2017年6月5日(月)
「共謀罪」 参院委審議始まったが…
危険・破たん いっそう明るみに
参院法務委員会で審議が始まった「共謀罪」法案。法案の危険性と破たんはいっそう深まっています。(中祖寅一)
“内心処罰”が本質
法益侵害の危険を無視
日本共産党の山添拓議員は5月30日の法務委員会で、自民党の政務調査会の資料を取り上げました。資料では、「テロ組織が水道水に毒物を混入することを計画し、実際に毒物を準備した場合でも、この時点で処罰することができない」との理由で、共謀罪の処罰の必要を説明しています。
犯罪は、動機の形成→決意→相談・共謀→準備(予備)→実行(未遂)→結果発生(既遂)という経過をたどります。刑法はそのすべてを処罰するのではなく、結果が発生した既遂を処罰するのが原則で、予備罪は特に例外的に処罰され、共謀はそのさらに例外です。
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山添氏は、自民党の資料の例で、一定の準備が行われても予備罪にならない場合とは、「ほとんど危険がない。危険な発想があっても心の中にとどまっている」からだと指摘。「(予備より手前の)共謀罪は、被害や危険を処罰するのではなく、内心を処罰するものだ」と批判しました。
これに対し金田勝年法相は「組織的犯罪集団が関与する計画および準備行為を行ったものについて、総体として危険が高いことを根拠として処罰する」などと述べました。
山添氏は「総体としてというのは極めて抽象的だ。危険な集団が危ないことを考えているから処罰するというだけの話だ」と批判。「法益侵害やその可能性(危険)を全く無視した議論だ」とし、結局、内心を処罰する本質に変わりはないと重ねて批判しました。
“隠れみの”と敵視
環境・人権団体も対象に
一般人が処罰、捜査の対象にならないという政府の言い分が新たに動揺しています。
一般の団体が「組織的犯罪集団」として疑いをかけられ、捜査の対象とされる疑念を生む、新たな答弁が政府から出されました。
金田法相は、「共謀罪」法案が参院審議入りした5月29日の本会議で、「対外的には環境保護や人権保護を標榜(ひょうぼう)していても、それが言わば隠れみの」で、「共同の目的が一定の重大な犯罪等を実行することにある団体と認められる場合」には組織的犯罪集団だと答弁したのです。
環境保護団体や人権団体、労働組合や市民運動グループでも、それが「隠れみの」だとして日常的な監視、調査の対象となりうるという疑念が野党から出されています。
参考人質疑から
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団体所属関係なく 人が2人いれば主体に
また参考人質疑(1日)で、立命館大学の松宮孝明教授は、法案では「(犯罪の)遂行を2人以上で『計画』した主体は、団体や組織ではなく自然人だ。(条文の)文言では『計画』した人物が組織に属することを要しない」と指摘。法案の文言上は、一般人が共謀(計画)の主体となるとしたのです。
参考人質疑を受けて行われた同日の一般質疑で、民進党の小川敏夫議員は、この点に関連し、「2人で(犯罪を)計画した者とは、団体(組織的犯罪集団)の構成員に限定されるのか」とただしました。
法務省の林真琴刑事局長は、「組織的犯罪集団の構成員である者はもちろん、構成員でない者も計画の主体になりうる」と述べ、松宮教授の指摘を認めたのです。
政府はこれまで、一般人は「共謀罪」の処罰、捜査の対象にならないとし、一般人とは「組織的犯罪集団とかかわりのない人」と説明してきました。ところが組織的犯罪集団の構成員でない「一般人」が「計画(共謀)」の主体となるというのです。組織的犯罪集団の計画や行為の危険性を問題としながら、計画(共謀)の主体は犯罪集団の構成員ではないというのも奇妙です。
「周辺者」に拡大 新しい概念飛び出す
小川氏が、「犯罪の計画をしたものは団体の構成員である必要はないので、一般私人でもいいわけですね」と迫ったのに対し、金田法相は「組織的犯罪集団の構成員ではないが組織的犯罪集団と関わり合いがある周辺者」は、処罰の対象となると答弁―。新たに「周辺者」という概念が飛び出しました。
「周辺者」とは何か、それは「組織的犯罪集団とかかわりのない人」とはどのような関係にあるのかが問われます。
また1日の参考人質疑で日本共産党の山添拓議員は、共謀罪は内心を処罰するものだとの批判に対し、金田法相が「組織的犯罪集団の行為は総体として危険が高い」などと答弁した(前出、30日の質疑)ことについて松宮参考人に質問。
松宮氏は「計画は組織的にやる必要はない。2人以上の自然人で、組織的犯罪集団が計画しているわけではないので、金田法相の答弁は条文とあっていない」と指弾しました。
犯罪組織による「計画」だから危険が高いというのに、「計画」は組織がやるものではないというのは矛盾だという指摘です。
政府の説明は新たないくつもの破たんに直面しています。