2017年5月13日(土)
主張
マイナンバー運用
危険と矛盾がますます明白
日本に住民票をもつ人全員に12桁の番号を割り振り、国が税や社会保障などの個人情報を掌握・管理するマイナンバー(個人番号)制度で、新たな危険と矛盾が浮き彫りになっています。本人の同意もないのに企業にマイナンバーを知らせることを安倍晋三政権が自治体に迫ったり、マイナンバーカードの利用分野の拡大に向けた仕組みづくりを加速したり―。住民がほとんど知らないうちに、なし崩し的に制度を運用していることは極めて問題です。個人情報が危うくなることに国民が不安や不信を抱く制度を、“推進ありき”ですすめることは乱暴です。
同意なし通知送付に批判
市町村が企業などに5月に送付する住民税の「特別徴収税額通知書」に従業員のマイナンバーを記載するよう安倍政権が強制していることが、各地で問題になっています。総務省は、従業員本人の同意がなくても問題ないという姿勢ですが、企業に自分のマイナンバーを知らせたくないという従業員の意思に反するやり方です。
しかも、書留郵便でなく普通郵便での通知も可能としているため、通知書がきちんと管理されずに、番号が他人に知られるなど漏えいのリスクを高めることに、懸念が広がっています。少なくない自治体は、経費を節約するために普通郵便を使うとされています。
市民団体は、自治体に記載を強いることの中止を政府に対して要求し、自治体には独自の判断で不記載にすることなどを求めています。日本弁護士連合会は4月中旬、個人の情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由を侵害するものと警告しています。
これらの指摘を受け番号を記載しない自治体も生まれています。国が自治体に記載させる法的根拠はありません。マイナンバーを無理に使わせることを狙った、記載の強要を中止すべきです。
国が強引な手法をとるのは、マイナンバー制度が本格的に始まってから1年以上経過しているのに、圧倒的多数の国民に制度が認知されず、普及が立ち遅れているためです。番号を通知する紙製のカードを受け取っていない人は100万人以上いるとみられます。番号、顔写真、生年月日などが一体となったプラスチック製のマイナンバーカードの申請も頭打ちで、3月時点のカード保持者は対象者(約1億2800万人)の8・4%にすぎません。国民が、政府のいう「利便性」を感じるどころか、情報の漏えいや国による個人情報の管理強化に根強い不信と危険を抱いていることを示しています。
総務省は3月に「カード利活用推進ロードマップ」を作成し、コンビニでも使えますとか、スマホでも行政手続きができるようにしますとか、宣伝に躍起です。1000件単位でマイナンバー情報がもれた自治体があったことなど都合の悪い事実はほとんど語らず、便利さばかり「バラ色」に描くのは無責任で不誠実な姿勢です。
禍根残す推進やめてこそ
マイナンバーカードを交付する際に、システム障害が相次いだことに対応するとして国会で法律改定案が審議中ですが、新たなリスクを生むおそれがあるものです。安倍政権は、前のめり姿勢を改め、個人情報を守るために、制度の検証と見直しを行い、不要で危うい仕組みをやめるべきです。