2017年5月9日(火)
主張
原賠機構法改定
際限ない国民負担に道開くな
安倍晋三政権が提出した原子力損害賠償・廃炉等支援機構法改定案の国会審議が続いています。深刻な事故を起こした東京電力福島第1原発の廃炉のために、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(「機構」)に積立金制度を創設し、東電に対し資金を積み立てることを義務付けることが柱です。巨額になった廃炉費用を電気料金として国民・消費者につけ回しする仕組みをつくるものです。
「電気料金」に上乗せし
昨年12月、政府は原発事故の処理費用(廃炉・賠償・除染など)が21・5兆円に膨らむとして、その費用を電気料金の値上げや税金投入など国民負担に転嫁する「東電改革提言」を含む方針を決めました。
機構法改定案はその具体化の一つです。「機構」はもともと、事故直後、東電を「何度でも援助し」「債務超過にさせない」(2011年6月閣議決定)ために設置され、「東電救済のスキーム(枠組み)」と批判されてきました。「機構」を通じてこれまでに損害賠償費として7兆円近くを国が資金交付し、東電を存続させてきました。資金交付は今年度予算でさらに拡大します。
廃炉費用にあてるため、東電に積み立てが義務付けられた積立金はどうねん出されるのか。「東電改革提言」は、東電の「送配電事業の合理化」によって生み出された利益を優先的にあてると明記しています。送配電事業は発電された電気を安定的に利用者に届ける送配電網の維持運用が主な仕事です。送配電利用料(託送料)は送配電網にかかわる費用に限定すべきです。事業合理化によって得られた利益は、託送料値下げで利用者・消費者に還元すべきもので、それを廃炉にあてることは事実上の電気料金の値上げです。
機構法改定案とは別に、託送料の仕組みを利用して賠償費用の増加分を新たに国民から徴収する方針も具体化されています。“過去に原発の電気で利益を得ていたから”との理屈を持ち出し、今までは負担していない「新電力」にも払わせるというものです。2020年から40年間も徴収する計画です。「原発の電気はいや」と新電力を選んだ消費者の選択権を侵害するやり方に消費者団体から「全く納得しかねる」と批判の声が上がっています。託送料を決める際には消費者の関与や公開性は担保されておらず、国会の関与や国民的な議論の場が必要です。
機構法改定案を押し通すのでなく、東電を救済する「機構」の枠組みそのものについて抜本的な検証・見直しが求められています。
原発は究極の高コスト
政府は改定案審議のなかで「負担の公平」を強調します。しかし国民には新たな負担を迫る一方で、東電に出資している巨大銀行が事故後も東電から累計約2000億円もの利息を受け取っていることなどがなぜ放置されるのか―。東電の経営者や株主の責任はもちろん、原発でもうけてきた巨大銀行、原子炉メーカー、ゼネコンなど「原発利益共同体」に負担責任を果たさせ、国民負担を最小化するべきです。
事故処理費用は当初の11兆円から21・5兆円に倍増しました。今後、この額でとどまらないのは明らかです。究極の高コストの原発から撤退することが急がれます。