2017年4月4日(火)
栃木雪崩事故1週間
甘い対策・認識 常に危険想定を
専門家“絶対安全はない”
栃木県那須町のスキー場付近で、登山講習に参加した高校生ら8人が犠牲になった雪崩事故は3日で1週間を迎えました。安全な登山を学ぶ場で、なぜ悲惨な事故が起きてしまったのか。事故の要因を探りました。(青山俊明)
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「雪は降ったがさほど強くはない。風もほとんどない。新雪は30センチ。歩行訓練には向いている」
事故が起きた3月27日。栃木県高校体育連盟登山専門部の講習会の責任者、猪瀬修一教諭(県立大田原高校)らは早朝、現地の気象状況から登山を中止し、新雪を踏みしめ進むラッセル訓練に切り替えました。
しかし、訓練が始まると風も雪も強くなります。七つの高校から参加した55人の生徒らの多くは変化した天候の中、雪崩に遭い、生徒7人と引率教諭1人が亡くなる痛ましい事故となりました。
「経験則」で判断
引率者は、雪崩の可能性をテレビの情報などで知ってはいたといいます。しかし「雪崩が起きやすい地点に近づかなければ大丈夫と判断した」(同教諭)と説明します。
その根拠は、これまでに数回、同じ場所で訓練したからという「経験則」でした。過去にこのあたりで起きた雪崩を調べてもいませんでした。
雪崩を長年研究してきた富山大学名誉教授の川田邦夫さんは今回の事故から「雪山に入るなら、常に雪崩の危険を考えなければいけない。認識が甘いと感じた」と指摘します。
今回は、古い雪の上に降り積もった新雪が崩れ落ちる表層雪崩でした。その発生には気象や積もった雪、降っている雪、風が影響します。今回のように、低気圧が通り過ぎた直後は風が強まり、降雪が増え、雪崩が起きやすくなります。
「今回は、まさにそういう条件だった」と川田さん。「新雪は30センチ程度ということでしたが、山の上の方では50センチはあったでしょう。(今回雪崩が起きた場所のように)35度から40度の斜面でそれだけ積もれば、風が吹くだけで崩れる」と解説します。
安全を確保するためには、過去にあった雪崩調査とともに、傾斜や植生などから雪崩を避けられる場所かを考慮する必要がありました。川田さんは「雪崩への対策が、いずれも欠けていた」と指摘します。
日本勤労者山岳連盟(労山)は雪崩講習会を開いて事故防止に努めてきました。「雪崩事故は決して多くはないが、遭えば重大事故になる。だから力を入れてきた」と川嶋高志事務局長は説明します。
講習会では雪崩の発生を予測し、危険度を評価。それによって取るべき行動を学びます。「雪崩は、斜面に積雪があれば必ず可能性がある。ゼロではないと教える」と川嶋事務局長は強調します。
さらに、雪崩に遭ってしまったときの対応まで実践します。
緊急時の装備として、「電波で位置を知らせるビーコンやスコップ、雪面に突き刺して埋没者を捜索するプローブは必ず持つべきだ」といいます。しかし、今回の講習会ではこれらの備えがまったくありませんでした。
講習会の計画がどの程度綿密に作られたかも気になります。悪天候など最悪の事態を想定し、どう対処するかを考えておくのが登山計画です。受講者が自分の判断で行動できない講習会は、より綿密な計画が求められます。しかし、ラッセル訓練は予定になく、責任者はどのあたりで行うかも把握していませんでした。
計画書審査なく
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同県では、各高校が部活動として標高1500メートル以上の冬山に登るときは、山岳連盟や県警などでつくる審査会が計画書を審査することになっていましたが、講習会は「登山ではない」としてチェックを受けてきませんでした。
「逆に、未成年者を大量に連れていくような計画なら、いろんな人にチェックしてもらうことが絶対に不可欠。講習会は安全な登山を学ぶ場。事故があってはならない」と川嶋事務局長は強調します。さらに、猪瀬氏が「絶対安全だと思っていた」と語ったことに対して、「自然の中で行う登山で責任者が『絶対安全』などと考えたら役割を果たせない」と批判します。
長野県でも高校山岳部を対象にした研修会が行われていますが、主催は同県の山岳総合センターです。5月中旬の残雪期に北アルプス針ノ木雪渓で、センター職員や山岳協会の指導員らが講師を務め、山岳部員と顧問が参加します。高体連だけでなく、専門家の協力を得て開いていることが栃木のケースとの違いです。
長野で行っている5月の時期は、雪に接することができ、雪崩や滑落の危険も比較的少ない。同センターの今滝郁夫さんは「山岳ガイドや山岳会の講習会も多くやられている。なるべく安全な形で実施したい」と説明します。
ただ山岳部顧問の参加は多くありません。「校務が忙しくて参加が難しい」のが理由です。部活動独特の困難が、ここにはあります。
事故からは、さまざまな問題点が浮かび上がってきます。同様の事故を繰り返さないためには、その背景も含めて、さらに検証していく必要があります。