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2016年12月27日(火)

2016焦点・論点

「健康格差社会」に警鐘

千葉大学教授 近藤克則さん

低所得層ほど病気のリスク 貧困児童減らす課題は喫緊

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 格差と貧困が広がっています。日本は「健康格差社会」になっていると警鐘を鳴らす、千葉大学予防医学センター教授で、国立長寿医療研究センター老年学評価研究部長の近藤克則さんに聞きました。(内藤真己子)


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(写真) こんどう・かつのり 1958年、愛知県生まれ。千葉大学医学部卒業。船橋二和病院リハビリテーション科科長、日本福祉大学教授などを経て2014年千葉大学教授。16年国立長寿医療研究センター老年学評価研究部長

 ―「健康格差」とは? 実際に、どんな格差があるのでしょう。

 「健康格差」とは「地域や社会・経済状況の違いによる集団間の健康状態の差」を言います。

 例えば65歳以上の高齢者を対象に病気と、所得階層との関係を調べたところ、多くの病気があると答える方が低所得層で多く、うつなどの精神疾患では高所得者の3倍以上でした。(図1)

 雇用形態でも、糖尿病患者さんの調査では、悪化して網膜症の合併症を起こしている人は、非正規雇用者で正規雇用者の1・5倍に上っています。(図2)

 このように低所得者、非正規雇用者、受けた教育年数など、社会・経済的な階層が低い集団ほど健康状態が悪いことは国内外のデータで明らかです。

 ―「命の平等」が崩れているのですか。

 そうです。65歳以上の高齢者約2万3000人の4年にわたる追跡調査で、所得に応じた5段階の介護保険料の負担区分でみると、一番下位の人たちは一番上位の人たちより、男性は3・5倍、女性で2・5倍も死亡率が高くなっています。

 この格差を放置してもいいのか。生存権を保障した憲法25条、すべての人の「生命、自由及び身体の安全に対する権利」をうたった世界人権宣言に違反する事態です。

 ―人が置かれた社会・経済状態の格差が、どうして健康の格差につながるのでしょう。

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 人間は生まれ落ちたときから、ご両親が社会的にどんな状態に置かれ、どんな環境で育ったかに影響を受けます。

 貧困な家庭に育ち、高い学費が払えず高等教育が受けられなければ正規職員になりにくい。派遣や非正規職員は所得が低いだけでなく、組合健保のように充実した社会保険の恩恵も受けられません。大企業の社員は検診車が職場にきたりして健康診断も受けやすい環境にあります。しかし国民健康保険では、仕事を休んで地域の医療機関に行かなければならない。健診のハードルが高く病気の発見も遅れます。第1ボタンから差があるのです。

 ワーキングプア(働く貧困層)になったら、二つ以上の仕事をしなくては生活できません。そうなると自炊して野菜たっぷりの食事をつくる時間がない。アメリカのデータでは、ここ20〜30年間の食品の物価上昇率をみると、野菜の上昇率が高い一方、炭水化物や脂質はあまり上がっておらず、低所得者がこれらに手を出さざるを得ないという客観的な状況もあります。

 このように物質的な欠乏だけでなく、さまざまな問題が集積して悪循環が形成され貧困に陥った結果、健康な状態も失ってしまうのです。

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 ―健康は「自己責任」で片づけられないということですね。

 そうです。川の流れに例えれば、こうした“川上”にある社会的要因に目を向けず、本人の健康行動を変えようとしても、どの国でもうまくいっていません。日本でも2000年からの「健康日本21」の取り組みは期待したほど効果がでませんでした。自己責任論は、病気になって“川”に落ちた人に、泳ぎ方を覚えなさいと言っているようなものです。それよりも、川に転落しないように、病気になる前の貧困や、貧困が起きるさまざまな社会的要因に対処すべきです。

 ―自民党政権のもと、とりわけ1990年代後半以降、新自由主義的な経済政策によって格差と貧困が拡大しました。健康格差がいっそう拡大する危険がありますね。

 私は「時限爆弾」だといっています。日本の相対的貧困率は上昇し、OECD(経済協力開発機構)34カ国の中でワースト6位です。所得の不平等、貧富の差を表すジニ係数もワースト10位で、日本はOECD平均より格差が大きく貧困率が高くなっています。格差の大きい国ほど死亡率が高いことが分かっています。

 とくに深刻なのは6人に1人といわれる子どもの貧困率の上昇です。私たちがおこなった65歳以上の高齢者1万5000人規模の調査では、15歳のころの経済階層の自己評価が低いほど、高齢期になって社会的な生活自立度に制限があることが分かっています。これがやがて医療や介護、生活保護費の増加を招かないか。今のままでは社会保障費が予想以上に増える恐れがあると思います。

 OECDは2014年に「格差と成長」というリポートを出しました。OECDの過去30年の分析によると、「所得格差の趨勢(すうせい)的な拡大は、経済成長を大幅に抑制している」としています。

 日本の政府が経済成長を望むなら、なおさら貧困児童を減らし十分な教育を受けられるようにすること、正規雇用と非正規の格差をなくすこと、負担増をやめ必要な医療・介護にアクセスできるように社会保障を充実することなど、格差と貧困を克服し、健康格差を是正することが喫緊の課題だと考えます。

 相対的貧困率 世帯人数を考慮して算出した等価可処分所得を、金額順に全世帯分を並べて真ん中に当たる額(中央値)の半額以下の所得しかない世帯の割合のこと。


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