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2017年1月14日(土)

2017焦点・論点

生活困窮者支援の現場から

NPO法人「ほっとプラス」代表理事 藤田孝典さん

「死ぬ間際まで働かざるを得ない」 持続しない社会は変えよう

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 広がる貧困と格差の克服は待ったなしの課題です。生活困窮者から年500件以上の相談を受ける現場から、この問題を告発してきたNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんに聞きました。(内藤真己子)


図

(写真) ふじた・たかのり 1982年生まれ。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。近著に『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新聞出版)。
撮影・山城屋龍一

高齢者の就業最多

 ―流行語にもなった新書『下流老人』の続編が昨年末、出版され話題になっています。「働かざるを得ない高齢者が増えている」と指摘されていますね。

 ぼくらが15年間、相談を受けてきて劇的に変化したことがその問題です。65歳以上の高齢者の就業者数は過去最多を更新中ですが、働く理由が変わってきています。かつては将来に備えるとか、余暇のためだったのが、最近は「働かないと生活できない」という人の増加が顕著です。

 多いのは65歳以上で清掃やビル管理、介護・保育などの職場で働いていたが腰が痛くなったり、重い病気が見つかったりして働けなくなり、生活費に困っている相談です。

 夫婦で店を営んでいた豆腐屋の男性(78)は、妻が脳梗塞で倒れ、70歳すぎで店をたたみました。国民年金は夫婦で月8万円。貯金が800万円ありましたが5年で底をつき、夫は75歳すぎから早朝の新聞配達をはじめました。妻の介護をしながら、年金と月8万〜10万円のバイト代でしのいできたのですが、胃がんが見つかり働けなくなりました。生活保護につなげて治療に専念してもらいました。

 有名大学の出身で大手物流会社の課長だった男性(66)は、58歳でリストラされました。「多少年収が落ちてもいい」と再就職先を探しますが、正社員にはなれません。子どもの学費や住宅ローンを抱えており「早期引退」はできない。引っ越しのアルバイトや病院の清掃員、介護ヘルパーなどを転々としたあげく、なれない力仕事で腰を痛めてしまいました。結局、時給900円のコンビニのアルバイトに落ち着きました。

 高齢者は最低賃金の少し上くらいの時給で働いている人が多い。最賃の引き上げは非正規雇用の若者だけでなく、高齢者の課題にもなっています。

図

働く理由に違いが

 ―日本は働いている高齢者が多いと。

 高齢者の就業率は、OECDの「高齢者の就業率の国際比較」によれば、ドイツで5・4%、アメリカで17・7%です。これにたいして日本は20・1%で明らかに「働きすぎ」です。しかも就労の継続を希望する最大の理由は、「収入がほしいから」(49%、内閣府調査)です。ドイツやスウェーデンでは、半数前後が「仕事そのものが面白いから、自分の活力になるから」を理由にあげているのと対照的です。

 政府は「1億総活躍社会」で高齢者雇用を推進していますが、ぼくは、すでに「高齢者が死ぬ間際まで働かざるを得ない社会」になりつつあると感じています。日本老年学会が高齢者の定義を75歳以上にすると提言しましたが、低所得に苦しむ高齢者は年齢以上に健康格差があることが指摘されています。必要な社会保障を削減して、さらに老後不安が起きることのないようにしてほしいですね。

低年金と赤字拡大

 ―なぜこんな状況が広がったのでしょう。

 高齢者の貧困が深刻になる要因として、(1)収入が少ない(2)十分な貯金がない(3)頼れる人がいない―の三つがあると思います。高齢者が健康を害してまで働かざるを得ないのも背景は同じです。

 一つは年金制度の問題です。老齢年金受給額で最も人数が多いのは「月6万〜7万円」で約460万人です(2013年度末)。年金が月10万円未満しかない人が約6〜7割を占めています。

 一方、単身高齢者(65歳以上)の1カ月の平均支出額は約14万円(総務省「家計調査」2014年4月〜6月期平均速報)です。多くの高齢者が、1人暮らしであれば毎月4万〜7万円の不足分=「赤字」を貯蓄の切り崩しか、就労で確保しなければならない状況になっています。

 ―その「赤字」が増えていると言います。

 そうです。高齢夫婦世帯(世帯主無職)でみても、「家計調査」で2000年以降の「消費支出」は月約23万円から同24万円へと上がっています。

 一方、公的年金は削減され、2000年の同23万円から15年には同19万円へと大幅に減っています。

 そのうえ介護保険料が3年ごとに引き上げられるなど社会保険料や税など「非消費支出」は増えています。

 だから家計の赤字はどんどん拡大し、15年には同6万2300円にも増えています(図)。仮に1000万円の預金があっても13年程度で、貧困に陥る可能性があります。

 さらに医療や介護の費用は重篤になるほどコスト増となり家計を圧迫します。ところが安倍内閣はいっそう自己負担を引き上げる方針です。年金はマクロ経済スライドの強化で減額され、「赤字」は拡大するばかりです。

 また、「高齢者は貯蓄を持っている」とも言われますが、実際は単身世帯も含めた高齢者世帯は43・5%が500万円未満で、うち16・8%が「貯蓄なし」の状態です。(厚生労働省「2013年国民生活基礎調査の概況」)

 若い世代の貧困も深刻で、将来、すごい数の貧困な高齢者が増える懸念があります。大学を出ても正社員になれず非正規雇用が拡大しています。非正規では国民年金保険料を払えない人も多い。正社員も賃金が下がっていますから、厚生年金に加入していても、低年金は確実です。

分断越えて組織を

 ―貧困の克服のために何が必要ですか。

 最近、ぼくは地方の経済団体などの講演会に呼ばれることが多いのですが、「将来の不安のために消費者の財布のひもが固い」「これ以上、社会保障を減らして個人消費を奪うのはどうか」という意見をよく聞きます。なかには「社会保障をよくするためには、ある程度、法人税を上げてもいいんじゃないか」というリベラルな意見が企業側からも出てきているほどです。多くの人が「このままでは社会が持続しない」と気づいてきた。社会が変わる兆しが出てきているのです。

 社会保障を抜本的に充実するとともに雇用の脆弱(ぜいじゃく)性を修復することが急務です。そのためには市民が分断を乗り越え、「組織」をつくって手を取り合っていく必要があります。

 自衛隊を海外に派兵する安保法制では、これまでにない共闘が広がりました。生活や社会保障の課題でもそういう方向に持っていきたい。ぼくは「資本論」を書いたマルクスのように、「社会は変えられる」と信じています。


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