2017年5月24日(水)
「共謀罪」法案に懸念
国連特別報告者の書簡(要旨)
国連のプライバシー権に関する特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏が18日、安倍晋三首相に提出した「共謀罪」法案に対する懸念を示す書簡(18日付)と、日本政府による抗議(18日の政府見解、22日の菅義偉官房長官記者会見)に対する「反論」(22日付)の要旨は次の通りです。
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▽私は、人権理事会の決議28/16に基づき、プライバシーに関する権利の特別報告者としての私の権限の範囲において、この手紙を送る。
▽「共謀罪」法案が法律として採択された場合、法律の広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある。
▽政府は、新法案に基づき捜査される対象は、「テロ集団を含む組織的犯罪集団」が現実的に関与すると予想される犯罪に限定されると主張している。しかし、「組織的犯罪集団」の定義は漠然としており、テロ組織に明らかに限定されているとはいえない。
▽政府当局は、新たな法案では捜査を開始するための要件として、対象とされた活動の実行が「計画」されるだけでなく、「準備行為」が行われることを要求していると強調する。しかし、「計画」の具体的な定義について十分な説明がない。「準備行為」は法案で禁止される行為の範囲を明確にするにはあまりにも曖昧な概念だ。
▽そのような「計画」と「準備行為」の存在と範囲を立証するためには、起訴された者に対して、起訴に先立ち相当程度の監視が行われることになる。このような監視の強化が予測され、プライバシーと監視に関する日本の法律に定められている保護・救済の在り方が問題になる。
▽「組織的犯罪集団」の定義の曖昧さが、国益に反する活動を行っていると考えられるNGO(非政府組織)に対する監視などを正当化する口実をつくり出す可能性があるともいわれている。
▽提案された法案は、広範な適用がされる可能性があることから、現状で、また他の法律と組み合わせてプライバシーに関する権利およびその他の基本的な国民の自由の行使に影響を及ぼすという深刻な懸念が示されている。
▽法的明確性の原則は、何が法律で禁止される行為なのかについて合理的に認識できるようにしているが、「共謀罪」法案は、抽象的かつ主観的な概念がきわめて広く解釈され、法的な不透明性をもたらし、この原則に適合しているとは思えない。
▽法案を押し通すために立法が急がれることで、この重要な問題についての広範な国民的議論を不当に制限することになる。
▽プライバシー関連の保護と救済につき、以下の5点に着目する。
(1)監視が強化される中にあって、適切なプライバシー保護策を新たに導入する具体的条文や規定がない。
(2)監視に対する事前の令状主義の強化も予定されていない。
(3)国家安全保障を目的として行われる監視活動の実施を事前に許可するための独立した第三者機関を法令に基づき設置することも想定されていない。
(4)捜査当局や安全保障機関、諜報機関の活動の監督について懸念がある。この懸念の中には、警察がGPS捜査や電子機器の使用の監視などの捜査のために監視の許可を求めてきた際の裁判所による監督と検証の質という問題が含まれる。
(5)嫌疑のかかっている個人の情報を捜索するための令状を警察が求める広範な機会を与えることになり、プライバシーに関する権利に悪影響を及ぼすことが特に懸念される。
▽人権理事会から与えられた権限のもと、私は担当事件の全てについて事実を解明する職責を有している。以下の諸点につき回答いただきたい。〇各主張の正確性に関する追加情報・見解〇「共謀罪」法案の審議状況〇国際人権法の規範および基準と法案との整合性〇法案の審議に関して、市民社会の代表者が法案を検討し意見を述べる機会の有無。
日本政府の抗議への反論(要旨)
▽私の書簡は、日本政府が、提案された諸施策を十分に検討することができるように十分な期間の公的議論を経ることなく、法案を早急に成立させることを愚かにも決定したという状況においては、完全に適切なものだ。
▽私が(5月18日に)日本政府から受け取った「強い抗議」は、ただ怒りの言葉が並べられているだけで、全く中身はなかった。その抗議は、私の書簡の実質的内容について、一つの点においても反論するものでもなかった。
▽日本政府は、これまでの間、実質的な反論や訂正を含むものを何一つ送付して来ることができなかった。いずれかの事実について訂正を余儀なくされるまで、私は、安倍首相に向けて書いた書簡のすべての単語、ピリオド、コンマにいたるまで維持し続ける。日本政府がこのような手段で行動し、これだけ拙速に深刻な欠陥のある法案を押し通すことを正当化することは絶対にできない。
▽日本政府は、2020年の東京オリンピックに向けてTОC条約を批准するためにこの法案が必要だと主張する。しかし、このことは、プライバシーの権利に対する十分な保護措置のない法案の成立を何ら正当化するものではない。