2017年1月12日(木)
きょうの潮流
ナチスという強大な独裁権力の前に息子と娘どちらかの死の道を選ばなければならなかった母親。映画「ソフィーの選択」で極限の役を演じた俳優がメリル・ストリープさんでした▼原作者の小説家ウィリアム・スタイロンは「映画の歴史始まって以来の女優の最良の演技」とまで。徹底した役づくり、なまった英語を操るせりふ回し、内面から役柄になりきろうとする姿勢。その後の数々の役にも共通したものです▼世界がたたえる演技。それをツイッターで“口撃”した人物がいます。「ハリウッドで最も過大評価されている女優の一人」だと。あのトランプ次期米大統領です。ゴールデングローブ賞の授賞式で彼女に批判された腹いせに▼ハリウッドの多様さを強調したスピーチでストリープさんは、腕に障害のある記者の物まねをしたトランプ氏を痛烈に非難しました。「軽蔑は軽蔑を招き、暴力は暴力を生む」▼勇気ある発言に「ディア・ハンター」や「恋におちて」で共演したロバート・デ・ニーロさんをはじめ、多くの俳優や映画関係者が称賛の声を上げています。他の国や文化の異なる人たちとの間に壁をつくれば、映画や役者は成り立たなくなると▼トランプ氏の「演技」に胸が打ち砕かれたというストリープさん。役者の仕事は自分たちとは異なる人の人生に入っていき、それを人びとに感じてもらうこと。「他者への共感は俳優の芸の核心」との彼女の信念は、権力の座につく人物の愚かな振る舞いを決して許しませんでした。