2017年4月19日(水)
精神保健福祉法改定案 厚労省が「概要」から相模原事件「削除」
「国は出直せ」の声高まる
「支援」の名で「監視強化」狙う
厚生労働省は13日、国会で審議中の精神保健福祉法改定案の説明資料(法案の概要)の「改正の趣旨」に掲げた、相模原市の障害者支援施設での殺傷事件に関わる一文をはじめ数カ所を削除しました。異常な事態に、「法案の根幹部分であり、国は出直すべきだ」などと批判が高まっています。(西口友紀恵)
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もっとも重大なのは法案概要の冒頭部分の削除です。当初は、「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」とのべていました。同省が議員への法案の説明に使い、ホームページに掲載してきたものです。
同法案は、相模原事件の被告に措置入院歴があったことを理由にあげ、主に措置入院制度の強化を図るとしています。
事件直後、安倍晋三首相は「再発防止」「措置入院後のフォローアップの強化」などを指示。検証・検討チームなどの議論を経て2月、改定案が出されました。退院後の「支援計画」作成には本人や家族の参加が欠かせませんが、「概要」では「必要に応じて」参加するとした一方、警察の参加を盛り込みました。
「基礎失われる」
障害当事者はじめ医療関係者らは、「被告は精神鑑定で責任能力が問えるとされた。事件と精神障害の因果関係もはっきりしていない現状で、精神障害者に対し“支援”という名の監視を強める法案だ」と訴えています。
精神保健福祉法は法の目的で、精神障害者の福祉増進と国民の精神保健の向上をうたっています。
杏林大学の長谷川利夫教授(保健学)は「改定案は法の目的にない犯罪防止、治安目的の役割を持たせることになる」と強く批判してきました。
この問題で、長谷川さんは「削除されたのは事件の再発防止と位置付けた改定案の根幹をなす部分だ」と指摘します。参考人として同委員会に出席した池原毅和弁護士は「法案自体の基礎が失われることになる。出直すべきだ」と批判しました。
厚労省は「支援計画」への本人・家族の参加問題で批判を受けた「必要に応じて」という言葉も削除しています。
根底に人権軽視
塩崎恭久厚労相は委員会で「削除は法案の内容に即して分かりやすくするためで、法案の内容に変更はない」と繰り返しました。
長谷川さんは「これまでの国会での議論を無視しており、ひいては国民を愚弄(ぐろう)するものです。概要を変えたのだから出直し、ゼロから始めるべきだ」と話します。
さらに、「改定案を進める政府の根底には、障害当事者・家族の人権を軽視する思想があると思います。国民は今後の動きを厳しく見ていく必要がある」と語ります。
日本障害者協議会 緊急アピール 立法根拠失う
精神保健福祉法改定法案の概要から相模原市の障害者施設での殺傷事件と同様の事件に関する部分が削除された問題で日本障害者協議会(藤井克徳代表)は17日、「法案は施政方針との整合性を欠き、立法根拠を失う」とする緊急アピールを発表しました。
アピールは、社会保障審議会障害者部会の審議をへて閣議決定された内容が修正されるのは「前代未聞の出来事」だと批判。安倍晋三首相が1月20日の施政方針演説で、同法改定で再発防止対策を講じると明言したことにふれ、法案趣旨の削除が成立すれば、施政方針の当該部分の有効性が問われることになると指摘します。
そのうえで、精神障害者の差別・偏見を助長し権利侵害の危険性のある法案と、当事者参画のもとでの再検討を求めています。