2017年4月1日(土)
主張
学術会議の新声明
軍事研究への明確な拒否回答
日本の科学者を代表する機関である日本学術会議が、「軍事研究を行わない」とした1950年と67年の声明を「継承する」とした新しい声明を先週末に決定しました。安倍晋三政権が推進する「軍学共同」を拒否し、学術の健全な発展を求める画期的な声明です。過去の声明を今日的に発展させた「軍事研究拒否宣言」というべき意義をもっています。
真摯な議論を重ねた総意
今回の声明が、過去の二つの声明の背景に「科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった」ことを明確にし、軍事研究が学術の健全な発展と緊張関係にあることを踏まえて過去の声明を「継承」したことは、極めて重いものがあります。政府の干渉を許さないため、憲法23条に「学問の自由」が刻まれたのであり、学術の健全な発展には「研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない」と強調しています。
防衛省が2015年度に創設した兵器開発のための基礎研究を研究者に委託する「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)について、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って」いるとし、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と断じたことは重要です。むしろ「民生分野の研究資金の一層の充実」こそ必要だとしています。現在の日本学術会議として出しうる最大限に強いメッセージで“研究推進制度には応募すべきでない”との警告を発したものといえます。
声明は、「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用」される危険があるため、「研究資金の出所」について「慎重な判断が求められる」とし、大学などの研究機関に対して、軍事研究とみなされる研究について審査する制度の設置を求めました。
すでに、広島大、東北大、関西大、法政大など少なくない大学が、研究推進制度には応募すべきではないとの指針を定めています。各大学には、学術会議の声明を生かし、軍事研究拒否の明確な指針をもつことが望まれます。
学術会議は、研究推進制度の創設を契機に、昨年5月に検討委員会を設けて議論を重ねてきました。検討委員会は11回の会議を開き、学術会議会員の意見を集約し検討を深めました。当初は「自衛のための基礎研究なら許容される」との意見がありましたが、「自衛目的の技術と攻撃目的の技術との区別は困難」との認識で一致しました。
市民も参加したフォーラムでは、研究推進制度を「民生利用が目的の研究だから軍事研究ではない」と容認する意見に対し、「防衛省の資金をもらいながら軍事研究でないというのはごまかしだ」「科学者こそが戦争や軍事を残虐化してきた歴史があり、人道的責任を考えるべきだ」など、科学者の社会的責任を問う声が相次ぎました。
声明は、こうした真摯(しんし)な議論を経て合意に達したもので、学術界の総意であることは明らかです。
研究推進制度の廃止を
安倍政権は研究推進制度の今年度予算を前年度比18倍の110億円に急増させ、科学者をさらに取り込む狙いですが、明確な拒否回答が突き付けられました。政府は、この声明を重く受け止め、研究推進制度を廃止すべきです。