は完全に無視しています。

 山口さんは「別姓家族、さらには子どもを持たない人たち、ひとり親、同性カップルなどと、現実には家族には多様なあり方があるにもかかわらず、そうした多様性を彼らの家族像は認めないのです」と批判します。

 別姓家族などを「一部の特殊・例外的な事例」としていることについても、「家族保護条項を加えることで、手厚い家族政策が行われるかのように述べますが、彼らが、『一部の特殊・例外的な事例』とみなしている家族への社会保障は二の次にされるかもしれません。家族を基礎単位とすることで、育児や介護を社会化するのではなく、家族内で対応させる方向と言えます」と指摘します。

 「現段階では9条改憲が焦点となっていますが、ともかくどこからでも風穴をあけたいというのが改憲勢力のねらいです。24条改憲が提示されてもいつでも対抗できるように、注意を喚起しておかなければなりません」


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