2017年7月16日(日)
きょうの潮流
NHKの朝ドラ「ひよっこ」の主人公の叔父さん・宗男さんは、大のビートルズファンです。マッシュルーム形の髪で笑顔の絶えない振る舞いに、意外な歴史がありました▼ビートルズの武道館公演に合わせて「奥茨城村」から上京した宗男さん。主人公の働くレストランで「戦争中何をしていた」と問われ、しんみりと戦争体験を語りました▼ビルマ戦線のインパール作戦で生き残り、敗走途上でのこと。闇夜に斥候(せっこう)(偵察)に出て、敵の若い兵士と出くわしました。手にした銃を撃つこともなく驚きあう2人。英国兵は宗男を見て笑い、仲間の方へ消えた…▼宗男さんは「あいつのおかげで死なずに済んだ」。しかし、自分が笑えなかったことが悔しく、「俺は笑って生きようと」と決意します。そしてビートルズが好きになり、「またイギリスかよと思ったけど、俺はうれしかった」▼英軍の拠点を攻撃しようとしたインパール作戦。補給を無視し、多くの戦死者を出した無謀な戦争でした。指揮をしたのは牟田口廉也(むたぐちれんや)司令官です。ちょうど80年前の7月に起きた盧溝橋(ろこうきょう)事件で、現場の部隊長に「やってよろしい」と戦闘命令を出した連隊長です▼インパール作戦のときに言ったそうです。「盧溝橋で第一発を撃って戦争を起こしたのはわしだから、わしがこの戦争のかたをつけねばならん」。作戦に参加した茨城からも、多数の犠牲者が出ました。宗男さんの9分近い独白は、戦争への痛切な思いとともに郷土の軍隊の悲惨な姿を想像させます。