2017年8月9日(水)
主張
17年版「防衛白書」
誰の「理解」得ようというのか
2017年版「防衛白書」が8日公表されました。当初は1日公表の予定でしたが、稲田朋美元防衛相が直前の7月28日に南スーダンPKO(国連平和維持活動)をめぐる日報隠(いん)蔽(ぺい)問題で辞任し、延期されていました。巻頭言を稲田氏から小野寺五典新防衛相に差し替えたものの、日報問題には一言も触れておらず、「臭いものにはふた」です。一方、日米同盟について「米国にとっての日本の価値」を詳しく書き込み、トランプ政権の歓心を買おうとしています。「日本の防衛政策への国民の理解」を強調していますが、一体、誰の理解を得ようというのでしょうか。
「日報」に一切触れず
防衛省・自衛隊が南スーダンPKO部隊の日報を隠蔽した問題では、国民や国会への情報公開の在り方が根本から問われています。ところが白書は、日報問題に一切言及せず、「情報公開の取り組み」として「『行政機関の保有する情報の公開に関する法律』に基づき、保有する行政文書の開示を行っている」との記述があるだけです。反省のかけらさえありません。
日報問題でこれまで明らかになったのは▽陸自が日報の情報公開請求に対し、実際は保管しているのに「既に廃棄した」とうそをついて開示しなかった▽日報は存在しないといううそに実態を合わせるため故意に日報を廃棄した▽防衛省事務方トップの事務次官と陸自トップの陸幕長らが陸自の日報保管を非公表とすることを決めた―など、防衛省・自衛隊ぐるみの組織的隠蔽の実態です。
しかも、陸自内の日報隠蔽に稲田氏が関与した疑惑も濃厚です。
日報は、昨年7月に南スーダンの首都ジュバで起きた武力紛争を「戦闘」と明記し、深刻な内戦状態にあることを示していました。これに対し、白書は、昨年7月の武力紛争を「発砲事案」と呼ぶなどジュバの情勢は「比較的安定している」として、安保法制(戦争法)に基づき陸自派兵部隊に「駆け付け警護」の任務を付与したことを正当化しています。深刻で危険な現地の情勢を国民に隠し、戦争法を推進する姿勢は重大です。
今回の白書は、日米同盟に関する記述も極めて異例です。
白書は、日米安保条約に基づく日本への米軍駐留が「米国自身の利益につながる」とし、「日米同盟の重要性」を「米国にとっての日本の価値」から解説するコラムを設けています。トランプ米大統領が就任前に日本からの米軍撤退に言及していたことを意識しての記述だと指摘されています。
同コラムは、アジア太平洋地域で紛争が起こった場合、米軍の日本駐留によって「米軍の部隊が米国本土から駆けつけるのに比べ、より迅速に地域内に部隊を展開」することが可能で、在日米軍基地は「米国本土からの来援兵力の受け入れの基盤」にもなると強調しています。日本が、海外“殴り込み”部隊である米軍の出撃拠点になっていると認めたも同然です。「日本防衛」とは関係のない、沖縄での新基地建設など在日米軍基地強化の道理のなさは明白です。
不信ますます広げる
小野寺防衛相は巻頭言で「国民の防衛省・自衛隊への信頼を確固たるものにすべく努めていく」と述べています。しかし、今回の白書は国民の信頼を得るどころか、ますます不信を広げるものです。