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2017年1月3日(火)

核兵器禁止条約交渉開始の国連決議

米の圧力のなか反対せず オランダ

政府に迫った市民運動

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 核兵器禁止条約の交渉開始に向けて今年国連で会議が開催されることが、昨年12月23日の国連総会で採択された決議で決まりました。この決議の採決で、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が米国の強い圧力で軒並み反対に回るなかで、唯一棄権したのがオランダです。その背後には、「核兵器禁止条約の交渉開始へ積極的に役割を果たせ」と政府に求める決議を採択した議会、そしてその決議を求めて草の根で署名を集めた平和運動がありました。(ユトレヒト〈オランダ〉=伊藤寿庸)


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(写真)PAXのベーネスさん(左端)とスタッフ(伊藤寿庸撮影)

 「オランダ政府が反対でなく、棄権したのはいいことですが、十分ではありません」というのは、ユトレヒトに本部をおく平和団体「PAX」の人道・軍縮問題の担当者マーイケ・ベーネスさん(25)。「議会も大多数の国民も交渉開始を支持してきました。私たちは、政府が、強力な(核兵器禁止)条約を支持するよう求めています」

 PAXは120人ものスタッフを抱える大きな平和団体で、核兵器以外にも、クラスター弾、ドローン(無人機)、地雷など幅広い軍縮問題に取り組んでいます。ほかに、シリア、イラク、南スーダンなどの紛争の分析や、銀行が軍事関連企業に融資を行わないように働きかける運動もおこなっています。

 このPAXが2015〜16年に取り組んだ最大の運動が、「市民発議」を通じて、オランダ国内で核兵器を禁止し、政府に核兵器禁止条約を支持するよう求めることを国会に決議させる運動でした。

 「市民発議」とは、ある問題について4万人の署名を集めれば、市民が直接議会の議題として提案できるという制度です。

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 PAXの提案はこういいます。

 「1946年に、最初の国連決議は、核兵器のない世界を呼び掛けた。いま、広島、長崎から70年たって、これまでで最も多い核保有国が存在している」「現存するフォーラムや核不拡散条約は、核兵器のない世界を作り出すことができなかった。大多数の諸国は、新しい条約―禁止条約―が必要だと考えている。この市民発議を通じて、私たちは核兵器を除去したいと願う圧倒的多数の諸国にオランダが加わることを提案する」

 署名運動の呼びかけは、PAXだけでなく、「エシカル・バンク」(倫理的な銀行)として有名なASN銀行、赤十字も加わりました。同銀行では、顧客向けニュースレターでも、署名への協力を呼び掛けました。

街でフエスで教会で署名が威力

爆弾形の風船に詰め提出 政府に交渉求め国会決議

オランダの市民運動

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(写真)ドム塔がそびえるユトレヒトの歴史的町並み(伊藤寿庸撮影)

 中世から交通の要衝として発展したユトレヒト。市の中心部にはオランダで最も高い教会の塔である102メートルのドム塔などゴシック様式の建物が威容を誇ります。

 旧市街とは対照的に未来的なデザインのユトレヒト中央駅。オランダ最大の鉄道発着駅です。この駅に直結するショッピングセンターのど真ん中にPAXの事務所があります。隣接するチャペルでは、静かに祈りをささげる人が訪れていました。

 「戦後、宗派の違いを超えて平和を求める運動を始めた修道女たちの教会がこの場所にありました。その運動がPAXの原点です。ショッピングセンターが建つとき、中に教会を作ることを条件に土地を提供しました。高齢化してベルギーに移った修道女の居住スペースが今のPAXの事務所です」とベーネスさんはいいます。

若者が支持

 街頭の署名の呼び掛けでは「まだ禁止されていなかったのか」と驚かれたといいます。核兵器が使われた時の深刻な影響を説明し、なぜ禁止しなければならないかを話すと、署名してくれました。とくに若い人からの支持が多かったといいます。

 「年配の人から『お嬢さん、よくお聞きなさい。私たちは冷戦の時代を知っている。この兵器は国を守るために必要なんだよ』と言われることもありました」とベーネスさん。でも運動は、このような核抑止力論の考えを超えて広がりました。

 大きな催しにも出かけて署名を集めました。オランダがナチスの占領から解放された5月5日の「解放記念日」のフェスティバル、ユトレヒトで開かれた大規模な「コミコン」(マンガ愛好者の集まるマーケット)…。コスプレを楽しむ人たちなどからも署名をもらいました。

 教会を中心とした各地の「平和の大使館」と呼ばれる平和グループは、地域で積極的に署名を集めました。

 元閣僚や俳優などの著名人や、宗教指導者、各地の市長などが署名に賛同しました。

 国会に提出するため、氏名、住所、生年月日などを記入してもらう厳格な署名。最終的に4万5608人に達しました。

 集まった署名用紙は、街頭でも使った爆弾の形をしたバルーンの中に詰めて、ハーグの国会に提出しました。

 2016年4月28日、国会でPAXの提案が審議されました。傍聴席は満席となり、詰めかけた傍聴希望者のために別室が用意されるほど、熱気にあふれました。

 なぜ核兵器の国際的な禁止とオランダ国内での禁止が必要なのか。PAXの提案は、次のような理由を挙げました。

 核兵器がもたらす壊滅的な影響への認識が高まっている。核兵器の世界規模の法的禁止に国際的支持が広がっている。オランダは国内での禁止を行い国際交渉での主導的役割を果たすべきだ―。

 1980年代、米国の核巡航ミサイルの欧州配備に反対して、ハーグで戦後最大の55万人の大規模デモが行われたオランダ。しかし現在、南部のフォルケル航空基地に米軍の核兵器があることは公然の秘密です。

 議会では、連立与党の一つ、労働党を含め、左翼の社会党など5党がPAXの提案に賛同。同年5月17日、オランダ政府が核兵器禁止交渉の開始に積極的に努力するよう求める決議など4本の核兵器関連の決議が採択されました。

選挙政策に

 審議の中で、クーンデルス外相は、「議会の意向に従って行動する」と明言したものの、11月の国連総会第1委員会でも、核兵器禁止条約交渉開始の決議では「棄権」でした。

 そこには、米国政府によるNATO同盟国への強烈な圧力がありました。米国は10月、「核兵器の即時禁止を交渉したり核抑止を非合法化したりする策動は、抑止に関するNATOの基本政策およびわれわれの共同の安全保障利益に反する」として、「いかなる採決にもノーの投票をするよう強く促す」との書簡を各国に送りつけたのです。

 PAXのベーネスさんは「この書簡は、(核兵器禁止条約の交渉開始を求める)運動に、彼らが脅威を感じていることを示しています。その勢いを押しとどめるために何かをしなければならないと考えたのでしょう」

 日本政府が、唯一の戦争被爆国であるにもかかわらず米国からの圧力で決議に「反対」したと話すと、「信じられない」と一言。

 3月17日投票の総選挙に向け、各党の選挙政策に、核兵器禁止条約の交渉開始への支持を盛り込むよう働きかけており、一部の党の政策にはすでに入っています。

 選挙の直後には、ニューヨークの国連本部で、核兵器禁止条約の歴史的な交渉が始まります。核保有国を追い詰め、オランダ政府の態度を変えさせるためのPAXのたたかいは、今年も続きます。


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