2017年1月22日(日)
主張
トランプ氏就任
「米国第一」を強く危惧する
トランプ米大統領の就任式は、全米各地での抗議集会やデモに彩られました。社会の分断の深刻さ、政治の行方の不透明感、米国民の不安を象徴するような政権の幕開けです。
変革の処方箋は示さず
トランプ氏の当選自体、多国籍大企業優先のグローバル資本主義、弱肉強食の経済政策の矛盾、国民の声が届かなくなった既成政治への怒りを背景にしていました。
トランプ氏は就任演説で、雇用を取り戻すと述べ、同じ日に環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明しました。しかし、同氏は、外国や外国企業が米国の犠牲で不当に恩恵を受けていると決めつけるばかりで、これまでの経済界優先の米政治の変革の処方箋を示したわけではありません。
TPPも、各国の経済主権を無視した「自由貿易」のあり方を見直すというのでなく、むしろ、米国の国益優先の立場からの2国間交渉で他国にさらなる譲歩を迫る圧力を強める懸念が出ています。
就任早々、国内政策で大問題となっているのは、オバマ前政権が導入した皆保険を目指す医療保険制度(オバマケア)の廃止です。トランプ氏は廃止を公約し、新議会はすでに、その手続きに入っています。これでは、保険会社が横暴をほしいままにしていた状態への逆戻りだとの批判が、サンダース上院議員ら多くの議員、市民団体から上がっています。社会保障制度にどのような立場で臨むのかは、トランプ政権が、格差問題に真剣に取り組むかどうかの試金石として問われます。
トランプ氏は就任式で、「急進イスラムテロ」を打倒するための「文明世界」の結束を訴えました。大統領として特定の宗教とテロを結びつける姿勢は、9・11テロ後の反イスラムの社会風潮を克服しようと努力してきた米市民の取り組み、テロ根絶に向けた国際社会の共同の取り組みという観点からも、さらなる懸念を呼ぶものです。
トランプ氏に抗議して、民主党議員数十人が就任式を欠席し、分断の溝の深さが浮き彫りになりました。同氏の地元ニューヨークでは前夜、1万人規模の抗議デモが開かれ、映画監督のマイケル・ムーア氏や俳優のロバート・デ・ニーロ氏らも参加。市民たちは「あきらめるな」をスローガンに真の政治改革の思いを訴えました。市民の側からの対抗運動の息吹が、さっそく高まりをみせています。
トランプ政権の世界戦略の方向性は、いまだ不透明です。中国、イランなどに対する警戒感が聞かれる一方、これら諸国とどのような関係構築をめざすのかの具体策はみえていません。
軍事負担増の要求も
トランプ氏は就任演説で、米国は自国の軍隊を犠牲にして他国を防衛してきたとして、軍事的負担の増大を求める姿勢をにじませました。外交関係も、自国第一の立場から考えると表明しています。トランプ氏の「米国第一主義」の姿勢は、強い警戒をもって、注視していく必要があります。
新たな市民運動の高まりとともに、米国の新政権は発足しました。日本にとっても「日米同盟絶対」の思考停止ではなく、対等で友好の新しい日米関係を柔軟に構想するさまざまなレベルでの活発な議論と取り組みを広げる機会となりうるものです。