2017年3月9日(木)
主張
南スーダン「日報」
派兵の条件は既に崩れている
南スーダンPKO(国連平和維持活動)への陸上自衛隊派兵部隊が、昨年7月に同国の首都ジュバで発生した武力紛争を「戦闘」などと明記した「日報」について、防衛省・自衛隊が組織的に隠(いん)蔽(ぺい)しようとした疑惑が濃厚になっています。隠蔽の狙いは、深刻な内戦状態にある南スーダンの危機的状況を覆い隠して派兵を継続し、違憲の武力行使につながる「駆け付け警護」など安保法制=戦争法に基づく新任務の付与を強行することにあった―。そのことも、国会論戦などを通じてますます明らかになっています。疑惑の徹底究明が引き続き必要です。
何を隠そうとしたのか
日本共産党の井上哲士議員の国会質問(6日、参院予算委)などによると、「日報」は、南スーダンの陸自派兵部隊が「日々報告」として作成し、陸自指揮システムにアップロード(送信)し、上級部隊の陸自中央即応集団司令部がダウンロード(保存)して「モーニングレポート」という報告書にまとめ、司令官に報告してきました。司令官への報告時点で「日報」の文書や指揮システム上のデータも用済みになるとして、翌日以降に廃棄・削除してきました。
一方、陸海空自衛隊をまとめる統合幕僚監部(統幕)も陸自指揮システムにアクセス(接続)が可能で「日報」をダウンロードし、南スーダンPKOの活動概要を業務として作成し、防衛相らにほぼ毎日提出していました。
重大なのは、「日報」の情報公開請求に関し、派兵部隊にも中央即応集団司令部にも存在しないので不開示の決定をしていいかと意見照会があったのに対し、統幕が不開示を支持する決裁をし、「意見なし」と回答していたことです。
稲田朋美防衛相は、決裁をした統幕の数人の担当者は「日報」の存在を知らなかったと弁解しています。「日報」は、統幕が組織的にダウンロードして業務として活動概要を作成していたのに、決裁をした担当者が誰も知らなかったというのは通用しません。
防衛省は情報公開に関する事務次官通達(2012年)で“文書が不存在と判断しても再度入念に確認する”“必要に応じ探索範囲を拡大し特定に努める”としています。今回の「日報」をめぐる統幕の対応が防衛省自身の通達にも反しているのは明らかです。
井上議員が入手した安保法制に関する家族説明資料(昨年8月)は、南スーダンの情勢悪化の中で自衛隊が「駆け付け警護」を行えば、武力紛争に巻き込まれることになるのではないかとの質問があった場合、「南スーダン共和国が国連PKOの活動に同意し、受け入れている状況においては、武力紛争に巻き込まれることもない」と答えることになっています。
戦闘への巻き込まれも
ところが、昨年7月の政府軍と反政府軍との大規模戦闘時の「日報」では「突発的な戦闘への巻き込まれに注意が必要」と明記していました。自衛隊員の命にかかわる南スーダンの危険な現実をひたすら隠し、「安全」を強調する無責任極まりない態度です。
国連は、政府軍がPKOに対し宿営地襲撃など組織的・継続的な敵対行為を繰り返していることを指摘しています。「受け入れ同意」や「中立性」など自衛隊派兵の条件は崩れており、撤退は急務です。