2017年7月28日(金)
主張
マイナンバー連携
「利便性」の名で危険を隠すな
日本に住む全員に12桁の番号を割り振り、税や社会保障などの情報を政府が管理するマイナンバー制度が今月から新たな段階に入っています。マイナンバーを通じ個人情報を自治体や国の機関との間でやりとりできる「情報提供ネットワークシステム(NWS)」の実用に向けた試行運用が始まったのです。安倍晋三政権は約3カ月後に本格的に運用する計画ですが、早くも会計検査院から同システムの不備が指摘されるなど矛盾が浮き彫りになっています。問題点や危険性をまともに説明せず、「国民の利便性が高まる」とマイナンバーを推進する姿勢は無責任です。
国民置き去りで前のめり
マイナンバー制度は2015年10月、住民への番号通知の郵送で開始されました。16年1月からは、税や社会保障手続きの一部で行政や金融機関から書類への番号記入を求められたり、プラスチック製の「個人番号カード」が希望者に交付されたりしています。
個人番号カードは、マイナンバーと氏名、生年月日、顔写真、個人情報の集積が可能なICチップが一体となっています。盗難・紛失すればプライバシー侵害の被害は大きく、むやみに持ち歩くことへの不安が強いだけでなく、使い道も身分証明くらいしかないため住民への交付は人口比9%程度とほとんど普及していません。
そんな実態なのに、安倍政権は18日からマイナンバーを使う「情報提供NWS」の試運転を始めました。47都道府県、約1700市区町村、日本年金機構、税務署、医療保険者など5000を超す公的機関をつなぐ巨大な情報連携システムの構築をめざすものです。当初は今年1月に開始する予定でしたが15年に日本年金機構から125万件の個人情報が流出する大問題が起こり、実施が延期されていました。情報漏れ対策が万全なのか、不安はぬぐえません。
政府は本格運用になれば、児童手当や介護保険料の減免などの手続きでマイナンバーを記載すれば、これまで必要だった住民票などの書類がいらなくなり「手間が省ける」「便利になる」と宣伝します。しかし、他人にむやみに知らせてはならないマイナンバーを管理するリスクや手間を考えれば、住民に便利かどうかは、不透明です。
しかも会計検査院が26日公表した「情報提供NWS」準備状況の抽出調査結果(対象170機関)で、不備が発見された100以上の機関で情報連携が来年7月以降にずれ込むことが分かりました。また厚生労働省のあるシステムでは改修のため約34億円もの追加支出をしていました。システムづくりを先行させて、税金を浪費する無理な制度設計になっているのではないのか。国民的議論を置き去りにしたやり方は極めて問題です。チェックと見直しこそ必要です。
問題だらけの制度やめよ
従業員のマイナンバーを記載した住民税関係の事業所あての通知書を誤って送った自治体が100以上にのぼることが判明し、マイナンバーの扱いのずさんさに批判が上がっています。マイナンバー関連の個人情報や顔写真データが警察捜査に利用された例があることが先の通常国会の審議で明らかになるなど国民監視へ道を開くおそれも強まっています。マイナンバーの運用は中止し、制度の廃止に向けた検討が求められます。