2017年5月13日(土)
きょうの潮流
それは教え子たちに生活を見つめさせる教育でした。身の回りで感じたことを文章や絵に表現する。しかし、それさえも弾圧の対象になりました▼戦前からあった生活綴(つづ)り方や図画教育。ありのままに日常を表現することで物事の本質をつかみ、より良い生き方を模索する。そこには当然、暮らしの貧しさや自分たちが置かれている社会の現実が反映されました▼戦後の民主教育の水脈ともいわれた実践。それを罪にしたのが、治安維持法でした。「子どもに資本主義社会の矛盾を自覚させた」などと、いわれのない疑いで教師や学生らが大勢逮捕。拷問にあい、獄死した人もいました▼治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟が創立50周年を前につくった記録映画「種まく人びと」。北海道生活図画事件で捕まった菱谷良一さんが証言しています。共産主義も知らない、運動したわけでもないのに、絵を描くことによって民衆を啓蒙(けいもう)したと▼戦争体制とともに猛威をふるった思想弾圧。それはいま共謀罪につながります。本紙日曜版の最新号で映画監督の周防(すお)正行さんが語っています。「生きていること自体が表現すること」。それを弾圧の対象とする共謀罪は「すべての人にとって最悪の法律です」▼日常の生活が標的にされる。先の同盟が発行する『治安維持法と現代』(春季号)で、近代刑法史研究者の内田博文さんは共謀罪との類似点をあげながら、戦前とは違うと訴えます。私たちには武器がある。憲法で保障された、反対し行動する権利が。