2017年2月9日(木)
福島第1事故21兆円国民にツケ 会議の透明度ゼロ
本紙請求の東電委情報公開に 公表済み資料を“開示”
国民へ21・5兆円にのぼる東京電力福島第1原発事故のツケ回しが経済産業省・資源エネルギー庁の非公開の会議で議論されています。どんな議論で巨額の国民負担を決めているのか、本紙が会議の議事録を情報公開請求したところ、同庁は公表済みの資料を切り貼りしただけの文書を開示しました。国民に巨額な負担を強いながら、情報開示は実質ゼロ。不透明で不誠実な体質が問われます。
(矢野昌弘)
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原発事故にかかる賠償や廃炉費用の国民負担を議論しているのは東京電力改革・1F問題委員会(「東電委員会」)です。東電委員会は、経済同友会代表幹事や日立製作所名誉会長など財界人や学者ら10人で構成。会議は「個社の経営にかかわる」(世耕弘成経産相)などとして非公開となっています。
この会議について公表されているのは、経産省ホームページが掲載する「議事要旨」と配布資料のみ。しかも「要旨」は、発言の要約で、誰の発言かも記載されていません。
本紙は昨年11月、この会議での発言内容を詳細に記録したメモや議事録、「議事要旨」を作るために使った参加者のメモなどを資源エネルギー庁に情報公開請求しました。
同庁は今年1月、「議事メモ」と題した文書を開示しました。
ところが、この「議事メモ」は公表ずみの「要旨」と一字一句すべて同じ。発言の順番が違うだけというものでした。
たとえば「議事メモ」で「各委員からの意見」のうち、「・メルトダウン問題には、この5年間、結局東電は何も変わっていなかったという衝撃を受けた…」は2番目に書かれていますが、ホームページ上の「議事要旨」で「企業改革」の小見出しの12番目にあるといった具合です。「要旨」を切り貼りして、順番を並び替えただけにすぎません。本紙が請求した内容とほど遠い文書となっています。
同委員会が昨年まとめた提言は、東電の救済・延命をはかる施策をあからさまにしたものです。事故処理費用は3年前の想定から2倍となる21・5兆円と見込んでいます。
これらの費用のうち賠償費用は、原発を持たない新電力も含めた利用者の電気料金(大手電力会社の送配電網の使用料=託送料金)への上乗せ、東電負担が原則の除染費用も「国の予算措置で対応」などと明記し、税金投入をねらっています。さらに、東電の企業価値を向上させるために「原発の再稼働を実現する」などとしています。
本紙の取材に対し、資源エネルギー庁は「関係者が出張などで不在のため、現時点で回答できない」としました。
説明責任果たさず
情報公開に詳しい大川隆司弁護士の話
今回の資源エネルギー庁の対応は情報公開法の趣旨をまったく踏み外しています。同法は、国民への説明責任を政府が全うするよう義務づけています。
「個社の経営にかかわる」という理由で非公開にしていますが、仮に企業が不利益になる情報であっても「人の生命、健康、生活または財産を保護するため、公にすることが必要である」場合には開示義務があると、同法は定めています。
ですから「企業秘密」ということだけで隠していいわけがありません。
これほどの巨額負担は、国民生活に大きな影響を与えます。どうしてこんな数字が算出されたのかを、明らかにすることの公益性は相当高いといえます。
その公益性をてんびんにかけないで、東電の経営だけを理由に情報を隠せるなら、官庁情報のほとんどが隠せることになります。隠す理由になっていません。情報公開法に反する措置といっていいと思います。