2017年3月22日(水)
主張
「共謀罪」閣議決定
刑法原則に反する法案阻止を
安倍晋三内閣は、国民の批判が日に日に高まっている「共謀罪」を導入する法案を、「テロ等準備罪」に名称を変えるなどして閣議決定しました。政府・与党は「対象犯罪を減らした」「条文のなかにテロの文言を入れた」「準備行為を要件とした」「組織的犯罪集団だけが対象」などの「手直し」をしたとしていますが、危険な本質は変わっていません。
人権侵害の「大網」かける
今度の法案に「共謀」の言葉はありません。しかし、法案の「(犯罪の)遂行を2人以上で計画した者」との文言は、法律的には「犯罪を共謀した者」と全く同じ意味です。政府のいう「手直し」も、単なるイメージ戦略で、何の限定にもなっていません。十数年前に国会に提出され廃案になった当初の法案と本質は少しも違わず、まぎれもない共謀罪法案です。
政府は、共謀罪法案は、国境を越えた物質的利益(金銭など)を目的とした犯罪集団の犯罪を防止するための条約(TOC条約)の批准が目的といいます。その批准には今回のような法律は必要ないのに、条約の文言を利用し、あらゆる重大犯罪の共謀をすべて処罰するという大きな網をかけ、国民の基本的人権を侵し、日本の刑法の考え方に真っ向から反する法律をつくろうというのです。
共謀の処罰は、国家権力から個人を守る歴史に逆らうものです。近代的な刑法が確立する以前は、思想や信仰が処罰の対象になり、恣意(しい)的な刑罰が横行しました。日本でも、現行憲法が成立する以前は、思想・信条や言論が処罰され、また犯罪の恐れがあるとして、何もしていないのに「予防検束」をする制度までありました。
これに対し現代の刑法は、犯罪が実際に行われた場合に逮捕したり、処罰したりするのが原則です。日本の現在の刑事法では、犯行に着手しても未遂であれば処罰されないものもあります。一部の重大な犯罪についてだけは、準備行為や予備行為などが処罰対象になります。共謀も、その「共謀した犯罪」が実際に行われた時に初めて処罰の対象になるわけです。しかし、“犯罪の相談をしているのだから予防のために検挙し、処罰してもいい”という、今度の共謀罪は、これらと全く異なります。
共謀とは、相談し、計画に合意することをいうので、その場の“雰囲気”“勢い”だけで実際に合意など成立しないことも多々あります。仮に「合意」しても翌日取り消されるかもしれません。
当事者だけの話し合いだけで、外部への行動がない段階の捜査は、個人の思想や内心の自由に深刻にかかわってきます。電話盗聴や盗撮などの人権侵害のやり方が横行し、さらには最高裁で違法とされたGPS捜査に頼るしかなくなります。また、おとり捜査を含む密告の利用など基本的人権を侵す恐れの強い手段も使われれば、冤罪(えんざい)の発生の可能性は高まります。監視社会への道は許されません。
4度廃案に追い込むため
TOC条約の批准でいえば、それに限った法的対応を取ることは十分可能です。そもそも条約の批准は、各国の国内法を尊重して対応することが認められており、政府の口実は成り立ちません。
過去3度廃案に追い込んだ共謀罪法案を4度阻止するため、世論と運動を広げることが重要です。