2017年6月1日(木)
きょうの潮流
14歳の少女は電話機に向かって必死に叫びました。「大変です! 広島がやられました。全滅です。新型爆弾にやられました」。これが、原爆が落とされた際の第一報とされています▼当時、日本軍の司令部に学徒動員され、地下壕(ごう)で連絡業務をしていた岡ヨシエさん。その日、交換台に座っていたときに紫色の閃光(せんこう)が走り、意識を失いました。気を取り戻し外に出ると街は赤茶一色の瓦礫(がれき)。血が引く思いで電話機にしがみつきました▼爆心地から1キロ圏内で被爆した岡さんは、長年にわたって語り部の活動を続けてきました。後遺症に苦しみながら、先日86歳で亡くなるまで。以前、小学校の修学旅行で話を聞いたという女性は「原爆の恐ろしさを次の世代にも伝えたい」と▼罪のない人びとがどんな苦しみを受けたか。生々しい体験と平和への強い思いを語り継いできた被爆者たちの証言は世界を動かしています。公表された核兵器禁止条約の草案は前文で「ヒバクシャ」の苦難やとりくみに言及しています▼こうした条約に草の根の運動の意義が記されることは異例なこと。長崎の田上富久市長も、被爆者への思いやりや配慮、核兵器のない世界を目指して長い間果たしてきた役割への敬意が感じられると▼人類の生存や地球環境に破滅的な影響をもたらす悪魔の兵器。その開発から使用まで幅広く禁じた条約は、核保有国や核の傘の下にある国にも参加の道を開いています。世界中の人たちと手を結び、被爆者の願いを今に実らせるときです。