2016年12月26日(月)
深刻化増す歯科技工士の実態
低賃金・長時間労働…後継者なし 改善急務
保団連アンケート調査
低賃金・長時間労働を強いられ、20〜30代の歯科技工士の離職率は7割強といわれています。歯科技工の人材と技術の継承が危ぶまれるなか、全国保険医団体連合会(保団連)の「歯科技工所アンケート調査」で、問題がいっそう深刻化し、解決が焦眉の課題であることが浮きぼりになりました。(西口友紀恵)
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38都府県の各保険医協会を通じて約1万2千軒の歯科技工所(以下技工所)にアンケートを送付し、約2割の2454技工所が回答しました。宛名不明、廃業などで700軒近くにアンケートが届かず、事態の深刻さが示されました。
回答者の平均年齢は56歳で、50代以上が77%を占めます。開業形態は「個人」が82%、「法人」18%。技工所の規模は「1人」67%、「2〜3人」が21%、「10人以上」は3%。小規模経営が特徴です。
過労死ライン超
1週間の労働時間は「101時間以上」が30代以下、40代ともに2割、50代は「71〜80時間」が19%で、それぞれ最多です。過労死ライン(時間外労働が月80時間)を大きく超えます。「個人」の可処分所得は平均317万円(昨年)。所得区分では「300万円以下」が53%を占めます。
歯科技工物は公定価格で保険点数が決まっていますが、技工士は歯科医師からの委託技工で自由取引となっています。厚生労働省は1988年の「大臣告示」で材料費を引いた製作技工費用の約7割は技工士に配分すると割合を示しましたが、守られていません。
歯科技工物が低価格になる原因について、8割が「技工所間のダンピング競争」を、7割が「歯科医院による値下げ要請」を挙げました。保険技工物の現行料金と希望価格を聞いたところ、すべての取引価格が技工士の希望価格の6割から7割程度と分かりました。
後継者について、50歳以上の「1人技工所」では85%が「いない」とし、全体でも71%が「いない」と回答。
直接保険請求に
「適切な技工料を保障するための有効な方策」として、7割近くが▽歯科医院経由ではなく技工料を直接保険請求できるようにする▽最低価格保障制度▽「大臣告示」の徹底―を求めています。
「徹夜や2、3時間の仮眠でつなぐ日々が続いて、2度自殺しそうになった。現状が知られていないのが問題だ」「技工士1人の技工所の多くは深刻な経営難」「現状の2〜3倍の技工料がないと将来性はない」など、現場の痛切な声が多数寄せられています。
入れ歯などの技工物を提供する歯科技工士の果たす役割は超高齢社会でいっそう重要になります。
保団連の宇佐美宏歯科代表は「問題にきちんと手当てしてこなかった厚生労働省の責任は非常に重大だ」と指摘。「歯科技工物は著しく低い保険点数に据え置かれており、低い歯科医療費の総枠の拡大が欠かせません。実態を広く知らせ、改善へ向けて運動を強めたい」と話しています。